2017年09月15日

ねこばば


「ねこばば」は,

猫糞,

と当てる。『広辞苑』には,

「猫が脱糞後,脚で土砂をかけて糞を隠すからという」

とある。

知らん顔をすること,
落し物などを拾ってそのまま自分の物語にしてしまうこと,

といった意味である。他の辞書(『デジタル大辞泉』『大辞林』『大言海』)も,

猫が、糞 (ふん) をしたあとを、砂をかけて隠すところから,

という語源説を説く。『岩波古語辞典』には載らないので,どうやら,

江戸時代以降,

それも,

明治に近い幕末期からのものとみられる。『日本語俗語辞典』

http://zokugo-dict.com/24ne/nekobaba.htm

も,
 
「ねこばばとは動物の『猫』と大便(糞)の幼児語『ばば』から成る言葉で、人様のものを隠し、自分のものとすることを意味する。例えば、道で拾った財布をそのまま懐に隠し、自分のものにして使ってしまうなどがこれにあたる。また、悪行を隠し、そ知らぬ顔をすることもねこばばという。これは猫が糞をした際、後ろ足で砂をかけて隠してしまうことからきている。」

としている。確かに,

「ばば(糞)しい」の転じたもの,

とされる,汚いという意味の,

ばばっちい,

という幼児語があり,さらに転じて,

ばっちい,

とも言う。『日本語俗語辞典』

http://zokugo-dict.com/26ha/bacchii.htm

には,江戸時代以降の擁護として,

「ばっちいとは汚いという意味の幼稚語『ばばっちい(地域によっては『ばばしい』とも言う)」の略で、同様に汚いというの幼稚語だが、成人で使用する人も多い。ちなみに『ばばっちい(ばばしい)』の『ばば』とは糞や汚いものを意味する幼稚語である。』

とあるので,「猫糞」説もなくはないが,『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/ne/nekobaba.html

は,

「ねこばばは,猫が糞をした後に砂をかけて隠すことから喩えたもの。『糞(ばば)』は、大便など汚いものをさす幼児語である。江戸時代後期頃から用いられた語と思われ,それ以前に用例は見られない。一説には,猫好きの老婆が借金をなかなか返さなかったことから,猫好きの老婆が語源で『猫婆』を本来の形とする説もある。」

と「猫婆」説を取り上げている。他にも,

https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1216030902

は,

「<1>糞説
「ばば」とは糞のこと。猫は糞をしたあと、かならず足で砂をかけて隠す習性があります。このことから、知らん顔をして他人のものを
自分の懐に入れて隠すことをいうようになりました。
 <2>老婆説
人から借りたものをなかなか返そうとしなかったという、江戸時代に実在した『猫好き婆さん』に由来します。」

を挙げているし,

https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1012719255

も,

「ねこばばは、猫が糞をした後に砂をかけて隠すことから喩えたもの。「糞(ばば)」は大便など汚いものをさす幼児語である。一説には、猫好きの老婆が借金をなかなか返さなかったことから、猫好きの老婆が語源で「猫婆」を本来の形ともする説もあるみたいです。」

と「猫婆」説を挙げる。『日本語源大辞典』も,

ネコバハ(猫糞)の義(すらんぐ=暉峻康隆・猫も杓子も=楳垣実・おしゃれ語源抄=坂部甲次郎),
猫婆の義。徳川中期,本所に住んでいた猫好きの老婆がよくばりであったところから(話の大辞典=日置昌一),

と,二説挙げる。

ただ,『日本語源広辞典』は,二説をこう説明する。

「説1は,『広辞苑』説です。『ネコが,ババ(糞)しても,足で土をかけて素知らぬ顔をしている』意とあります。説2は,警視庁刑事部編警察隠語集にある説です。江戸中期,日本橋に住むネコ好きのおばあさんが,よく他人のものをくすねるので,近所の人が「ネコババ」と言い出したとあります。クスネル意からは,説2が自然です。」

と,「猫婆」説に軍配を上げる。しかし,『江戸語大辞典』をみると,

ねこばば,

は,

猫屎,

とあて,

本来,

ねこがばばをふむ,

を略したもの,とある。

ねこがばばをふむ,

は,

猫が屎(ばば)を踏む,

とあて,

「猫がその屎を隠すことから,よからぬ事をしておきながら,知らぬ顔で隠しているたとえ,

とあり,

にやあが屎(ばば),
にゃあばば,
猫ばば,

とも言う,とある。用例に,弘化四年(1847)の『魂胆夢輔譚』の,

「知らぬ顔の半兵衛で,猫の糞(ばば)を踏んで居るも,其気は付きても錢なきゆえなり」

を挙げる。「ねこばば(猫屎)」の用例も,安永四年(1775)と,中期まで遡り,『寸南破良意』の,

「大方五つ明の客を取て居ゃァがって猫ばばの面で来て」

を挙げる。幼児語かどうかは,措くとして,

猫糞,

から来ていることだけは,はっきりしている。「猫婆」は,後付けの牽強付会説に思える。因みに,「屎」と「糞」の使い分けは,「屎(シ)」の字は,

「尸(シ)は,棒状にかたく伸びた死体のこと。屎は『米+音符尸』。大便は棒状でかたいのでシといい,食べた米のかすなので米をそえた。米印を矢の字で代用することもある。」

と明らかに人の糞であるが,屎尿の「屎」である。「糞」の字は,

「畑にばらまくさま+両手」

の会意文字で,

動物のフン,

の意もあるが,

肥料をまいて土地を肥やす,

という意味である。だから,正確には,

猫糞,

ではなく,

猫屎,

でなくてはならないのだろう。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)


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posted by Toshi at 05:01| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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