「まぐろ」は,
鮪,
と当てるが,『広辞苑』には,
眼黒の意,
とある。『大言海』には,
「眼黒の義,或いは云ふ,真黒かと」
とある。
「まぐろ」については,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%B0%E3%83%AD
に詳しいが,そこにも,
「日本語の『マグロ』は目が大きく黒い魚であること(目黒 - まぐろ)に由来するという説がある。
他にも保存する事が困難とされた鮪は、常温に出しておくとすぐに黒くなってしまう為、まっくろ→まくろ→まぐろ。と言われるようになったと言う説も存在する。」
とある。ついでながら,
「現代の日本語では、マグロ属の中の1種であるクロマグロ(学名:Thunnus orientalis)のみを指して『マグロ』と呼ぶ場合も少なくない。また、『カジキマグロ』(カジキの俗称)および『イソマグロ』(イソマグロ属)は和名に『マグロ』を含むが、学術上はマグロ(属)ではなく、生物学の成立以前から存在した通俗名(梶木鮪、磯鮪、など)を引き継いだものである。
英語名 Tuna は『マグロ』と日本語訳されがちであるが、実際は上位分類群のマグロ族 (Thunnini) 全般を指し、マグロだけでなくカツオ、ソウダガツオ(マルソウダ、ヒラソウダ)、スマなどを含む。」
とある。「ツナ」にカツオが含まれるのは意外である。なお,「まぐろ」は,
サバ科マグロ属,
である。また,成長の度合いに応じて,
メジ(30~60センチの幼魚),
シビ(成魚),
かきのたね(稚魚),
等々という呼び名があるそうである。
「縄文時代の貝塚からマグロの骨が出土している。古事記や万葉集にもシビの名で記述されており、『大魚(おふを)よし』は、『鮪』の枕詞」
とか。『岩波古語辞典』には,
「大魚よしシビつく海人よ」(古事記)
と例が載る。さらに,
「江戸の世相を記した随筆『慶長見聞集』ではこれを『しびと呼ぶ声の響、死日と聞えて不吉なり』とするなど、その扱いはいいものとはいえなかった。これは鮮度を保つ方法が無く、腐敗しやすいことが原因である。かつては魚介類の鮮度を保つには、水槽で生かしたまま流通させる方法があったが、マグロの大きさではそれが不可能であった。また干魚として乾燥させる方法もあるが、マグロの場合は食べるに困るほど身が固くなる(カツオの場合は、乾燥させた上で熟成させ、鰹節として利用したが、マグロはその大きさから、そういった目的では使われなかった)。唯一の方法は塩漬にする事だが、マグロの場合は食味がかなり落ちたため、下魚とされ、最下層の庶民の食べ物だった。」
とある。事実『江戸語大辞典』には,「まぐろ」の項に,
「しび・かじき・きわだ・びんなが(実はサバの一種)等の総称。総じて下賤の食用なれど,きわだを上,かじきを中,しびを下とする。安永七年・一事千金『まぐろのさし身にどじやうの吸い物,ふわふわなどでせいふせんととのへ』」
とある。「かじき」より下だったらしい。
(クロマグロ(英名/Aibacore,Bluefin tuna))
閑話休題。
『語源由来辞典』には,
http://gogen-allguide.com/ma/maguro.html
「眼が黒いことから『眼黒(まぐろ)』の意味とする説と,背が黒く海を泳ぐ姿が真っ黒な小山に見えることから『真黒(まぐろ)』の意味とする説とがある。マグロはどれも目が黒いため,眼黒の説が妥当と考えられるが,マグロの代表がクロマグロであるため,真黒の説も捨てがたい。大型のものを『シビ』,小型のものを『メジ』と呼ぶこともある。
『鮪』の『有』は,『外側を囲む』という意味で,『鮪』の漢字には,大きく外枠を描くように回遊する魚の意味がある。」
とある。大体,語源はこの二説で,
http://www.yuraimemo.com/48/
も,語源について,
「有力な説は二つ。目が黒いことから『眼黒(まぐろ)』という説と、背中が黒く、泳ぐ姿が真っ黒な小山に見えることから『真黒(まぐろ)』としたという説。マグロは種類に関係なくどれも目が黒いため、眼黒が有力とされているようです。」
としている。二説というが,正確には,本体自体の黒さと,群れをなす姿が小山のように黒いのとはちょっと違う。『日本語源大辞典』『は,
真黒の義(物類称呼・名言通・日本語原学),
眼黒の義(言元梯),
海で泳ぐ姿が,小山のような背が真黒であることから(『語源大辞典』)
と区別する。『日本語源広辞典』は,
説1。目が黒い,
説2。海中で,魚体が黒く見える大魚,
説3。真っ黒な潮,っもまり黒潮に乗ってくる,
と三説を挙げ,どちらを取るかの定説はないとする。いずれにしろ,
黒色,
という見かけから来たもののようだ。では,「しび」「めじ」の語源は,『大言海』は,「しび」を,
繁肉(ししみ)の約転,
「めじ」を,「メジカ」の約とし,「めじか」については,
「目鹿の義。鹿に似たれば云ふと云ふ。或いは云ふ。眼近の義かと」
とある。「めじか」については,これ以上わからないが,「しび」については,『日本語源広辞典』には,
「『シビ(脹れる意)』です。よく肉ののった魚の意」
とあり,『日本語源大辞典』に,
シシベニ(肉紅)の義(日本語原学),
煮ると白くなるところからシロミ(白身)の義(名言通),
ときによりシブイ(渋い)味がしてしびれるところから(本朝辞源),
のみが載る。「しび」という言葉を嫌うせいか,今日あまり使われない。
参考文献;
http://www.zukan-bouz.com/syu/%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%9E%E3%82%B0%E3%83%AD
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm