さけ


「さけ」は,

酒,

と当てるが,この「酒」の字は,

「酋(シュウ)は,酒つぼから発酵した香りの出るさまを描いた象形文字で,酒の原字。酒は『水+酉(さけつぼ)』で,もと,絞り出した液体の意を含む」

とあり,「酋」の字は,

「つぼの中に酒がかもしだされて,外へ香気がもれ出るさまを描いたもの。シュウということばは,愁(心が小さく縮む)・就(ひきしめる)などと同系で,もと,酒をしぼる,しぼり酒の意であったが,のち,それを酒の字で書きあらわし,酋はおもに,一族を引き締めるかしらの意にもちいるようになった。」

とある。ついでに,「酉」の字は,

「口の細い酒つぼを描いたもの。のち,酒の字に関する音符として用いる。」

どうやら,「酉(とり)」の意は,「作物をおさめ酒を抽出する十一月」というところからきたようだ。

酒.gif


http://kanji-roots.blogspot.jp/2012/03/blog-post_26.html

には,「酒」は,

「会意文字であり、形声文字でもある。甲骨の字の酒の字は『酉』の字である。即ち酒瓶の象形文字である。両側の曲線は酒が溢れ出している様を表し、また酒の香りが四散しているとも理解できる。金文の酒の字は水の字を用いて、酒が大きな酒瓶に入った液体であることを強調している。 
 小篆の酒は左側に水の字を加え、液体であることが強調されている。右辺の『酉』は盛器を表示している。楷書は小篆を引き継いでいる。」

とある。

さて,「さけ」の語源だが,『広辞苑』には,

「サは接頭語,ケはカ(香)と同源」

とあるが,『岩波古語辞典』には,

「古形サカ(酒)の転」

と載る。しかし,『大言海』には,

「稜威言別四に,汁食(しるけ)の転なりと云へり。シルケが,スケと約まり,サケと転じたなむ(進む,すさむ。さかしま,さかさま。丈夫(マスラヲ)もマサリヲの転ならむ)。酒を汁(しる)とも云ふ。上代に,酒と云ふは,濁酒なれば,自ら,食物の部なり。万葉集二,三十二『御食(みけ)向ふ,木缻(きのへ)の宮』は,酒(き)の瓮(へ)なりと云ふ。土佐日記には,酒を飲むを,酒を食(くら)ふと云へり。今も,酒くらひの語あり,或は,サは,発語にて,サ酒(キ)の転(サ衣,サ山。清(キヨラ),ケウラ。木(キ)をケとも云ふ)。即ち,サ食(ケ)と通ずるか。沖縄にては,サキと云ふ(栄えの約とする説は,理屈に落ちて,迂遠なり)」

とあり,

古語,酒(キ),みき,みわ,しる,みづ,あぶら,

と,異称をならべる。ちなみに,「き(酒)」の項には,

「醸(かみ)の約,字鏡に『醸酒也,佐介加无』とあり。ムと,ミとは転音」

とあるし,「しる(醨)」については,

「液(しる)の義。酒の薄きもの,もそろ」

とある。「もそろ(醨)」は,酒の薄い物のことのようだが,「倭名抄」の,

「酒類(あまざけ)類『醨,之流,一云,毛曾呂,酒薄也』」

あるいは,「名義抄」の,

「醦,モソロ,モロミ,ニゴリザケ,カスコメ,ゴク」

を引く。どうやら,「甘酒」のように薄いもののようだ。

『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/sa/sake.html

は,

「『さ』は接頭語『さ』で、『け』は酒の古名『き』の母音変化が有力とされる。」

とする。『日本語源広辞典』は,三説載せ,

説1は,「栄え+(水)」が語源で,酒の語根サケは,栄,盛,幸,咲と通じる,
説2は,「ササ(醸造酒)+キ(酒・音韻変化でケ)」で,醸造した水の意,
説3ハ,サ(純粋)+ケ(内にこもる味,香)」で,香り良き水の意,

