2017年07月01日

お茶の子


「お(御)茶の子」は,例の,

お茶の子さいさい,

の「お茶の子」である。『広辞苑』には,

茶の子,御茶菓子,また間食としてとる軽い食事,
(腹にたまらないところから)たやすくできること,

と意味が載る。前者の意味から,後者へ転じたということなのだろうか。ちょっとこじつけっぽくて,しっくりこない。『岩波古語辞典』には,「茶の子」として,

茶うけ,
彼岸会や法事の供物または配り物,
物事の容易なたとえ,お茶の子とも,

と意味が載る。『江戸語大辞典』には,

茶の子の丁寧語。茶の子が腹の足しにならぬことから転じて,物事の容易・簡単なことのたとえ,

と載る。『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/o/otyanoko.html

も,

「おちゃのこさいさいの『お茶の子』とはお茶に添えて出される茶菓子のことで,簡単に食べられることから簡単にできる喩えになった。また朝食の前に食べる『茶粥』のことを『お茶の子』と言う地方があり,そこから『朝飯前』の意味になったとする説もある。『さいさい』は,俗謡の『のんこさいさい』という囃し言葉をもじったものである。」

とするが,やはり『大言海』の説明が,意を尽くしている。

茶うけ菓子。點心,
朝茶子と云ふは,朝食に,茶粥を用ゐることなるべし,略して,チャノコとも云ひ,朝飯のこととす(今,静岡縣にては,朝飯をアサジャとも,チャノコとも云ふ)
朝の空腹に粥なれば消化(こな)れやすく,腹にたまらぬ意よりして,容易(たやす)きこと,骨折らずできること,又,朝腹の茶の子と云ふ諺も,容易なる意に云ひ,お茶の子などとも云ふ,

と。「茶の子」が「お茶うけ」では,

容易,

という意味にはつながらない。

茶うけ→朝茶子(朝粥)→たやすい,

なら,少し意味が流れる。だから,「お茶の子」は,

「お菓子のこと。お菓子は腹に残らないことから、容易にできること、たやすいことをいう。」(「とっさの日本語便利帳」)

では,意味が飛躍しすぎる。「お茶うけ」は,腹にためるものではない。

腹にたまらない→たやすい,

と転じるには,

お茶うけ→朝茶子(朝粥)→腹にたまらない→たやすい,

と,もう一つ意味の拡大を挟んでいたのではあるまいか。あるいは,『隠語大辞典』に,

間食のことを茶の子といったので手軽な食,

ともあるので,間食も含めた,

お手軽食,

という意味から,たやすい,という意味に転じたというふうにも見られる。

お茶うけ→朝茶子(朝粥)あるいは手軽な間食→腹にたまらない→たやすい,

と,その手軽さが,たやすさへとシフトした,ということなのかもしれない。

『日本語源大辞典』には,

「朝食前,起きぬけにとる間食をオ茶ノ子と言うので,朝飯前の同義語としていう」(日本古語大辞典)

と言う説を載せている。つまり,ただの間食ではなく,

朝飯前の起きぬけの食事,

ということだから,正確には,

お茶うけ→朝茶子(朝粥)→腹にたまらない→たやすい,

の流れに,「朝飯前」という意味が重なる。それが,たやすいという意味と直接的につながっていく。

『日本語の語源』は,

オチャヅケノゴハン(お茶漬けの御飯)→オチャノコ(お茶の子),

と変化したという説を載せる。これを取るなら,もともとあった,

お茶の子,

とは別に,起きぬけの朝粥(あるいは茶漬け)を略して「茶の子」と言うようになった流れがあり,「お茶の子」に二重の意味が重なったのではないか。つまり,

お茶漬けの御飯→お茶の子,

が,本来の「お茶の子さいさい」の原点なのだが,それに,もともとあった,「茶うけ」の「茶の子」と重なった,というように。『日本語源広辞典』は,

「お茶の子(農民の朝飯前の代用食)+サイサイ(囃し言葉)」

と,よりクリアに,「お茶の子さいさい」の「お茶の子」の出自を明確化している。まさしく,

朝飯前,

なのだ。だから,たやすい意とつながる。これに「茶うけ」の「茶の子」の意味が重なったほうが言葉の陰翳は深まるような気がする。

当然,「お茶の子さいさい」の「さいさい」は,囃し言葉で,

https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q118231596

に,

「『よいよい』とか『おいおい』のように、はやすときにつかう言葉なんです。」

と,あるいは,

http://www.asahiinryo.co.jp/entertainment/zatsugaku/japanesetea02-1.html

に,

「民謡などの囃子である『さいさい』

とある。

参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)


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