2017年09月02日


「て」は,

手,

と当てるが,体の部位ながら,それをメタファに,

突き出ているもの(取っ手,柄),
手のように動くもの(人手,部下),
手ですること(持つ,文字,腕前,手傷),
指すもの(方向,風采),
自分の手(手前,手製)
代金,

等々多様な意味を持つ。「手」の字は,

「五本の指のある手首を描いた」

象形文字である。「掌」の字もあるが,

手のひら,

の意で,「たなごころ」と訓むが,これは,中国語の,

「手心(てのひら)」

の意約,という(『漢字源』)。「掌」の字は,

「尚は『向(まど)+八印(発散する)』からなり,空気抜きの窓から空気が上へ広がるさま。上(うえ,たかい)と同系。また平らに広がる,の意を含み,敞(ひろい),廠(広間)と同系の言葉。掌は『手+音符尚』で,平らに広げた手のひら」

である。「て」の語源について,『日本語源大辞典』は,

トリ(取・執)の約転(古事記伝・和訓集説・菊池俗語考・日本語源=賀茂百樹),
イデ(出)の義(和句解・日本釈名・言元梯・名言通・和訓栞),
トエ(十枝)の反,十指の義(名語記),
エ(枝)の義,肢枝の意(玄同放言),
タベエ(食得)の義,またトラヱ(捕)の義(日本語原学=林甕臣),
体の足しになって用をするところからタシ(足)義(国語蟹心鈔),
処の義(国語の語幹とその分類=大島正健),
ツエ(杖)の反(言元梯),
タレ(垂)またはトル(取)の約(和訓集説),
ハテ(果)の上略か,また手をうつ音からか(和句解),
古形(タ)の転(『岩波古語辞典』),

等々諸説を挙げる。文脈依存の和語から見れば,動作の,

取る,
執る,
捕る,

等々に関わる,と想像できる。『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/te/te.html

は,

「語源には,『とり(取・執)』の約転,『いで(出)』の意味,『たべえ(食得)』の意味,『とらえ(捕)』の 意味,『はて(果て)』の上略など,諸説ある。『手』の字音は,漢音が『シュウ』,呉音が『シュ』で,物を『取・執(しゅ)する』。つまり,『とる』意味や,『守(とられぬように持つ)』『受(しっかり持つ)』といった意味から来ている。『て(古形「た」)』が,必ずしも漢字の由来と同じではないが,『とり(取・執)』の約転とするせつがよいであろう。」

とするが,『大言海』も,

「取(と)りの約と云ふ」

と同じ語源説をとる。しかし,『岩波古語辞典』にも言うように,「て」は,

古形タ(手)の転,

とある以上,「た」の説明になっていなくてはならない。『日本語源広辞典』は,

「『手』本来の一音節です。取ると関連ある語。複合語の成分になるとき『タ』となりやすい。」

とする。ひょっとすると逆なのかもしれない。「テ」があり,それで摑むのを,

とる,

といったというように。

「たなごころ」は,『漢字源』は,中国語の,

「手心(てのひら)」

の意約,としているが,必ずしも中国語由来とは取らない説もある。『岩波古語辞典』は,

「『手(た)な心』の意。タはテの古形。ナは連体助詞」

とし,『日本語源大辞典』は,

手の中心の意で,タナココロ(手之心)の義(和名抄・名語記・日本釈名・和訓栞・大言海),
タノココロ(手の裏)の義(言元梯),
手の含み所すなわちテノフトコロ(手之懐)の義。また手握りどころの義(日本語原学=林甕臣),

等々。『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/ta/tanagokoro.html

は,

「たなごころの『た』は『て(手)』の交替形で、『手』を『た』という言葉には『たむけ(手向け)』や『たおる(手折る)』などがある。『な』は『の』にあたる連体助詞で、『たな』は『手の』を 意味し、たなごころは『手の心』を意味する。『こころ(心)』には『中心』の意味、『うら(心)』の同源である『裏の意味』、中国語の『掌(手心)』の意訳の三通りの解釈がある。」

と整理するだけで,選択していない。僕は,

中国語「手心(てのひら)」→手の心→たのこころ→たなごころ,

と和語化していったのではないかと思う。

参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
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posted by Toshi at 04:57| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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