とするし,『日本語源大辞典』は,

シルケ(汁食)の転。酒は濁酒であったので,食物に属した(稜威言別),
サは発語,ケはキ(酒)の転か(大言海),
米を醸してスマ(清)したケ(食)の意で,スミケ(清食)の義か(雅言考),
スミキ(澄酒)の約(和訓集説),
おもに神饌に供する目的で調進せられたものでアルトコロカラ,サケ(栄饌)の転(日本古語大辞典),
サケ(早饌)の義(言元梯),
サカエ(栄)の義(仙覚抄・東雅・箋注和名抄・名言通・和訓栞・柴門和語類集),
飲むと心が栄えるところからサカミズ(栄水)の下略サカの転(古事記伝),
風寒邪気をサケルトコロカラ,サケ(避)の義(日本釈名),
暴飲すれば害となるのでトホサケル(遠)意からか(志不可起)
サは真の義(三樹考),
サラリと気持ちがよくなるところから,サラリ気の義(本朝辞源),
本式の酒献は三献であるところから,「三た献」を和訓してサケといったもの(南留別志・夏山雑談),
飲めば心のサク(咲・開)ものからサカ(酒)が生じ,イが関与してサケになったもの(続上代特殊仮名言葉),
「酢」の音sakが国語化したもの(日本語原考),
 
等々挙げるが,どれも語呂合わせで,ピンとこない。なんとなく,「キ」が,御酒と通じる気がしてならない。だから,御神酒は,屋上屋なのではないか。

酒の古名は,「サケ」「ミキ」「クシ」「ミワ」,として,

http://www.maff.go.jp/kinki/seibi/ikeq/setumei/no06/page03.htm

では,

「『古事記』には『サケ』という記述が全部で10カ所出てくる。たとえば、『八塩折之酒』(やしおおりのさけ)、『待酒』(まちさけ)、『甕酒』(みかさけ)などで、また『日本書紀』には19カ所(八醞酒(やしおりのさけ)、八甕酒(やはらさけ)、毒酒(あしきさけ)、天甜酒(あまのたむさけ)、味酒(うまさけ))などが出てくる。『ミキ』については、『古事記』に26カ所出てきて(美岐(みき)、登余美岐(とよみき)、意富美岐(いとみき)など)、『日本書紀』には15カ所(大御盞(おみき)、弥企(みき)、瀰枳(みき)など)出てくる。じつはこの『サケ』と『ミキ』がサケ古名の大半で『クシ』となると『古事記』には2カ所(具志(くし)、久志(くし)、日本書紀には1カ所(区之(くし))しか出てこない。『ミワ』という古名は『古事記』にはみあたらず、『日本書紀』に1カ所「神酒」(みわ)というところが見えるだけである。」

として,それぞれの由来を詳細に辿っている。その中で,「ミキ」について,

「『ミ』は接頭語であるから、問題は『キ』である。実は酒の古語である『サケ』、『ミキ』、『クシ』などが登場して来る前の古語では『キ』だけであった。江戸時代中期の儒者・新井白石はそのあたりのことを徹底的に調べて、古語時代は食べることまたは食べ物を『ケ』、飲み物はそれが転じて『キ』となったと述べている。そういえば天皇の食事の料は『御食』(みけ)、『御饌』(みけ)であり、今日でも朝食のことを『朝餉』(あさげ)、夕食のことを『夕餉』(ゆうげ)という言い方も残っている。つまり、酒を『キ』といったのは、酒は神聖で食べ物、飲み物の最高の者として位置づけ、飲食物の総称として『ケ』を与えた。その『ケ』が『キ』に転化したというわけである。」

とする,

ミ+キ(酒の古形)

が,やはり説得力がある。とすると,「さけ」の「ケ」も古形「キ」と考えるのが妥当な気がする。『大言海』の,

「サは,発語にて,サ酒(キ)の転(サ衣,サ山。清(キヨラ),ケウラ。木(キ)をケとも云ふ)」

が注目される。

参考文献;
http://kanji-roots.blogspot.jp/2012/03/blog-post_26.html
http://www.maff.go.jp/kinki/seibi/ikeq/setumei/no06/page03.htm


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