2017年08月10日

すごすご


「すごすご」は,辞書によっては(『デジタル大辞泉』『大言海』),

悄悄,

と当てるものがある。『広辞苑』は,この字を当てていないが,

「失望し,また,興ざめて立ち去るさま,がっかりして元気のないさま」

の意味が載る。『大言海』は,

「興,醒めて,草々に去る状,物気なく,逃げ帰る状などに云ふ語」

とある。

そこそこ,
こそこそ,
しおしお(しほしほ),

等々が類義語のようだ。『大辞林』には,

悄悄,

と当てて,「すごすご」以外に,

しょうしょう(せうせう),

と読ませて,

元気のないさま,
静かなさま,

の意を載せる。『大言海』は,「せうせうと」の項で,

「萎萎(しおしお)と,憂ふる状に云ふ語,悄然と」

と意味を載せる。どうやら漢字「悄」の字から来たものらしい。「悄」の字は,

「肖(しょう)は,小さく細く素材を削って似姿をつくることで,小と同系。悄は『心+音符肖』で,細く小さく,しょんぼりとした気持ちになること」

なので,「悄悄」は漢字由来と考えていい。

「すごすご」は,『擬音語・擬態語辞典』によると,

「それ以前には旺盛であったはずの元気や勢いをなくして,小さくなっていく様子。また,落胆してさびしげな感じをいう時にも用いる。」

とあり,

「何かに挑んだが,何ものかに阻まれて力及ばず,思い通りの結果が出せなないままに引き下がってくる時の意気消沈した感じに用いられる。」

とある。

「鎌倉時代から用例がある。現代と同じく落胆している様子のほか,一人でいる様子をも表した。室町末期の『日葡辞書』でも,『すごすごと』は,『物寂しくしているさま,または,ただひとり居るさま』と説明されている。」

とある。

「維行(これゆき)力及ばずしてただ一騎スゴスコとぞ控えたる」(保元物語)

の用例が,『岩波古語辞典』に載る。語源ははっきりしないが,擬態語の気配である。類義語,「しおしお(しほしほ・しをしを)」は,

萎萎,

と当てる例もあるが,

しとしとと濡れるさま,涙・雨などについていう,

とあり,どうやらその状態表現が転じて,というか,その状態をメタファに,

悲しくさびしそうなさま,悄然,

に意味を広げていったと見える。当然,

しおたれる(塩垂れる・潮垂れる),

という言葉が類推される。「塩垂れる」は,『広辞苑』には,

塩水に濡れて雫が垂れる,
転じて,涙で袖が濡れる,

さらに意味が転じて,

元気がない様子になる,

という意味になる。とあるが,『岩波古語辞典』には,

雫が垂れる,ぐっしょり濡れる,
涙にくれる,
みすぼらしい様子になる,貧相に元気のない様子になる,

の意味を載せる。「塩(潮)」は当て字ではないか。「しおたれる」に似た「しおれる」について,『日本語源広辞典』は,

「シホル(生気を失う)の下二段口語化」

とある。「しほる」は,

しをる,
しをれ,

であり,『岩波古語辞典』には,

「植物が雪や風に押されて,たわみ,うなだれる意」

とある。『大言海』は,

「撓ひ折る意か,或いは荒折(さびを)るるの約かと云ふ」

とある。つまり,

しおれた,

という状態表現なのである。このあたりが「しおしお」の由来と思われる。『擬音語・擬態語辞典』には,

「『源氏物語』の『しほしほと泣き給ふ』の『しほしほ』は,涙に濡れる様子を,江戸時代の女房詞『しほしほ』は涙の意を表した。室町末期の『日葡辞書』の『しをしを』には,『人が力をおとしたり,意気消沈したりして萎れるさま』とある。
 『しおしお』は,草木などが生気を失う意を表す『しをれる』の『しを』と関係がある。」

とし,「すごすご」「しょぼしょぼ」と「しおしお」を対比して,

「『しおしお』は元気なくしおれるような様子を表すのに対して,『しょぼしょぼ』は元気なく寂しそうで,しぼむような様子。『すごすご』は,目的が達成できず元気なくその場を立ち去る様子を表す。」

としている。「すごすご」には,その萎れた状態に至る背景がうかがえるだけ,「しおしお」よりはまし,ということか。ついでに,類義語「しょぼしょぼ」「しょんぼり」に触れておくと,「しょんぼり」は,

気落ちして沈んでいる様子,

だが,『日本語源広辞典』によると,

「しょぼしょぼ(擬態語)+り(副詞化)」

とあるし,『大言海』には,

「ションバは,ショボショボの,ショボの音便化」

ともある。つまりは,「しょんぼり」は,「しょぼしょぼ」から転化した語ということになる。今日も,

しょぼい,
しょぼくれる,

という言い回しの中に生きている。

で,「しょぼしょぼ」は,『擬音語・擬態語辞典』には,

雨が弱々しく陰気に降り続けること(古くは「そぼそぼ」と言った),
木や髪,髭がまばらに生えていて,みすぼらしい様子,
疲労・眠気・涙・まぶしさ・心労・老化などのために,目を見開いていられず,力なくまばたきをする様子,
体力や気力が衰えて,弱々しく哀れな様子,

と,この派生語の,

しょぼん,
しょんぼり,

と比較すると,

「『しょぼん』は,『しょぼしょぼ』よりも急に,勢いや元気をなくす様子,『しょんぼり』は『しょぼしょぼ』よりもはっきりと気持ちのおちこみが外側に現われている様子」

なのだという。「すごすご」も「しおしお」も「しょぼしょぼ」も「しょんぼり」も,言ってみれば,

悄然,

の一言で尽きる。しかし,擬態語の豊富さは,その状態を具体的に示すのに利はあるということがよく分かる。

参考文献;
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)


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posted by Toshi at 05:18| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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