さめ


「さめ」は,

鮫,

と当てるが,

ふか(鱶),

とも言う。さらに,古くは,

わに,

とも言った。

http://allfishgyo.com/266.html

には,

「昔は『サメ=ワニ』と呼んでいました。有名な話で、古事記に出てくる因幡の白兎では、ウサギがワニをだましたために、皮を剥がされてしまうという件があります。ここで出てくる『ワニ』とは『サメ』の事だといわれています。
今でも山陰地方付近では『ワニ』と呼んでいます。」

(『大言海』にも「山陰道にては,鮫を,和邇(わにと云ふ)」とあるが)さらに,

「中部地方から南では、サメの事をフカと呼ぶ地方があります。また、小さいサイズをフカと呼び、大きいサイズをサメというところや、全ての種類を鮫、凶暴なものをフカと呼ぶなど統一はされていません。いずれにしても、サメが正式名称で、フカは俗名です。」

としている。

https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1045398340

では,

「天保年間の大阪江戸風流ことばあわせに『大阪にてふか、江戸にてさめ』という記述があり、フカはサメの地方名と考えられ、大阪文化の影響が色濃い中国、四国、九州地方ではフカと呼ぶことが多いようです。」

とある。『江戸語大辞典』には,「ふか」は,

「(鮫の)大型のもの」

とあり,地域によっては,呼び名が違う,というところでいいのかもしれない。

http://zatsuneta.com/archives/002057.html

も,

「フカは、サメのことである。関西では区別しないが、関東ではサメの中で大型のものをフカという。」

としている。しかし,

https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1014316105

は,

「サメとフカは同じもので学術的にはサメと呼ぶのが正しいとのこと。東日本では普通はサメと呼び、特に大きなものをフカと呼ぶ。これが西日本ではまったく逆で普通はフカといい大きなものをサメというらしい。」

とあり,真偽は,聞いて確かめるほかはないが,「フカヒレ」の「フカ」といったように,いまは,特殊に「フカ」が残っているだけなのかもしれない。

「鰐」について,

http://www.nihonjiten.com/data/46586.html

は,

「古くは、出雲や隠岐島の方言でサメの大型の種類である鱶(フカ)や撞木鮫(シュモクザメ)を『ワニ(和邇)』『ワニザメ』と呼んだとされる。(ただし、それが実際の爬虫類のワニを指していたとも考えられる。)爬虫類のワニを目にし、ワニに鱶や撞木鮫の方言「ワニ」を当てたとする説があるが、当てた理由は不詳。他に、「ワニ」は、「海(ワタ)主(ヌシ)」が転じた説、大きい口の様子から「割醜(ワレニクキ)」の意が転じた説、「ワン」と口を開けることに由来する説などがある。これらの説が、爬虫類のワニを指したのか、中国から伝承された四足の魚を指しているのか不詳。漢字表記「鰐(ガク)」は、日本では古くから「ワニ」と訓読みされるが、それも実際の爬虫類のワニを指したかは不明。なお、「咢(ガク)」や異体字「噩(ガク)」は、おどろかす意を表す。」

としている。「鰐」の字が,もともと爬虫類を指していたとすれば,この字とともに,「ワニ」が入ってきたことはあり得るが,中国でも,インドシナ半島まで勢力圏に治めていた時代,そこには「鰐」が棲息する。「鰐」の実物を知っていた可能性はある。で,『日本語源大辞典』は,

「爬虫類のワニは日本近海では見ることがないので,上代のワニは日本近海では見ることがないので,上代のワニは,後代のワニザメ・ワニブカ等の名から。サメ・フカの類と考えられている。『新撰字鏡』『和名抄』では『鰐』にワニの訓を注するが,おそらく強暴の水棲動物として『鰐』の字が選ばれたまま,中国伝来の四足の知識が定着し,近世に至って爬虫類としての実体に接することになったと思われる。」

としている。

さて,「鮫」の字は,

「魚+音符交(まじわる,体をくねらせる)」

で,「さめ」を意味する。

http://zatsuneta.com/archives/002001.html

は,

「サメの漢字は、魚へんに『交』の『鮫』で、つくりの『交』は『交える』という意味で、『上下のきばを交え、むき出す魚』=サメとなった説がある。また、『鮫』は『刀の鞘(さや)の飾り』の意味もある。沙皮(さめがわ)は鞘や柄(つか)の飾りとして使用されたため、その皮を持つ魚に『鮫』の字が当てられたという説もある。他にも、サメは雌雄が体を交わらせて交尾をすることに由来する説もある。」

とある。確かに,『和名抄』には,

「鮫,佐米,魚河有文,可以飾刀剣者也」

とある。また,

http://www.nihonjiten.com/data/45614.html

も,

「『交』は、上下の鋭い歯を交える様からとする説、魚類の中では珍しく交尾をすることに由来する説がある。なお、中国語では『鯊』がサメ類を指す。」

とあるが,『漢字源』は,「鯊」の字について,

「『魚+音符沙(すな)』で,はぜのこと。また『魚+音符紗(さらさらしたうす絹)』。さめ皮が紗に似ているので,さめを言う。」

とあるので,単純には「中国語では『鯊』がサメ類を指す」とは言えないようだ。

「鱶」の字は,

「魚+養(栄養がある)」

で,干した魚の意味であり,「さめ」の意は,わが国だけの用法のようだ(『漢字源)。

http://zatsuneta.com/archives/002057.html

も,

「『鱶』は本来、魚の干物を意味する漢字である。つくりの『養』には『日に当てる』という意味があり、『日に当てた魚』=干物を指す。また、『鱶』の字は、サメが卵胎生(らんたいせい:メス親が卵を胎内で孵化させて子を産む繁殖形態)で『子を養う魚』に由来するという説がある。」

