うち
「うち」は,「うち」「そと」の「うち」で,
内,
中,
と当てる。「うらなう」の項,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/452962348.html?1503605617
で触れたが,「うち」について,『岩波古語辞典』は,
「古形ウツ(内)の転。自分を中心にして,自分に親近な区域として,自分から或る距離のところを心理的に仕切った線の手前。また囲って覆いをした部分。そこは,人に見せず立ち入らせず,その人が自由に動ける領域で,その線の向こうの,疎遠と認める区域とは全然別の取り扱いをする。はじめ場所についていい,後に時間や数量についても使うように広まった。ウチは,中心となる人の力で包み込んでいる範囲,という気持ちが強く,類義語ナカ(中)が,単に上中下の中を意味して,物と物とに挿まれている間のところを指したのと相違していた。古くは『と(外)』と対にして使い,中世以後『そと』または『ほか』と対する」
とする。
うち(うつ)⇔そと(と)・ほか,
と,対比される。『大言海』は,「うち」について,
「空(うつ)と通づるか,。くちわ,くつわ(轡)。ちばな,つばな(茅花)」
と述べ,
「外(そと)の反。中」
「外(ほか)の反。物事の現話ならぬ方。ウラ」
「あひだ。間」
「それより下。以内,以下」
という「うち」の意味の変化をなぞり,その意味のメタファとして,
「内裏,禁中」
「主上の尊称。うへ」
「家の内」
「味方」
「心の内」
と,『岩波古語辞典』の言う意味の変化をなぞっている。『広辞苑』は,
①何かを中核・規準とする,一定の限界のなか,
②自分の属する側(のもの),
③物事のあらわれない面,
という意味の大枠で分けている。
語源について,『日本語源広辞典』は,
「『ウツ(空)』『ウツロ(空)』と同義(大言海説)が有力です。大島正健氏は,『ウ(空)+処(チ)』説です。いずれにせよ,ウツロ(空)になったところ,収納すべきウツロを,ウチと言ったようです。」
とする。『岩波古語辞典』に,「うつ」が,
「うち(内)の古形。『伏(うつぶ)す』『梁(うつばり)』などの複合語だけに残っている。『腿 ウツモモ』(名義抄)」
と,あるのとも合致する。『日本語源大辞典』には,
ウツ(空)と通じるか(大言海・言元梯),
ウは空,チはト(処)の転。外(そと)に対し空処であることからいう(国語の語幹とその分類=大島正健),
以外に,
ウツイ(空居)の義,空ろの真ん中の意(日本語原学),
ウは内にもつ象,チはつまる意(槙のいた屋),
ウツリ(移)。廂のかげがうつってやや暗いことをいう(名言通),
内裏の意から起こる,ウヤマフチ(敬地)か,またウチウ(宇宙)の下略か(和句解),
ウツと俯いてさす方。チは広い場所を縮めて,ただ一ヵ所をさす辞(本朝辞源),
と諸説載せるが,やはり「ウツ(空)」の転訛というのが,自然だ。具体的な「ウツロ(空・洞・虚)」を,「ウチ(内)」という抽象的な概念に転じさせるほうが,和語らしいのではないか。
「うち」の反対は,「そと」である。『岩波古語辞典』には,
「室町時代以降,古くからのトに代わって使用される」
とある。さらに,「と(外)」は,
「『内(うち)』『奥(おく)』の対。自分を中心にして,ここまでがウチだとして区切った線の向こう。自分に疎遠な場所だという気持ちが強く働く所。時間に転用されて,多くは未だ時の至らない以前を指す。類義語ホカははずれの所。ヨソは,無縁・無関係の所」
とある。今日,
とざま(外様),
とのも(外の面),
とやま(外山),
と,複合語の「ト(内に対する外)」として残っているようだ(『日本語源広辞典』)。その『日本語源広辞典』は,「そと」について,
「ソ(接頭語)+ト(外)を加えた語」
とするが,『大言海』は,
「背面(そとも)を略して,誤用せる語と云ふ。或は,背戸(せど)の転か。或は,背外(そと)の意か」
と,苦心する。『日本語源大辞典』は,
ソトモ(背面)の略(雅言考・大言海),
ソト(背外)の義(俚言集覧・俗語考・大言海),
門外をいうところからセド(背門)の義か(和訓栞・大言海),
ソウト(背疎)の義(日本語原学),
ソノ-ト(外)の約(名語記),
外々の義(日本語源),
サケトホ(避遠)の義か(名言通),
東国の果てにあるというソットノヒン(卒土浜)からか(和句解),
側処の義か(国語の語幹とその分類),
トト(戸外)の義(言元梯),
と挙げた上で,
「語源は,『そつおも(背つ面)』(背面・北側・裏側の意。『つ』は『の』の意)から転じた『そとも』が『せど(背戸)』への類推もあって『も』を略したという説が妥当か。また,外部の意味で先行する『と(外)』に類似した二音節が求められ,さらに『そと(背外)』という解釈が『そとも』からの変化を助けた可能性も考えられる」
と,こねくり回しているが,もともと「と(外)」だったのだから,それらに「背」をつけた,むりやり「そと」への転訛を考えようとするところに無理があるのではないか。その意味で,『名語記』の,
ソノ-ト(外)の約,
あるいは,『日本語源広辞典』の,
ソ(接頭語)+ト(外)を加えた語,
がいい。自分が区切った線の外をさしている。「そ」は,「それ」「そこ」の「そ」である。
「文脈の中ですでに取り上げて,話し手も聞き手も共通に知っている物事や人を指し示す」
のである。そとて,「と」は,
処,
所,
と当てる,
場所の意,
である。そう,「その場所」と,境界線の外を指したのではないか。無駄な語呂合わせは,文脈依存の和語という特質を忘れているように見える。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;
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今日のアイデア;
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