2017年09月03日
あし
「あし」は,
足,
脚,
肢,
と当てる。「足」の字は,
「ひざから足先までを描いたもので,関節がぐっと縮んで弾力をうみ出すあし」
で,
ももから先,
足首から先,
の意味がある。「お足」というお金の意味や,一足二足と靴を数える単位に使うのは,わが国だけのようである。「脚」の字は,
「去(キョ)は,蓋付きのくぼんだ容器を描いた象形文字。却(キャク)は『人+音符去』の会意兼形声文字で,人が後ろにくぼみさがること。脚は『肉+音符却』で,膝のところで曲がって,後にくぼむ足の部分」
で,
足の下半分,
を指す。足の上半分は,
腿(たい),
という。因みに「疋」も
あし,
の意味だが,
左右二本が相対する足,
を意味し,
「あしの形を描いたもので,足の字と逆になった形で,左右あい対したあしのこと。また,左右一対で組をなすので,匹(ヒツ ふたつで一組)に当ててヒツという音を表し,日本ではヒキと誤読した。また正と混同して,正雅の雅を表す略字として転用された。」
とある。「肢」の字は,
「支は『竹の枝+又(手)』の会意文字で,竹の枝一本を手に持ったさま。短い直線状の枝のこと。枝(シ)の原字。肢は『肉+音符支』で,胴体に生じた枝にあたる手と足」
で,
手と足,
を意味する。
「手足はからだの枝(シ)に当たるので肢といい,肝臓はからだの幹(カン)に当たるので肝という」
とある。本来の漢字で言うなら,「あし」全体に当たる字はないことになる。
さて,「あし」もまた,「て」と同様,幅広い意味を持つ。『広辞苑』は,
動物の下肢の部分,
形・位置などが,動物の足ににているもの,
動物の足のように,移動に使う,または移動するもの,また,その移動,
と整理している。お金の意味の「お足」は,
「足のように動くから」
というアナロジーということになる。しかし,『大言海』には,「足」とは別に「あし(銭)」の項を立て,
「晉書,隠逸傳,魯褒錢神論に,無翼而飛,無足而走,と云ひしより起これる語なり。白玉蟾詩『腰下有銭三百足』料足,要脚,などとも云ふ。仁徳紀,四十三年九月の條に,鷹の足緒に,緡(アシヲ)と記せり,緡は,正字通りに,錢之貫者,為緡錢とありて,錢緡(ぜにさし)なり。平安町頃の訓點なるが,當時も,錢を,アシと云ひたるかとて思はるると云ふ」
とある。「お足」の原点は,中国にあるのかもしれない。
で,「あし」の語源であるが,『日本語源広辞典』は,
「ア(相)+シ(及+及)」
で,相互にかわるがわる進ませる肉体部分,という。しかし,これは,少しいかがわしい。
『日本語源大辞典』は,例によって諸説を載せる。
アシ(悪)の意で,身体の悪しく汚い部分を言う。またはハシ(端)の転(日本釈名),
アはイヤの反。イヤシの転(名言通・和訓栞・言葉の根しらべの=鈴木潔子),
タチ(立)の転(玄同放言),
用を足す意のタシの転(国語蟹心鈔),
アカシ(赤)の中略(和句解),
アユミハシリ(歩走)の義(日本語原学=林甕臣),
アシ(動下)の義(日本語源=賀茂百樹),
日本語のはしを意味するビルマ語のアッセ,クメル語のアシが訛ったものか(ことばの事典=日置昌一),
両脚の間の意の「跨」の別音Aと,足の先の意のシ(趾)との合成語で,脚部の総称。単にアというのは右の跨である(日本語原学=与謝野寛),
等々。僕は,語呂合わせよりも,文脈依存の和語は,「たつ」「あゆむ」「あるく」「はしる」当たりの動作から来ていると,見るのが妥当と思う。その意味では,
タチ(立)の転,
が最もいいところをついていると思う。しかも,「立つ」は,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/399481193.html?1501986945
で触れたように,
「タテにする」
という意味である。それを「あし」とつなげるのは,自然に思えるが,どうだろう。
「歩く」については,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/450998494.html
で触れたが,『大言海』は,「あゆむ」は,
「足數(アヨ)ムの轉なるべし。されば,アヨムとも云ふなり(眉(まゆ),まよ。足結(あゆひ),あよい。歩(あゆ)ぶ,あよぶ。揺(あゆ)ぐ,あよぐ)」
とあり(「數(よ)む」とは。数える意),「ありく」は,
「足(アシ)繰(クリ)行クの約略なるべし(身まくほし,見まほし。少なき,すなき。かくばかり,かばかり)。…或は,足(アシ)揺(ユリ)行クの約略とも見らる。アユムとも云ふナリ。アルクと云ふは,普通なり。(栗栖(くりす),くるす,白膠木(ぬりで),ぬるで)。アリク,アルクの二語,同時に,並び行われたるやうなれど,本居宣長は,アリクは後なりと云へり。尚,考ふべし」
と,書く。「あるく」「あゆむ」は,「あし」を前提にしている。なおのこと,まず「たつ」から始まる。たとえば,
tatu→tasi→asi
といった転訛をしたとは考えられまいか。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
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