2017年08月25日
うらなう
「うらなう」は,
占う,
卜う,
と当てるが,名詞形「うらない」だと,
占い,
卜,
となる。漢字「占」の字は,
「『卜(うらなう)+口』。この口は,くちではなく,あるものある場所を示す記号。卜(うらない)によって,ひとつの物や場所を選び決めること」
とある。「卜」の字は,
「亀の甲を焼いてうらなった際,その表面に生じた割れ目の形を描いたもの。ぼくっと急に割れる意を含む。」
これは,「亀卜(きぼく)」というが,
「中国古代,殷の時代に行われた占い。亀の腹甲や獣の骨を火にあぶり,その裂け目(いわゆる亀裂)によって,軍事,祭祀,狩猟といった国家の大事を占った。その占いのことばを亀甲獣骨に刻んだものが卜辞,すなわち甲骨文字であり,卜という文字もその裂け目の象形である。亀卜は数ある占いのなかでも最も神聖で権威があったが,次の周代になると,筮(ぜい)(易占)に取って代わられ,しだいに衰えていった。」(『世界大百科事典 第2版』)
ということらしい。なお,占いについては,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%A0%E3%81%84
に詳しい。
さて,語源だが,『広辞苑』には,「うらなう」の
「ナウは『する』意」
とあるので,「『卜』をする」という意味になる,ということになる。『岩波古語辞典』には,
「ナヒは,アキナヒ・ツミナヒノナヒと同じ。事をなす意」
とあり,『大言海』にも,
「占(うら)を行ふ。罪なふ,商(あき)なふ,寇(あた)なふ」
と同じ例が載る。で,『日本語源広辞典』は,
「ウラ(心,神の心)+ナウ」
とし,『日本語源大辞典』は,「うら(占)を行う意」以外に,
ウラアフ(占合)の転(和句解・国語本義),
ウラアハス(裡合)の義(名言通),
ウラアフ(心合)の義(言元梯),
心の秘密を判ずること(国語の語幹とその分類),
ウラカナフ(後慣)の義(志不可起),
等々を載せる。『語源由来辞典』
http://gogen-allguide.com/u/uranai.html
は,したがって,
「占いや占うの『占(うら)』は、『心(うら)』である。『心(うら)』は『表に出さない裏の心』『外面に現れない内心』の意味で、『うらさびし』といった言葉も占いと同様『心(うら)』からである。」
とする。当然,
http://www.yuraimemo.com/5176/
にあるように,
「裏心という言葉がありますが、すでに『心』自体にもともと『裏』という意味があったのですね。また、
うら恋し
うら悲しい
うらめしい
うらやましい
などという言葉もありますが、これらの「うら」もすべて「心(うら)」からきているのです。…お化けの常套句『うらめしや~』は、『恨む』から『恨めしい』となりますが、本来の語源は、
『恨み』=『心(うら)』+『見(み)る』という成り立ちなのだそうです。…で、『自分に対する相手のやり方に不満をもちながらも、相手がどういう気持でいるのかを知りたくて、自分の不満をこらえている』というのが原義だともいわれる。」
と,「うら」の外延が広がっていく。となると,「うら」が問題になる。『大言海』は,「うら」は,
「事の心(うら)の意」
とする。で,「心(うら)」の項には,
「裏の義。外面にあらはれず,至り深き所,下心,心裏,心中の意」
とある。『岩波古語辞典』には,
「平安時代までは『うへ(表面)』の対。院政期以後,次第に『おもて』の対。表に伴って当然存在する見えない部分」
とある。で,「かお」
http://ppnetwork.seesaa.net/article/450292583.html
の項でも触れたことがあるが,「うら(心・裏・裡)」の語源は,
「顔のオモテに対して,ウラは,中身つまり心を示します」
となる(『日本語源広辞典』)が,これだと,「うら=心」を前提にしているだけで,なぜ「ウラ」で「心」なのかがわからない。『日本語源大辞典』は,
ウは空の義から。ラは名詞の接尾語(国語の語幹とその分類),
衣のウチ(内)ラの意のウラ(裡)か(和訓栞),
ウラ(浦)と同義か(和句解),
の諸説を載せる。「ウラ(浦)」と同義」というのが気になる。「心」という抽象的な概念が,和語において,先に生まれたとは思えない。何かを表した言葉に準えて,「心」に当てはめたというのが自然だからだ。『大言海』は,
「裏(うら)の義。外海の面に対して,内海の意。或は,風浪和らぎてウラウラの意。船の泊する所」
とし,『日本語源広辞典』は,
「『ウ(海,湖)+ラ(ところ)』。海や湖で,陸地に入り組んだところ」
とし,『日本語源大辞典』は,
ウラ(裏)の義。外海の面に対して,内海の意(箋注和名抄・名言通・大言海),
ウチ(内)ラの意(和訓栞・言葉の根しらべ),
風浪がやわらいで,ウラウラする意(大言海・東雅),
ウ(上)に接尾語ラを添えた語であるウラ(末)の転義(日本古語大辞典),
ムロ,フロ,ホラ,ウロ等と同語で,ここに来臨する水神をまつり,そのウラドヒ(占問)をしたところから出た語(万葉集叢攷),
ウは海,ラはカタハラ(傍)から(和句解・日本釈名),
ウラ(海等)の義(桑家漢語抄),
ウはワタツの約,ウラはワタツラナリ(海連)の義(和訓集説),
蒙古語nura(湾)から(日本語系統論),
と諸説載せるが,「うら(心)」のアナロジーとして使うには,そういう意味が,「うら(浦)」に内包されていなくてはならない。とすれば,
外海⇔内海,
が,ぴたりとする気がする。しかし,
うへ⇔うら
「うら」の対は,「うへ」である。「うち」と「うら」とが通じるのかどうか。「そと」は,「うち」の対だが,ふるくは,「と」と言い,「うち(内)」「おく(奥)」の対とある。「うち」について,『岩波古語辞典』は,
「古形ウツ(内)の転。自分を中心にして,自分に親近な区域として,自分から或る距離のところを心理的に仕切った線の手前。また囲って覆いをした部分。そこは,人に見せず立ち入らせず,その人が自由に動ける領域で,その線の向こうの,疎遠と認める区域とは全然別の取り扱いをする。はじめ場所についていい,後に時間や数量についても使うように広まった。ウチは,中心となる人の力で包み込んでいる範囲,という気持ちが強く,類義語ナカ(中)が,単に上中下の中を意味して,物と物とに挿まれている間のところを指したのと相違していた。古くは『と(外)』と対にして使い,中世以後『そと』または『ほか』と対する」
とする。かろうじて,
うら―うち,
がリンクするかに見える。ちなみに,「うらうら」は,擬態語で,万葉集にもある古い語で,
うららか,
のんびりした,
という意味になる。「浦」につながる気がする。
なお,「うみ」については,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/448421529.html
で触れた。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
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