2017年09月16日

おくればせ


「おくればせ」は,

後れ馳せ,
遅れ馳せ,

と当てる。

おくればせながら御礼申し上げます,

等々という使い方をする。

「遅れてその場に駆けつける」

というのが直接の意味だが,それをメタファにして,

時機に遅れたこと,

という意味に使われる。『実用日本語表現辞典』

http://www.weblio.jp/content/%E9%81%85%E3%82%8C%E3%81%B0%E3%81%9B%E3%81%AA%E3%81%8C%E3%82%89

は,表記の仕方を,

遅れ馳せながら,
遅れ馳せ乍ら,
後ればせながら,
後れ馳せながら,
後れ馳せ乍ら,

と並べ,

「最適な時期や機会が過ぎてから行う事柄について、『遅くなったが』あるいは『今更ではあるが』といった意味で前置きする言い回し。祝辞や弔辞のように、それにふさわしい機会があり、その機会を逃しても行っておくべきと判断されるような事柄について用いられやすい。『後れ馳せ』は、人に後れて馳せ参じること、後れてやって来ること、好機を逃すこと、などの意味の語。『ながら』は『ではあるが』と同様、相反する内容を含む前後の文を接続する表現。」

と説明する。

「おくれ」自体が,

後れ,
遅れ,

と当てる。『岩波古語辞典』は,

「オクリ(送・贈)と同根。自然の結果として,後からついていくようになるのが原義。転じて,後に残される意。また,つとめても力及ばず間に合わない意」

とある。

他のものより後になる→先をこされる→遅れる→残される→及ばない

といった意味の広がりになる。

贈る・送ると同根,

というのは,『大言海』を見ると分かる。「おくる」には,

送る 彼方へやる
贈る 送り与ふる
後る 後に残さる

と意味のつながりが見える。『日本語源広辞典』も,

「人を送った後に残るところから,送るのオクと,後る,遅ると,語根は同じと考えます。『後』と『遅』の使い分け意味は,…行程,時間が後になる。時間が間に合わない,進行から取り残される,死者を送って残る,時計が遅れる。」

とする。『大言海』は,「後る」を,

「措クの受身の措カルの,つづまりて,一つの自動詞となれるもの。撃たるの,壓(う)っとなる例なり」

と説くが,『日本語源広辞典』は,

「おくる(後になる,遅くなる)の下一段口語化」

とする。『日本語源大辞典』は,

何かを放ちやるの義のおくる(送・贈)と同根か(時代別国語大辞典)
事を措くの義のオク(置)より時の観念に移った(国語の語幹とその分類=大島正健),
オソクル(遅来)の義(名言通),
オソククルカラ(和句解),
奥の活用語(東雅),

と載せるが,やはり,

送る・贈る・後る・遅る,

を一連と考える方が妥当だろう。

「はせ(馳せ)」は,「はしる」

http://ppnetwork.seesaa.net/article/450844131.html

で取り上げたが,『岩波古語辞典』には,

ハセ(馳)とハシリ(走)は同根,

とある。「走る」と同じ意なのだが,

馳せ参ず,

という言い方のように,

「馬などを駆けさせる,転じて,心の働きなどをある方向に向けて進める」(『日本語源大辞典』)

のように,気の急く感じが強い気がする。だから,

遅ればせながら,

の類語,

遅まきながら,

と比較すると,遅れたけれども,急いで間に合わせようとした,という気持ちの前のめりがある気がする。『実用日本語表現辞典』

http://www.weblio.jp/content/%E9%81%85%E3%81%BE%E3%81%8D%E3%81%AA%E3%81%8C%E3%82%89

は,「遅まきながら」を,

「今さらではあるが。『遅まき』とは、遅い時期に播種を行うこと。」

と,時機を逸した感がまさるようである。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm

posted by Toshi at 04:53| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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