2017年09月09日

一杯


「一杯」は,『岩波古語辞典』は,

一盃,

の字も当てている。この字の通り,

一杯の酒,

というように,

器に満たした分量,

を指すが,『大言海』は,

杯に,酒を注ぎ満たしたること,

と直接的である。で,

満酌,

と載せる。それをアナロジーに,

一杯やろう,

というように,「酒を飲みかわす」喩えに使われるが,『大言海』は,

一献,
一酌,

とも載せる。「一献どう?」というのは「一杯やる」のと同義だ。さらに,杯に満々の意を拡げて,

広場一杯の人,

というように,

人や物が満ち溢れているさま,

の意になり,その意を拡げて,

ある限度いっぱい,

というように,

ありったけ,

の意図にも使われる。室町末期の『日葡辞典』にも,

ユミヲイッパイヒイテハナツ,

という使われ方をしている。その量の限度の延長線で,

思う存分,したいだけ,

と,質の限度へと転じて使われる。

盃一杯→盃に満々→限度ぎりぎり(目一杯)→思う存分(精一杯),

といった意味の拡大だろうか。「目一杯」は,文字通り,

「はかりの目盛一杯までの意から転じて,精一杯努力しての意」

になる。

一杯くわす,
一杯くう,

というのは,

だます,
だまされる,

意だが,『岩波古語辞典』には,「一杯喰わす」として,

一杯さす,
一杯させる,
一杯参る,

という言い回しも載る。億説かもしれないが,

一杯酌み交わす,

のは,親しさの端緒であり,その象徴でもある。この使い方からすると,

一杯飲まされて,うかうかと油断し騙された,
一杯飲まして,うかうかと油断させて騙した,

ということなのだろうか。『日本語源広辞典』には,語源は,

「一杯+食う,一杯+食わす」

で,

「企んで,相手に飲食物を一杯食わせるから,イッパイクワセルという加害者側の話があります。それで,それを食う,被害者の立場の語が,イッパイクウです。」

とある。この場合,「一杯」は,象徴ではなく,「沢山」の意の「一杯」なのかもしれない。『大言海』は,

「一杯喰わすとは,酒を飲ます,飴をねぶらす,同義」

とある。「飴をなめさせる」と同じ意味で「饗応」の意で,

一杯喰わす,

と言っている。これは文字通り,「食わせた」という状態表現を,「欺く」という価値表現へと転じた使い方ともいえるし,「饗応」の意の,「一杯喰わす」を,象徴として使っている,とも言える。

なお,『大言海』は,副詞の「いっぱい」には,

満,

の字を当てている。慧眼というべきだろう。

参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
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