「呉下の阿蒙」は,
呉下の旧阿蒙,
とも言う。
呉下の阿蒙にあらず,
という意味である。『広辞苑』には,
『三国志(呉志呂蒙伝,注)』
として,
「魯粛(ろしゅく)が呂蒙(りょもう)に会って談義し,『初めは君を武略に長じているだけの人だと思っていたが,今は学問が上達して,呉にいた時代の蒙君(阿蒙の『阿』は発語)ではない』といった故事から)昔の儘で進歩していない人物,学問のないつまらない者」
の意とある。「発語」は,
ほつご,
はつご,
と訓み,
言い出しの言葉,
文句の始まりに置く語(さい,そもそも等々)
語調をととのえるための接頭語(さ霧,か弱し等々),
とあるが,この場合も「阿」は親しみを込めて人の名前の前につける言葉,「呉下」は呉の国にいるという意。魯粛,呂蒙ともに,三国時代,呉の孫権に仕えた武将である。
呂蒙
『故事ことわざ辞典』には,「呉志・呂蒙伝・注」を,
「粛拊(うつ)蒙背曰,我謂,大弟但有武略耳,今者学識英博,非復呉下阿蒙。蒙曰,士別三日,即更括目相待。」
とある。つまり,
「粛蒙の背を拊(う)ちて曰く,我謂(おも)えらく,大弟但(ただ)武略有るのみと,今は学識英博にして,復(また)呉下の阿蒙に非ずと。蒙曰く,士別れて三日,即ち更に括目して相待つと」
と。ここで,
「士別れて三日まさに刮目して相待すべし。」
とセットであることがわかる。いまだと,
「男子三日会わざれば刮目して見よ。」
といった言い方になる。上記の「呉志・呂蒙伝・注」には,前段がある。「士別れて三日まさに刮目して相待すべし。」の項に,こうある。
「江表伝曰,初権謂蒙及蒋欽曰,卿今並当塗掌事,宜学問以自開益,(略)蒙始就学,篤志不倦,其所覧見,旧儒不勝,後魯粛上代周瑜,過蒙言議,常欲受屈,」
と。これに,「粛拊蒙背曰」云々,
「粛拊(うつ)蒙背曰,我謂,大弟但有武略耳,今者学識英博,非復呉下阿蒙。蒙曰,士別三日,即更括目相待。」
と続き,
「大兄今論,何一称穣侯乎」
と続く。
「(呉の歴史書)江表伝に曰く,初め権蒙及び蒋欽に謂って曰く,卿今並びに塗に当たりて事を掌る,宜しく学問して以て自ら開益すべし。(略)蒙始めて学に就き,篤志倦まず,其の覧見する所,旧儒も勝たず,後魯粛周瑜に代わりて,蒙を過(よぎ)りて言議し,常に屈を受けんと欲す。」
最後は,
「大兄の今の論,何ぞ一に穣侯を称するか」
となる。
「宰相として内政を行うだけでなく,自らも将軍として戦地に赴くなど武に優れた面もあった」
とされる穣侯に準えた,ということのようだ。
どうやら,蒋欽と呂蒙は,共に孫権から勉学に励むように諭され,必死に書物を読んで勉強し,呂蒙は蒋欽とともに,孫権に「その行いは人々の模範となり、国士である」と賛嘆された,ということらしい。この流れは,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%91%82%E8%92%99
によれば,
「魯粛が周瑜の後任として陸口に赴く途中、呂蒙の軍営の前を通った。呂蒙に対し、魯粛があれこれ質問してみると、勉学に励んでいた呂蒙は何でもスラスラと答えてしまったという。魯粛は関羽対策について、逆に呂蒙から5つの策略を与えられることになった。」
ということになる。『日本大百科全書(ニッポニカ)』では,「呉下の阿蒙」の出典を,『十八史略』「東漢・献帝」の故事としているが,
『呉志』呂蒙伝の注に引く,『江表伝(こうひょうでん)』
が出典である。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%9F%E8%A1%A8%E4%BC%9D
にあるように,『江表伝』は,
「西晋の虞溥が編纂した呉の歴史書である。『旧唐書』「経籍志」に「江表伝五巻、虞溥撰」とある。早く散逸したため、清の王仁俊が輯本(ただし1条を載せるのみ)を編し『玉函山房輯佚書補編』に収載されている。」
ので,注に載せているのみと見ることができる。なお,
http://www23.tok2.com/home/rainy/seigo-gokanoamo.htm
に,呂蒙が関羽を破った逸話が載っている。
魯粛
なお「呂蒙(りょもう 178年 - 219年)」については,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%91%82%E8%92%99
に,また「魯粛(ろしゅく 172年 - 217年)」については,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AD%AF%E7%B2%9B
に,「蒋欽(しょう きん ?- 219年)」については,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%92%8B%E6%AC%BD
に詳しいし,「穣公(魏冄 生没年不詳)」については,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AD%8F%E3%82%BC%E3%83%B3
に詳しい。また,『江表伝』についても,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%9F%E8%A1%A8%E4%BC%9D
に詳しい。
参考文献;
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%91%89%E4%B8%8B%E3%81%AE%E9%98%BF%E8%92%99
尚学図書編『故事ことわざの辞典』(小学館)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm