2017年10月05日


「め」は,

目,
眼,

と当てる。まず漢字を見てみると,「目」の字は,象形文字。

「目を描いたもので,まぶたにおおわれているめのこと」

「眼」の字は,

「艮(こん)は『目+匕首(ヒシュ)の匕(小刀)』の会意文字で,小刀でくまどっため。または,小刀で彫ったような穴にはまっているめ。一定の座にはまって動かない意を含む。眼は『目+音符艮』で,艮の原義をあらわす。」

とある。「目」は,まぶたを閉じた目,「眼」は,頭骨の穴にはまっているめ,を意味する。あえて言うと,「眼」は目玉の意と言うことになる。

目.jpg


「め」の語源は,『大言海』には,

「見(ミ)と通ず。或いは云ふ,見(ミエ)の約」

とある。確かに,文脈依存の和語なら,器官としての「目」は,「見る」という動作から来ていると思える。ただ,『大言海』は,「め(目・眼)」以外に,その意味の外延を拡げた「め(目)」として,

「間(ま)の転」

という,「賽の目」「木の目」「網の目」「鋸の目」という用例の「め」と,「め(目)」として,

「見えの約。先ず目に見て心に受くれば云ふ」

という,「憂き目」「酷い目」「嬉しい目」という用例の「め」とを区別してあげている。

『岩波古語辞典』には,

「古形マ(目)の転。メ(芽)と同根」

とある。「まなこ」「まぶた(目蓋)」「まなざし(眼差し)」「まあひ(目間)」といういい方をする「ま」である。「芽」を見ると,「メ(目)と同根」とある。しかし,『日本語源広辞典』は,

「メ(見る器官)で,『見ると同根』です。芽と同根説もありますが,疑問です。造語勢分としては,マとなります。」

としている。「眼差し」というときの「ま」は,「目の音韻変化」ということを言っているのだろう。しかし,「まなこ」という言い方がある。

「まなこ」について,『岩波古語辞典』は,

「『目(ま)な子』の意。ナは連体助詞」

とし,『大言海』も,「まなこ」を,

「目之子の転」

とするし,『日本語源広辞典』も,少し違うが,

「『マ(目)+ナ(の)+コ(黒目)の音韻変化』説が有力です。目の中の黒い瞳を指して言っていたのが後に目を指すようになったと思われます。」

とすると,「め」の古形は,「ま」とする説の例証になる。『日本語源大辞典』は,「まなこ」について,

目之子の義(倭名抄・類聚名物考・大言海),
メナカ(目中)の義(日本釈名・名言通・和訓栞),
メノココロ(目之心)の義,また,メノソコ(目之底)の義(日本語原学=林甕臣),
マは目,ナは中,コは童子の義か(和句解),
メナカコ(目中心)の義(言元梯),
マノコ(真子)の義(志布可起),

と並べる。いずれも瞳を指しているに違いないが,「ま(目)」とする傍証は,「まみえる(まみゆ)」という言葉だ。

見える,

と当てるが,『広辞苑』には,

目(ま)見える,

とある。

貴人に対面する,

という意だ。「ま(目)+見える」である。やはり,「め」の古形「ま」には,説得力がある。

『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/me/me.html

は,

「『ミエ(見え)』の変化や『ミ(見)』に通じる語など、『見』の意味を語源とする説が多く、妥当と思われる。ただし、『め』よりも古く『まなこ』が使われていた可能性も高いため、『目』の 意味で『ま』が使われ、変化して『め」になり、『ま』は複合語の中でのみ用いられるようになったとも考えられる。』

と,「ま」説に含みを持たせている。

『日本語源大辞典』は,

「①『め(芽)』『見る』などと同根とされる。
 ②『め』に対して,『まぶた』『まつげ』『まなこ』などの複合語でのみ使われる『ま』がある。
 ③類義語『まなこ』の語源は,一般に『ま(目)+な(助詞)+子』とされ,『め』が眼全体を表すのに対して『まなこ』は黒目の部分をさすといわれる。
 ④『日本言語地図』における分布傾向からは,『め』よりも『まなこ』の方が古い可能性が看取される。それに関連して,『まなこ』の語源を,マナ(←南島語起源のマタ)+ナ+コの省略によるものとし,そのマからメが生じたとする説(村山七郎)もある。マナ(目)+コ(指小辞)と取る説もある。」

と書く。「ま」古形説を取りたいが,「め(芽)」と同根は,どうだろう。

「め(芽)」の語源説を拾ってみると,

モエ(萌)の約(名語記・古事記伝・言元梯・松屋筆記・菊池俗語考・和訓栞・言葉の根しらべの=鈴木潔子・大言海),
萌の字音から(外来語辞典=荒川惣兵衛),
メ(目)の義(名語記・九桂草堂随筆・和訓栞・言葉の根しらべの=鈴木潔子・国語溯原=大矢徹・国語の語幹とその分類=大島正健),
ミエ(見)の義(名言通),
メグムの略(滑稽雑談),
メ(愛)ずべきものの意から(本朝辞源=宇田甘冥),

とあり,『日本語源広辞典』も,

「もえ(萌え)の約」

としている。やはり,「め(芽)」は,こちらだろう。とすると,「古形マ」の語源が分からなくなるが,『大言海』の,

「間(ま)の転」

とする「め」こそが,「め」の語源に思えてくる。「あいだ(間)」には違いない。

参考文献;
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9B%AE
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)


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