2017年08月19日

たたかう


「たたかう」は,

戦う
闘う,

と当てる。漢字の違いを先に見ておくと,「戦(戰)」の字は,

「單(単)とは,平らな扇状をした,ちりたたきを描いた象形文字で,その平面でぱたぱたとたたく。戰(戦)は,『戈+音符單』で,武器でぱたぱたと敵をなぎ倒すこと。憚(タン はばかる)に通じて,心や皮膚がふるえる意に用いる。」

とある。ちなみに,「戈」は,「ほこ」の意で,

「とび口型の刃に縦に柄をつけた古代のほこを描いたもので,かぎ型にえぐれて。敵をひっかけるのに用いる武器のこと。後,古代の作り方と全く違った,ふたまたのやりをも戈と称する。」

という。「干戈」で,戦争の意となる。「鬥(トウ たたかう)」は,象形文字で,

「二人の人が手に武器をもち,立ち向かってたたかう姿を描いたもの」

で,「互いに譲らず,たたかう」という意になる。

「闘(鬪)」の字は,

「中の部分の尌(ジュ)は,たてる動作を示す。鬪は,それを音符とし,鬥(二人が武器をもってたち,たたかうさま)を加えた字で,たちはだかって切りあうこと。闘は,鬥を門にかえた俗字で,常用漢字に採用された。」

という。「鬪」と「戰」の使い分けには,

戰の字は,叩きあう義,
鬪の字は,勝をあらそふ義,
鬨の字は,ときの声をあげて戰ふ義,

という区別があるらしい。とすると,「たたかう」は,『広辞苑』によれば,

「タタ(叩)クに接尾語フのついた語」

とあるから,本来は,

戰,

の字を当てるべきなのかもしれない。「闘う」と「戦う」の区別は,今日,

「武力を用いて争う場合やスポーツなど,広く一般に『戦』を用い,利害の対立する者が争ったり,障害や困難に打ち勝とうと努めたりする場合は,多く『闘』の字を用いる。」

と,『広辞苑』にあるし,『大辞林 第三版』にも,

「『戦う』は“戦争する。勝ち負けを争う”の意。『敵国と戦う』『選挙で戦う』『優勝をかけて戦う』
 『闘う』は“困難などを克服しようとする”の意。『労使が闘う』「難病と闘う」『暑さと闘う』〔ともに『格闘する・争う』意で用法も似ているが、『戦う』の方をより広義に用い、『闘う』は『格闘する』意に限定して、比較的小さな争いに用いられることが多い。また、比喩的に、見えないものとの精神的な争いにも『闘う』を用いる〕

あるので,勝負事は,「戦」の字,自分に打ち勝つ,格闘・闘争の場合は,「闘」の字,という用例らしい。どちらかと言えば,「闘」の方が,個人の姿勢を示している印象がある。

なお,『岩波古語辞典』にも,

「タタキ(叩)に反復・継続の接尾語ヒのついた語。相手を繰り返し叩く意。類義語アラソヒは,互いに我を通そうと抵抗し合う意。イサカヒは,互いに相手を拒否抑制し合う意。」

とあり,接尾語「ひ」についても,

「四段活用の動詞を作り,反復・継続の意を表す。例えば,『散り』『呼び』と言えば普通一回だけ散り,呼ぶ意を表すが,『散らひ』『呼ばひ』といえば,何回も繰り返して散り,呼ぶ意をはっきりと表現する。元来は四段活用の動詞アヒ(合)で,これが動詞連用形の後に加わって成立したもの。その際の動詞語尾の母韻の変形に三種ある。①〔a〕ちなるもの。例えば,ワタリ(渡)がワタラヒとなる。watariafi→watarafi。②〔o〕となるもの。例えば,ウツリ(移)がウツロヒとなる。uturiafi→uturofi。③〔ö〕となるもの。例えば,モトホリ(廻)がホトホロヒとなる。m ö t ö f ö riafi→m ö t ö f ö r ö fi。これらの相違は語幹の部分の母韻,a,o, öが末尾の母音を同化する結果として生じた。」

と詳説を極めるので,決まりかと思いきや,そうはいかないらしい。まず,『大言海』は,

「楯交(たてか)ふの転。楯突く意と云ふ」

とある。『日本語源広辞典』は,

タタカ(叩くの未然形)+フ(継続反復),
タタ(盾)+交ふ,

の二説を挙げる。しかし,『日本語源大辞典』は,その他に,「叩く」系のバリエーションとして,

タタキアフ(叩合)(日本釈名・言元梯・和訓栞・国語の語幹とその分類・日本語原学・和訓考),
タタキカハス(叩交)(和句解・名言通),

等々がある。いずれにしても,「たたかう」には,漢字の,

戰,
鬪,

の両義があることが見えてくる。つまり,

叩き合う,
のと
干戈を交える,

のとの意味である。しかし,「かたな」

http://ppnetwork.seesaa.net/article/450320366.html

で触れたが,

『日本語の語源』は,関連ある言葉の音韻変化を,次のように辿る。

「きっ先の尖った諸刃のヤイバ(焼き刃)をツラヌキ(貫き)といった。ラヌ[r(an)u]の縮約でツルギ(剣)になり,貫通・刺突に用いた。これに対して斬りつけるカタノハ(片の刃)は,ノハ[n(oh)a]の縮約でカタナ(刀)になった。上代,刀剣の総称はタチ(断ち,太刀)で,タチカフ(太刀交ふ)は,『チ』の母韻交替[ia]でタタカフ(戦ふ)になった。〈一つ松,人にありせばタチ佩けましを〉(記・歌謡)。平安時代以後は,儀礼用,または,戦争用の大きな刀をタチ(太刀)といった。
 ちなみに,人馬を薙ぎ払うナギガタナ(薙ぎ刀)は,『カ』を落としてナギタナになり,転位してナギナタ(薙刀・長刀)に転化した。」

つまり,

「『太刀を交えて斬りあう』ことをタチカフ(太刀交う)といったのが母韻交替(ia)でタタカフ(戰ふ)となった」

とする説が,

叩き合う,
のと
干戈を交える,

の意を含み,しかも音韻変化の文脈を背景にするだけに説得力があるように思うが,どうであろうか。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm

ラベル:たたかう 戦う
posted by Toshi at 05:11| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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