2017年09月12日

自分になる


カール・R.・ロジャーズ『自己実現の道(ロジャーズ主要著作集3)』を読む。

ロジャーズ3.jpg


本書は,ロジャーズの著作の中でもっとも読まれたものとされるが,日本では,部分が紹介されることはあっても,全体として一冊として訳出されたのは,初めてらしい(二章,九章以外はすでに紹介されている)。

http://ppnetwork.seesaa.net/article/450874048.html

で取り上げた,H・カーシェンバウム&V・L・ランド ヘンダーソン編『ロジャーズ選集』にもかなりかなり重なるものがある。

本書の原題は,

On Becoming a Person,

である。訳者(諸冨祥彦氏)は,

「本書でロジャーズが読者に伝えようとしているメッセージは,原題のOn Becoming a Personに,おおよそ示されています。うまい日本語が思い浮かびませんが,あえて意訳するとすれば,『人が,“ひと”になるということ』となるでしょうか。その意味するところは,『ひとが自分自身になっていくこと』―言ってみれば,『自分が自分になるということ』です。(中略)
 原題のOn Becoming a Personにぴったりの日本語訳が見あたらなかったことから困惑しました。あえて直訳すると『人間になること』となってしまいます。…先に述べたようなニュアンスが含まれていることから,悩みに悩んだ末にタイトルは『自己実現の道』としました。そして,それがマズローやユングの言う自己実現とは異なるロジャーズ固有の考えであることを示すためにあえて,『ロジャーズが語る』と付したのです。」

と語り,On Becoming a Personの含意を強く強調している。確かに,本書は,

On Becoming a Person

を通奏低音のように,響かせ,繰り返し,語られている。しかし,ここで言う,

自分になる,

とは,何か固定したものになる,という意味ではない。ロジャーズは,

第六章「人が“ひと”になるとはどういうことか」

で,

仮面に気づき,
感情を体験し,
体験の中に自分を発見し,
自分自身になる,

というプロセスを描き出しながら,

「自分自身を発見し,自分自身になろうとしている人間の最後の特徴…とは,その人が一つの結果であるよりも,一つのプロセスとなることに,より大きな満足を感じるようになるということである。」

と述べている。そして,

「人間は,一定量の特性などではなく,絶えず変化し続ける可能性の布置(constellation)である。」

とも。Constellationは,星座とか,一群,配列といった意味である。ここには,一点に収斂するのではない自分という含意がある。ふと,ハイデッガーの,

人は死ぬまで可能性の中にある,

という言葉を思い出す。ロジャーズには,実存主義の翳がある。これが,本書の結論であると言ってもいい。

もっとも個人的なものが,最も普遍的なものである,

という言葉をロジャーズは記しているが,そのように,本書は,

自分を語る,

の第一部第一章は,

これが私です,

から始まる。そして,「私が学んできた大切な教訓」を挙げていく。たとえば,

「他者との関係において,私があたかも私自身でないかのように振る舞っても,それは結局援助にはなりえない」
「自分が自分自身に受容的に耳を傾けることができるとき,そして,自分自身になることができるとき,私はより効果的でありうる」
「私が自分自身に他者を理解することを許すことができるならば,そのことはとても大切な価値を持つ」
「他者を受け容れることができれば,多くのものが得られる」
「私は,自分や他者のうちなるリアリティに開かれていればいるほど,急いで物事を処理しようとしなくなるようである」

等々。ここでも,

「人生は,その最善の状態においては,流れゆき,変化していくプロセスである。そこでは固定されたものは何一つない」

を結論としている。

つとに紹介される,第七章「心理療法の過程概念」にある,

心理療法の過程の七段階,

は,何度読み直しても,発見があるほど,凝縮されたエッセンスである。しかし,そのプロセスで「援助関係を作り出す」ためには,前提となることがある。

「クライアントが,自分は十分受け容れられていると体験していると仮定しておこう。つまり,たとえクライアントの感情が恐怖,絶望,不安,怒りなど,どんなものであろうとも,また彼の表現の仕方が沈黙,身振り,涙,言葉など,どんなものであろうとも,あるいはこの瞬間に彼が自分自身をどんなふうに見せていようとも,クライアントが自分がまさにあるがままにセラピストから心理的に受け容れられていると感じていると仮定しておこう。この言葉には,共感的に理解されているという考えや,受容(acceptance)という考えが暗に含まれている。この条件が最適かどうかを決めるものは,単にセラピストにこの条件が存在しているということではなく,クライアントがこの条件を体験しているということである」

と。ロジャーズは,

私はいかにして援助的関係をつくり出すことができるか?

