2017年08月28日

割り勘


「割り勘」は,『大言海』にも『岩波古語辞典』にも載らない。『広辞苑』には,

割前勘定の略,

として,

勘定を各人に平等に割り当てること,

と意味が載る。『大言海』には,「わりまへ(割前)」として,

「割合ひたる一人前,割り分てる一人前,割り分てる一部。わけまへ,配当」

の意味が載り,『江戸語大辞典』にも,「割前」は,

「各自の割当量(額),頭割り」

の意味が載る。『広辞苑』の「割前」の項には,

割り当てる額,分配額,配当額,

とあり,どうやら,頭割りで支払う「割り勘」の意味以外にも,受け取る分配の意味もあったようだ。『デジタル大辞泉』を見ると,

金銭の徴収・分配などを各自に割り当てること。またその金額,

とあり,「利益の割り前を受ける」「割り前を支払う」という使い方が出ている。「割り前を支払う」という場合,配当がそうであるように,必ずしも頭割り,という意味とは限らない。だから,

割前勘定,

の時も,必ずしも,頭割りの意味ではなかったのかもしれない。『日本語源広辞典』は,

「ワリ(割)+マエ(取り分)」

とし,

「分け前です,頭割りにした取り分をいいます」

と意味を説いているので,今日の「割り勘」で払う意味ではないとしている。『日本語源大辞典』は,

頭割りの勘定の意(現代語語源小事典=杉本つとむ),

としているのは,いまの言葉遣いから,逆算しているので,少しずれているように思える。『語源由来辞典』,

http://gogen-allguide.com/wa/warikan.html

は,「割り前勘定」の略としつつ,

「『割り前』の『前』は『分け前』や『三人前』など,それに相当する分量・金額を表す接尾語で,『割り前』は割り当てる金額の意味。『勘定』は代金を支払うことや,その代金を意味する。割り勘を考案したのは戯作者の山東京伝といわれ,『京伝勘定』とも呼ばれていた。また,足並みを揃えるように等分に支払うことから,いつ死ぬか解らない立場であり互いに貸し借りしないところからか,古くは『兵隊勘定』ともいった。『割り前勘定』を略した『割り勘』は,大正末期頃からみられるようになる。」

とする。山東京伝が考え出したかどうかは別にして,「京伝勘定」は『江戸語大辞典』には載らない。山東京伝発案というのは,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%89%B2%E3%82%8A%E5%8B%98

でも,

「日本では、割前勘定、即ち割り勘を考案したのは江戸時代の戯作者・山東京伝だと言われる。彼は友人との飲み会の最中でも頭数で代金を計算していた事などから、当時『京伝勘定』とも呼ばれた。
日露戦争開戦頃に流行した言い回しとして『兵隊勘定』がある。これは『明日は戦場で生死も定かではないから、同じ兵隊同士、貸し借り無しに均等に負担する』という考え方から来たという説がある。」

とする。本来の「割前勘定」は,必ずしも,頭割りの勘定支払いだけではなく,応分の(必ずしも等分ではない)配当の意味もあった。それが,「割り勘」という略語へ転じた時,意味が,

頭割りの支払い,

へと変化したと見ることができる。それが通用するのは,比較的新しい,ということができる。頭割りが通用するのは,身分や上下関係の厳しい中では成立しないからだ。現在の使い方は,『日本語俗語辞典』

http://zokugo-dict.com/44wa/warikan.htm

に,

「割り勘とは複数人で食事をするときなど、勘定の総額を人数分に等分して支払うことである。例えば3人で飲みに行き、A君はビール1本、B君は2本、C君は3本飲んだとする。これを割り勘で払う場合、全員が2本分づつ払うことになる。そして払う額よりも飲んだ量が少なく、損をしたA君を“割り勘負け”、払った額以上に飲むことができ、得をしたC君を“割り勘勝ち”という。また、カップルで食事をする際、昼は彼女が支払い、夜は彼が支払うという場合がある。この場合、仮に昼夜同額程度であったとしても厳密には割り勘とはいわない。」

とあるが,

http://www.yuraimemo.com/1527/

によると,

「近頃では、『割り勘』も様変わりし、各自がそれぞれ自分の飲食した分について払うといった解釈の若者が増えているといいます。」

とあり,『日本語俗語辞典』の解釈よりも,現実の言葉遣いは,変化しているようである。なにせ,

https://woman.mynavi.jp/article/150320-89/

によると,

デート代は、割り勘にするのが当たり前だと思いますか?
「思う」44.4%
「思わない」55.6%

という結果らしく,デートですらこれなのだから,

自分の飲み食いした分だけ応分に払う,

という意味になるのは当然だが,ある意味元々の「割り前」の意味へと先祖がえりしているようにも見える。

ちなみに,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%89%B2%E3%82%8A%E5%8B%98

によると,

「『割り勘』の概念が存在しない国、または、直接的に『割り勘』を指す単語や成句が存在せずに『分割』『共有』の意味の語を当てはめている国もあり、世界的に見れば、代表者1名が全額支払うことのほうが多い。中華人民共和国、大韓民国では割り勘を申し出ることが相手を侮辱する行為にあたることもある。エスニックジョークとしても、日本人の見分け方に『食事の後に計算機で支払い金額を計算して割り勘で支払うのが日本人』というのもあり、『割り勘』は日本での普及が高く、他の地域では普及していないことをうかがわせる。」

とある。日本も他国並みになってきたということか。

参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)


ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm

posted by Toshi at 05:14| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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