2017年08月01日

ぬけぬけ


「ぬけぬけ」は,

抜け抜け,

と当てるが,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/452281880.html?1501444442

で触れた「しゃあしゃあ」と似た意味で,

厚かましい,

意味だが,由来は少し違う。『広辞苑』には,

次第に列を離れてゆくさま,ひそかに逃れ出るさま,

という意味があり,その上で,

巧みに言い抜けをするさま,
知って知らないふうをする,
しらじらしいさま,
厚かましいことを平気でするさま,
愚鈍で,他に欺かれるさま,

とあるので,明らかに,

蛙の面に水,

と「しゃあしゃあ」という擬音語と繋がりそうな,「しゃあしゃあ」とはどこか違う含意がある。『大言海』には,

ぬけぬけと,

で載り,

鉄面皮なる状に云ふ語,

の前に,

他に謀(たばか)られて,智の足らぬ状に云ふ語,

とある。例を見ると,

「大将は,ヌケヌケトしなされ」(盛衰記),
「ヌケヌケト判官に相続きていく」(同),

が載り,相手に「ぬけぬけ」としてやられる,という状態を指す。『岩波古語辞典』を見るともっとはっきりする。

目立たないようにこっそりと抜け出す(「先駈けの兵(つわもの)ども,ぬけぬけに赤坂の城へ向かって討死する由」(太平記)),
いかにも抜けているさま(「虯(きゅう)ぬけぬけとして帰りぬ」(沙石集)),
あつかましいさま,しはらばっくれているさま(「噓ばかりぬけぬけと云ふて」(難波鉦)),

と意味が載る。この意味の転換を,想像するなら,最初は,どうやら,

集団からそっと抜けでる状態表現,

であったと推測される。その場合,逃亡とは限らない,抜け駆けのために抜け出る,という意味もある。つまり,そこにれ背是の価値判断はない。しかし次に,それをされた側の,

知らんふりをするというか,平然とする,

という状態表現へと転化し(その場合必ずしも厚かましいという悪い意味だけではない),やがて,その状態の,

平然とした状態,

の価値表現へと変り,その主体の状態が,

愚かしく,
愚鈍,

と見えるという価値表現を挟んで,それをする相手へ転嫁して,相手の,

図々しい,
厚かましい,

と価値表現いう意味にシフトしていく,という感じであろうか。あるいは,功名を焦るにしろ,逃げるにしろ,集団を密かに抜け出る態度が,集団の正否を無視した,

厚かましさ,

という意味になったのかもしれない。もしこういう流れなら,最初は,いわゆる,

抜駆け,

の状態の表現だったのではないか。「抜駆け」とは,

「主将・部将の命令によって行動することが戦(いくさ)の不文律であるが,功を焦った武士の中には往々自分の判断で奇襲攻撃をすることがある。これを抜駆という。味方に悪影響のないときは,暗に功名と認められるが,抜駆行為によってかえって味方が敗れたり,討死する例が多いので,原則としては禁じられていた。それでも抜駆は軍記物にもよく出てくるのである。『太平記』笠置軍条にも,『高橋又四郎抜駆して独り高名に備へんとや思けん。纔(わずか)に一族の勢三百余騎を率して笠置の麓へと寄りたりけり』とあるが,後世は抜駆して功を立てても認められず,逆に罰せられることもあった。」

というもので,「ぬけぬけ」の意味の変化には,抜駆けへの功罪の変化が反映しているのかもしれない。戦国後期からの戦法そのものの変化という背景が想像できる。

『擬音語・擬態語辞典』には,「ぬけぬけ」について,

「室町時代には,おもに『ぬけぬけ』の形で,『人が集団からひそかに一人一人抜け出ていく様子』を表していた。『兵衛佐の郎従どもをば兼ねて皆抜け抜けに鎌倉へ遣わしたり』(太平記)。『日葡辞書』では『ぬけぬけに参る』を,『徐々にこっそりやってきた』と解説している。また,『ぬけぬけと』の形で,『間の抜けた様子・愚かな様子』の意味も表した。『子細を問へば返事もせず。ぬけぬけとぞ見えける』(沙石集)。ともに『抜ける』から派生した語であった。現代と同じ意味になるのは江戸時代からで,愚かな人が他人を気遣わないで行動するところから派生したのだろう。」

とある。しかし,

「愚かな人が他人を気遣わないで行動するところから派生したのだろう。」

とは,如何であろうか。なお,江戸時代には,「ぬくぬく」で「ぬけぬけ」の意も表した,とするが,『江戸語大辞典』には,「ぬけぬけ」も載らない。

参考文献;
笹間良彦『図説 日本戦陣作法事典』(柏書房)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)


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posted by Toshi at 05:38| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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