2017年08月27日

わりない


「わりない(し)」は,

理無い,

と当てる。『広辞苑』は,

「ことわりなし」の意,

とするが,『岩波古語辞典』は,

「ワリ(割り)ナシ(無)の意。物事をうまく処理し打開しようにも,筋道がつかず,どうにもならない状態である意」

とある。『大言海』は,

「ワリは切なる意。ナシは甚(いた)しの義。又,道理(ことわり)の略と云ふ。分(わき)も無し,などの意」

とある。『日本語源広辞典』は,『広辞苑』と同じく,

「ワリ(理)+ナシ(無し)」

で,道理にはずれている意とする。

意味の流れを見ると,

なんとも物事の判断がつかない

(状況を打開しようともがいても)どうにもならない

余儀ない,やむを得ない

耐えがたい,

(良いにつけ悪いにつけどうしようもなく極端な感じに言う)不可解なほどひどい,言うに言われずすぐれている,

縁が深くて断ち切れない,

(連用形を副詞的に用いて)迷惑だが,仕方がない,

もうこれ以上なんともできないほどに,精一杯,

無理に,しいて,

甚だしく,

となる(『岩波古語辞典』)。はじめは,

道理に合わない,理屈ではどうにもならない,

といった状態表現である。それが,

耐えきれない,

という感情表現にシフトし,さらに,

やむをえない,
精一杯,

という価値表現へと転ずる。そうなると,後は,その状態の表現として,

縁の切り難い,

つまり,

懇ろ,

という表現にも,

酷い,甚だしい,

という表現にもなり,それを外から見ての,

殊勝,
いじらしい,

という価値表現にも転ずる,といった流れになろうか。『日本語源大辞典』は,諸説を,

コトハリ(理)ナシの略(冠辞考続貂・名言通・大言海・古代中世言語論=折口信夫),
ワリは切なる意。ナシはイタシ(甚)の義。マタ,ワキ(分)ナシの義(大言海),
ワリナシ(別無)の義(河海抄),
ワカリナシ(分無)の義で,カの中略(和訓栞),
ワキワリナシ(分割無)の義(日本語原学=林甕臣),
ワリは破で,細々したものをいった(名語記・河海抄),
ワリは,イリワリ等のワリで,道理,いりわけ等の義(川柳雑俳用語考=潁原退蔵),

とうげるが,結局,「ワリ」を,

「分」とみるか,
「理」とみるか,
「別」とみるか,

と,

「切なる」と見るか,

で,「わりない」の原意を,

理屈に合わない,説明のつかない,

という状態表現とするか,

甚だしい,

という状態表現とするかの差だが, 結果として,善悪を超えて,

酷い,

という価値表現の含意を含んでいるように見える。たとえば,「わりない仲」といういい方には,どこかに,

酷い,

という価値表現を含んでいる気がする。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)


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posted by Toshi at 05:12| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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