としている。

さめ.png



さて,「さめ」の語源について,『広辞苑』『大言海』は,

「狭目(さめ)の意」

とするが,諸説ある。

http://www.nihonjiten.com/data/45614.html

は,

「眼が小さいからから『狭目(サメ)』・『狭眼(サメ)』・『少々目(ササメ)』の意からとする説、『サ(接頭語)ミ(魚介の肉)』が転じた説、皮が砂(粒)のようにザラザラしていることから『沙魚(サミ)』・『皮目(カハメ)』、鮫肌の意・『寒体(サムミ)』に由来する説、斑紋があることから『斑魚(イサメ)』が転じた説など、他にも諸説ある。」

とし,『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/sa/same.html

は,

「サメは,『狭目・狭眼(さめ)』の意味とする説が多い。しかし,サメの目は体に比べて小さいとは言えるが,狭い(細い)とは言えない。目の大きさを語源とするならば,一億分の一の単位を表し,非常に小さい粒を意味する『沙』で『沙目(さめ)』もしくは,『小目(さめ)』の方がよいであろう。目の大きさに関係ないとすれば,『メ』は魚につける指称辞として用いられる語であり,古くはクジラが『イサナ(磯魚)』と呼ばれていたことから,『イサメ(磯魚)』の上略とも考えられる。またアイヌ語でも,『サメ』は『サメ』『シャメ』と言い,アイヌ語が和語に入ることはあっても,和語からアイヌ語に入ることはないことから,アイヌ語説は有力視されている。ただし,アイヌ語から和語になった動物は,もともと寒い地域に棲息するものが多く,広域に棲むサメがこれに該当するとは言い切れない。『古事記』や『風土記』では,『サメ』が『ワニ』と呼ばれており,古く『ワニ』は『サメ』をさす言葉であったことがわかる。」

とする。ついでに,『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/wa/wani.html

では「わに」については,

「元々,日本に生息 しない生き物であるが,上代からその名は見られる。 古代の日本では『サメ』に対して用いた呼称で,鋭い歯が並ぶ口や獰猛な性質が似ていることから,爬虫類の『ワニ』にこの名が用いられるようになった。語源には,その口から『ワレニクキ(割醜)』の意味や,心から畏れ敬うものの意味から『アニ(兄)』の転。『ワタヌシ(海主)』の略や,『オニ(鬼)』の転,オロッコ族の言葉で『あざらし』を指す『バーニ』など諸説あるが未詳である。」

としている。『日本語源大辞典』は,「さめ」語源諸説を並べている。

サメ(狭目・狭眼)の義(東雅・名言通・和訓栞・大言海),
ササメ(少々眼)の略(柴門和語類集),
サミからか。サは,接頭語。ミは,魚介の肉の意(日本古語大辞典),
鮫肌の意から,サムミ(寒体)の転(言元梯),
カハメ(皮目)がサラサラと粒だっているところから(和句解),
昼は眠り,夜に目をさますようであるところから,サメ(覚め)の義(桑家漢語抄,
鯊皮の音転か(和訓栞),
沙魚がシャメになり,サメとなった(たべもの語源抄引松村任三説),
刃物の義のサヒ(鋤)が変化したもの(白鳥庫吉),
アイヌ語のサメ,シャメから(西村真次・たべもの語源抄),
イサナ(磯魚)の一つとしてイサ(磯)メ(魚につける指称辞)と理解し,その省略形(語源辞典),
乱の義の「サマ」の転じた語(続上代特殊仮名音義),

等々。しかし語呂合わせを棄てると,やはり,「狭目(さめ)」を取る。小さなまん丸の目を,そう呼んだ,に違いない気がする。

「ふか」の語源は,

深いところにいるからフカ(深)の義か(東雅),
フカミウオ(深海魚)の下略か(動物名の由来),

の二説だが,

https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1014316105

は,

「深(フカ)説 大型サメ類の多くが、沖合域の深いところに生息することから呼名されたものでは なかろうか。
鱶(フカ)説 魚類の多くは、卵生であるが、サメ類には卵生、卵胎生、胎生の3タイプがあり、 卵胎生が最も多い。このことから子を養う意味で呼名されたものではなかろうか。
斑魚(フカ)説 フカは、フ(斑)とカ(魚)からなる語で、本種の多くが、体表に斑紋があることより 呼名されたものではなかろうか。カはカジカのように魚を意味すると思われる。

と三説載せる。生態からも見て,「深いところ」というのが妥当な気がする。

で,「わに」の語源は,『日本語源大辞典』に,

その口の様子から,ワレニクキ(割醜)の義(名言通・大言海),
ワタヌシ(海主)の約か(たべもの語源抄),
アニ(兄)の転訛。畏敬すべきものを表す(白鳥庫吉),
オニ(鬼)の転(和語私臆鈔),
口を大きく開けて物を飲み込むところから,ウマノミ(熟飲)の反(名語記),
口をワンと開くところから(言元梯),
ツングースの一支族オロッコ族が海豹(あざらし)をいうバーニから(西村真次),

とあるが,『日本語源広辞典』の,

語源はワニ(擬態語,ワニワニ),

で,口を大きく開ける意,とする。擬態語説に惹かれるが,「わにわに」は,他にはどこにも載っていなかった。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)


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