2017年10月09日
たしなむ
「たしなむ」については,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/397596781.html
で触れた。語源は,
タシナム(堪え忍ぶ)の変化,
だという。転じて,
深く隠し持つ,
常に心がける,
謹む,
遠慮する,
身辺を清潔にする,
有ることに心を打ちこむ,
といった意味になる,とある。ニュアンスは,嗜みは,
身につけておくべき芸事の心得を指し,「素養」よりも技術的な側面が強い,
とある。では,素養はというと,
日ごろから修養によって身につけた教養や技術を指し,「心得」や「嗜み」に比べ,実用面より知識に重きを置く,
とある。では,教養はというと,
世の中に必要な学問・知識・作法・習慣などを身につけることによって養われる心の豊かさを指す,
とある。どうも,心映えに関わる気がする。心映えについては,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/388163582.html
で触れたが,心ばえも,
心延えと書くと,
その人の心が外へ広がり,延びていく状態をさし,
心映え
と書くと,「映」が,映る,月光が水に映る,反映する,のように,心の輝きが,外に照り映えていく状態になる。心情的には,
おのずから照りだす,
心映え
がいい。つまり,内側のその人の器量が,外へあふれて出るよりは,おのずから照りだす,というのが,
嗜む,
というつつましさに似合っている。どうも,嗜みは,教養,素養,作法よりも,それをもっているとは言わなくても,そこはかとなく滲み出てくる,そんなニュアンスである。
「たしなむ」は,実は,
嗜む,
の他に,
窘む,
とも当てる。漢字を先に見ておくと,「嗜」の字は,
「耆(キ)は『老(としより)+旨(うまい)』の会意文字で,長く年がたって深い味のついた意を含む。旨は『匕(ナイフ)+甘(うまい)』の会意文字で,ナイフを添えたうまいごちそう。嗜は『口+耆』で,深い味のごちそうを長い間口で味わうこと。旨(シ)と同系のことばだが,『主旨』の意に転用されたため,嗜の字でうまい物を味わうという原義をあらわした。」
とあり,
それに親しむことが長い間の習慣になる,
という意味となる。「窘」の字は,
「『穴(あな)+音符君』。君は(尹は,手と丿印の会意文字で,滋養下を調和する働きを示す。もと,神と人との間をとりもっておさめる聖職のこと。君は『口+音符尹(イン)』で,尹に口を加えて号令する意を添えたもの。人々に号令して円満周到におさめるひとをいうので)丸くまとめる意を含む。穴の中にはいったように,まるく囲まれて動けないこと」
で,
「外を取り囲まれて,動きが取れなくなる,自由がきかないさま」
の意となる。『大言海』は,「たしなむ」を,四項目立てている。
まず,
「窘む」
と当てて,
「足無(たしなみ)の意か」
とした上で,
窮して,苦しむ,
研究す,
の意味を載せる。次は,
矜持,
と当てて,
行儀の正しからむやうにする,
の意を載せる。その次に,
嗜む,
と当てて,
「窘(たしな)みて好む意か」
とし,
たしなむ,好む,
転じて,予(かね)て心掛く,
戒む,
つつしむ,
の意を載せる。そして,最後に,
窘む,
と当てて,
苦しむ,悩ます,困らす,
の意を載せる。どうやら,「矜持」は,「たしなみ」の心がけの延長線上にあるとして,「窘む」と「嗜む」と当てる字を分けて区別しているが,
たしなむ(tasinamu),
という和語が,そもそも端緒としてあるということを思わせる。『岩波古語辞典』には,
「たしなみ」
として載り,
「タシナシの動詞形」
とし,
困窮する,窮地に立つ,
苦しさに堪えて一生懸命つとめる,
強い愛情をもって心がける,
かねて心がけ用意する,
気を使う,細心の注意を払う,
つつしむ,
と意味が載る。「たしなし」を見ると,
「タシはタシカ(確)・タシナミなどのタシ。窮迫・困窮,またそれに堪える意。ナシは甚だしい意」
とあり,
窮迫状態にある,
はげしく苦しい,
老いやつれて病み,また物事に失意のさまである,
という意味になる。ということは,「たしなむ」は,
困窮状態にある→それに堪えて懸命につとめる→困窮にあらかじめ心がける→いましめ,つつしむ,
と,困窮の状態表現から,それに堪える価値表現へと転じ,そういう状態にどれだけ予め備える心がけへと転じ,それを戒めとか慎みといった価値表現まで広げた,という流れになる。そう考えると,
窘む,
と当てた方が,原義に近く,
嗜む,
は,その意味が拡大し,心がけの価値表現へと転じた意味だと知れる。とすると,「嗜む」には,
常に心がける,
という含意があるということになる。『日本語源広辞典』は,
「タシナム(堪え忍ぶ)」の変化です。転じて,深く隠し持つ,常に心がける,慎む,遠慮する,身辺を清潔にする,細かく気を使う,あることに打ち込む」
としている。含意は良く見える。
https://www.waraerujd.com/blank-42
は,
「たしなむ程度の『たしなむ』は、好んで親しむという意味で、『俳句をたしなむ』『お茶をたしなむ』などと用いる。漢字では嗜好品(コーヒーやタバコなど習慣性のある飲食物)の『嗜』を使って『嗜む』と書く。『酒をたしなむ』と言った場合、酒が好きでよく飲むという意味だが、あくまでその味わいや場の雰囲気が好きなのであって、浴びるほど飲んだり、中毒症状を呈したりはしないという意味合いを含む。同様に、酒の飲み方や飲む量について言う『たしなむ程度』も、酒は好きだけれど、多量には飲まない(飲めない)という意味で使う。」
とあるが,ここには,「心がけ」と「つつしみ」の含意を込めてみる必要がある。『由来・語源辞典』
http://yain.jp/i/%E8%BA%AB%E3%81%A0%E3%81%97%E3%81%AA%E3%81%BF
は,「身だしなみ」で,
「好みや嗜好を表すほか、以前からの心がけ、心構えなどを意味する。」
としているのは妥当だろう。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
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今日のアイデア;
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