とこういう問いを投げかけている。

①私は他者から信頼に値すると受け取られるようなり深い意味で,頼りになるとか矛盾なく一貫していると受け取られるようなあり方でいることができるだろうか?
②私は,自分がこのような人間であることが相手に明らかに伝わるように,自分を十分に表現できるだろうか?
③私は目の前にいるこの他者に対して,温かさ,配慮,好意,関心,尊重といったポジティブな態度を経験することができるだろうか?
④私は一人の人間として,他者からまったく別個に存在できるほど強くいることができるだろうか? 他者の感情や要求を尊重するのと同じように,自分自身の感情や要求をしっかりと尊重することができるだろうか?
⑤私は,相手が私とは別の存在であることを許せるほど,自分の中が十分安定しているだろうか? 私は,相手が正直だろうが噓をついていようが,子どもであろうが大人であろうが,絶望していようが自信過剰であろうが,その人自身であることを許容できるだろうか? 私は相手があるがままである自由を提供することができるだろうか?
⑥私は,相手の感情や個人的意味の世界の中に十分入っていくことができ,そして相手が見ているがままにその世界を見ることができるだろうか? 私は,自分が相手の私的な世界を評価しようとか判断しょうとまったく思わなくなるほど,その中に完全に入ることができるだろうか?
⑦相手が私に表すさまざまな側面のどのようなものに対しても受容的であることができるだろうか? 私は,相手の人そのものを受けとめることができるだろうか? そうした態度を相手に伝えることができるだろうか? それとも相手の感情のある側面だけを受容し,それ以外の面については暗に,あるいは公然と認めないような条件つきの受容しかできないだろうか?
⑧私は,関係の中で相手に脅威を感じさせないような十分な感受性をもって行動することができるだろうか?
⑨私は,外的な評価の脅威からクライアントを解放することができるだろうか?
⑩私は,この他者が生成しつつある過程にある人だということを前提にして,その人と出会うことができるだろうか? それとも私は,その人の過去や私自身の過去に束縛されてしまうだろうか?

問いこそが創造的な答えを産み出す,という。この問いあって,

セラピストの備えておくべき条件,

として,

①一致
「セラピストがその関係の中でひとつにまとまった,統合された,もしくは一致した人であることが必要である。私が言いたいのは,その関係の中でセラピストが,仮面や役割や見せかけなどから離れて,まさしくありのままの自分であるということである。私は,体験と意識とが正確に合致しているという意味で『一致(congruence)』という用語を使っている。セラピストが完全に一致しているのは,その関係におけるこの瞬間に,自分が体験していることを十分にそして正確に意識している時である。」
②無条件の肯定的配慮 
「セラピストがクライアントに対して温かい配慮の体験をするということである。その配慮は,相手を支配するようなものでもなければ,個人的な満足を求めようとするものでもない。それは,『もしもあなたが~といった行動をするなら,私はあなたに関心を寄せます』というあり方ではなく,『私はあなたに関心を寄せています』ということを真に表すような雰囲気のことである。」
③共感的理解
「セラピストはクライアントが自分の世界を内側から見ているとおりにその世界について正確で共感的な理解を体験している,ということである。クライエントの私的な世界をあたかも自分自身のものであるかのように,しかもこの『あたかも』という質を決して失うことなく感じることである。」

へと集約される。大事なことは,

「共感的に理解されているという考えや,受容(acceptance)という……条件が最適かどうかを決めるものは,単にセラピストにこの条件が存在しているということではなく,クライアントがこの条件を体験しているということである」

からこそ,

「セラピストの一致と受容と共感を,クライアントがある程度体験もしくは知覚する,ということである。これまで述べてきた条件がセラピストの中に存在するだけでは十分ではない。これらの条件はクライアントに対してある程度十分に伝えられなければならない。」

なぜなら,その相互の関係は,

「私がある種の関係を提供できるならば,相手は自分が成長するためにその関係を用いる力が自分の中にあることを見出すであろうし,そこで変化と人間的な成長が生じる」

ものだからだ。それは,ミルトン・エリクソンが,

「自らを変える力があることを相手自身が気づけるような状況をつくること」

といった,その状況づくりそのものでもある。

参考文献;
カール・R.・ロジャーズ『自己実現の道(ロジャーズ主要著作集3)』(岩崎学術出版社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm

posted by Toshi at 05:02| Comment(0) | 書評 | 更新情報をチェックする
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