2017年08月31日

二の腕


「二の腕」は,

肩と肘との間,

を指すが,「二の腕」という以上,

一の腕,

という呼び名もあったはずで,『日本語源広辞典』には,

「手首から肘までを一の腕というのに対して」

二の腕といったようである。『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/ni/ninoude.html

には,

「『二』は二番目という意味の『二』で、古くは『一の腕』と呼ばれる部分もあった。 1603年刊 の『日葡辞書』には『肘と手首との間の腕』とあり、『一の腕』は『肩から肘までの腕』とされていることから、『一の腕』だったものが誤用で『二の腕』になったと考えられている。しかし、『腕』は元々『肘から手首』までを指した言葉なので、その場所を『二の腕』と呼ぶのは考え難いことや、普通、先端から順に数えるので肩から順に数えるのは不自然であること、このような例が『日葡辞典』以外に見つからないことから、指す場所が逆転した訳ではなく、『日葡辞典』の誤りと考えられる。」

と,載る。

「ひじで折れ曲がるので,これを2部に分け,上半を上腕upper arm,下半を前腕forearmといい,上腕は俗に〈二の腕〉といわれる。腕は脚に相当する部分であるが,人間では脚より小さく,運動の自由度は大きい。」(『世界大百科事典』)

とあるので,手首側から,一の腕,二の腕と数えたとするのが,順当だろう。

では,「うで」は,

腕,

と当てるが,「腕」の字は,

「中国では主に手首のつけね。まるく曲がるところなので,ワンという」

とあり,

「宛(エン)の字は,宀(屋根)の下に,二人の人がまるくかがむさま。腕は「肉+音符宛」で,まるく曲がる手首」

とある。「肩から手首」を「腕」とするのは,わが国独自の用法である。

「うで」は,

肘と手首の間,

を指す。しかし,『岩波古語辞典』によれば,

「『かひな』は,もと,肩から肘までの間。後に『うで』と混用。『うで』は平安時代女流文学では使わないのが普通。」

とある。つまり,もともと「かいな」と言った部分が,「二の腕」に当たる。

「かいな」は,

腕,
肱,

とあてる。『大言海』には,

「抱(かか)への根(ね)の約転か。胛をカイガネと云ふも舁(かき)が根の音便なるべし。説分『臂(ただむき),手ノ上也。肱(かひな),臂ノ上也』」

とある。『日本語源広辞典』は,

「カイ(支ひ)+ナ(もの)」

で,「支えるもの」が語源とするが,これは,なかなか簡単ではない。『日本語源大辞典』は,

カヒネ(胛)の転(言元梯),
カヒはカミ(神)の転,ナはネ(根)の義(和語私臆鈔),
カカヘネ(抱根)の約転か(大言海)
カヒは抱き上げるという意のカカフルのカを一つ省いたカフルの変化したもの(国語の語幹とその分類=大島正健),
女の臂のカヨワイことから(俗語考),
カヒナギ(腕木)の意(雅言考・俗語考),
カタヒジナカ(肩肘中)の略(柴門和語類集),
カキナギ(掻長)の義(名言通),
「胛臑」の別音Kap-Naの転(日本語原学=与謝野寛)

等々,諸説載せる。「抱える」と関わることが,いちばん説得力がある。のちに混同されることになる「うで」は,『日本語源広辞典』は,あっさり,

「ウ(大)+手」

で,小手に対する「大手」が語源とする。「小手(こて)」は,

手首,
あるいは,
肘と手首の間,

だが,「小手」の対は,「高手(たかて)」であるらしいので,この説はちょっといかがわしい。「こて」について,

『大言海』に,

「手の腕頸より先。小手先。『小手返し』『小手調べ』『小手投げ』。これに対して,腕・肱を,高手と云ふ。人を,高手小手に縛ると云ふは,後ろ手にして,高手,小手,頸に,縄をかけて,縛りあぐるなり。」

とある。いわゆる鎧や防具にいう,

籠手,

は,この「小手」から来ていて,

肘,臂の全体をおおうもの,

とあり,「小手」よりも範囲が広い。ついでに,「腕頸」とは,

たぶし,
たぶさ,
こうで(小腕),

ともいい,

「腕と肘との関節,曲り揺く所。うでふし」

とある。ついでながら,「こうで(小腕)」は,

「腕の端の意か。手との関節(つがいめ)なり。小肱(こがいな)と云ふ。同じ腕を,肘と混同することも古し。」

とあり(『大言海』),「かいな」と「うで」の混同どころか,手首と肘すら混同してきたようだ。文脈の中での会話だから,当事者にはわかっていた,ということか。「うで」に戻すと,『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/u/ude.html

は,「うで」について,

「古くは、肘から手首までを『うで』、肩から肘までを『かいな』と区別していた。この位置からすると手(手のひら)の上 にあたるので、『上手』の意味であろう。『和名抄』や『名義抄』には,『太太無岐』『タダムギ』とあり,古くは,『タダムギ』とも呼んでいたようである。」

としているが,『大言海』は,

「腕は,釈名に『腕宛也,言可,宛曲なり』急就篇注に,『腕,手臂之節也』とありて,今云ふ,ウデクビなり,されば,ウデは,元来,折手(ヲデ)の転(現(うつつ),うつ,叫喚(うめ)く,をめく)。折れ揺く意にて(腕(たぶさ)も手節(たぶし)なり),ウデクビなるが,臂(ただむき)と混じたるなるべし」

とある。「てくび」を「ただむき」と混同した,とあるので,「ただむき」と呼んだのは,混同の後,ということになる。『日本語源大辞典』をみると,「うで」は,

ウテ(上手)の義(類聚名物考・和訓栞・国語の語幹とその分類=大島正健),
ウテ(打手)の義(日本釈名・和句解),
ヲテ(小手)の転(言元梯),
ヲデ(折手)の転(名語記・大言海),
「腕」の別音WutがWuteと転じた(日本語原学=与謝野寛),

と,位置はばらばら,「腕」が今日,

肘と手首の間,
肩口から手首まで,

と,多義的に使われている訳である。

参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)


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posted by Toshi at 05:24| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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