2017年10月13日

ゆび


「ゆび」は,

指,

と当てる。「指」の字は,

「『手+音符旨』で,まっすぐ伸びて直線に物をさすゆびで,まっすぐに進む意を含む。旨(シ うまいごちそう)は,ここでは単なる音符に過ぎない」

であるが,因みに「旨」の字は,

「もと『匕+甘(うまい)』の会意文字。匕印は,人の形であるが,まさか人肉の脂ではあるまい。匕(さじ)のあてた字であろう。つまり『さじ+甘』で,うまい食物のこと。のち指(ゆびで示す)に当て,指し示す内容の意に用いる」

とある。『岩波古語辞典』には,「ゆび」について,

「古形オヨビの転」

とある。また『大言海』も,

「オヨビの略転。訛して,イビ,また,ヨビ。古くは,オヨビ」

とある。また『和名抄』には,

「於與比」

と当てている。「および」は(「ゆび」の意だが),『岩波古語辞典』に,

「上代,ヨビの音の甲乙類未詳」

とある。上代特殊仮名遣いについては,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8A%E4%BB%A3%E7%89%B9%E6%AE%8A%E4%BB%AE%E5%90%8D%E9%81%A3

に詳しい。

『日本語源広辞典』は,「ゆび」の語源を,二説挙げる。

説1,「『及び,オヨビから,オ音脱落。ユビ』です。手の先で物に届く(及ぶ)部分を言います。」
説2,「『結う,ユウの連用形ユヒの音韻変化』です。手の先で物を結ぶ部分の意です。」

しかし,古形が「および」なら,説2は成り立たない。だから,『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/yu/yubi.html

は,

「指の語源は諸説あるが、古くは『および』と言い、さし出して物に及ぶところから、『及び( および)』の意味とする説がよい。 現在では手足ともに『ゆび』と呼ぶが、元は手のものを『指(てゆび)』、足のものを『趾(あしゆび)』といって区別していた。」

とする。どうやら,語源は,「さし出して物に及ぶ」意から,手の指から始まったようだか,和語では,手足の区別をせず,「ゆび」と言った。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8C%87

にある通り,

「大和言葉としての『ゆび」は手足両方を指すが、漢字の『指』は手偏が付いていることからもわかるとおり、本来は手の『ゆび』を意味する。(中略)日本語でも、医学用語では「指」と「趾」を区別する。』

ゆび.jpg


では,ついでなので,五指,

親指,
人差し指,
中指,
薬指,
小指,

の語源は,どうなのだろう。「おやゆび」は,『日本語源広辞典』は,

「親+指」

とするが,古形が「および」と考えると,少しいかがわしい。『大言海』は,

オホオヨビ,オホユビ,

とする。『日本語源大辞典』は,

「古くはオホオヨビ。十二世紀頃にオホユビとなり,近世まで親指の呼称の中心的なものとして使用された。オヤユビは元禄時代頃から用例が見えるが,オホユビの勢力も依然強く,節用集類でもオホユビの訓のものが多い。『書言字考節用集』では,『拇』に対し右に『オホユビ』,左に『オヤユビ』と訓を付している。当時としてはオホユビを正しいとする意識があったのであろう。明治になった,オヤユビがオホユビを圧倒する」

とある。つまり,「オホユビ」,「大指」である。『岩波古語辞典』には,

オホオヨビの転,

とある。「大きいオヨビ(指)」の意である。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A6%AA%E6%8C%87

にも,

「中世の日本では『おほゆび(大指)』と呼ばれ、江戸時代に『おやゆび』の用例が見られるようになった。親指の呼称が定着したのは明治時代以後のことである。」

とある。「人差し指」は,文字通り,

「人をゆびさす指の意」

とある(『広辞苑』『日本語源広辞典』『大言海』)。『日本語源大辞典』は,

「上代・中古には,人をさすときに用いる指ということからヒトサシノオヨビと呼ばれた。その後,ヒトサシノユビ,ヒトサシユビと変化して現在に至る。中世には,古形を残すヒトサシオユビ,省略形のヒトサシも見られるが,いずれも一般化することはなかった。」

とある。今も昔も,人を指さすには,この指を使うらしい。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%BA%E5%B7%AE%E3%81%97%E6%8C%87

によると,

「和語ではお母さん指、塩舐め指、医学用語では第二指、示指、漢語では食指、頭指との呼び方がある。 」

とある。

「中指」は,『大言海』に,古称として,

タケタカユビ,
タカタカユビ,
ナカノオヨビ,

の呼び名が載る。一番長い指という意になる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E6%8C%87

にも,

「和語ではお兄さん指、高高指(たかたかゆび、丈高指の転訛)、医学用語では第三指、中指(ちゅうし)、漢語では中指(ちゅうし)、長指との呼び方がある。」

と載る。『日本語源大辞典』は,

「古くは,五本の指の中の真ん中の指ということでナカ(中)オヨビ(指)。後にナカノユビ,ナカユビへと変化し現在に至っている。十五世紀頃にタケタカユビという呼び方が生まれ,母音の同化と『高』の類推からタカタカユビとともに,近世にはナカユビよりも広く使われた。ナカユビが古い規範的な表現。タケタカユビが一般の表現,タカタカユビは俗語的な表現と意識される。タカタカユビの重複をきらってタカユビも生じたが,一般化しなかった。近世以降タケタカユビは使われなくなり,ナカユビが再び一般化した。」

とある。『和名抄』には,

「奈加乃於與比」

と当て,『松屋筆記』には,

「タカタカユビは,ナカユビなり」

と載る(『大言海』)。

「薬指」は,『広辞苑』に,

「薬を溶かす時,主にこの指を用いることからいう」

とあり,『岩波古語辞典』には,「薬指」を,

薬師指,

とする。『大言海』は,「薬師指(くすしゆび)」の項で,

「古名無名(ななし)の指(および)。いまくすりゆびと云ふ。」

とし,こう書く。

「古へ,無名(ななし)の指(および)と云ひしは,名の無かりしものか,薬師指(くすしゆび)の名は,室町時代に起こりしものか。古へ,此の指を曲げて,薬を点じたり,薬師如来の印相なりと云ふ。其の薬師(やくし)をを薬師(くすし)と訓読したる語か。或いは,動詞クススの名詞形なるか,クスリユビトと云ふは,これより移りたるなり」

と。また,

http://www.snap-tck.com/room04/c02/misc/misc01.html

によれば,

「薬指の古い呼び名は『薬師指(くすしゆび)』つまり『医者の指』で、医者が薬指を使って薬を塗ったので、普通の人もそれを真似るようになったようです。 薬指のもっと古い呼び名は『名無し指』で、これは薬指には魔力があると考えられていたので、その名前を直接呼ぶのを避けたことに由来します。 薬指に魔力があるという考えは世界中にあり、西洋で、やはり魔力を持つと信じられていた指輪を薬指にはめるのもこの考えに由来します。」

とあるので,薬指で薬を説くのには,何か謂れがあるに違いない。

『日本語源大辞典』は,文献上からの語形の変化を,こう整理している。

「およそ奈良~鎌倉にナナシユビ,鎌倉~江戸前期にクスシユビ,室町末期~明治にベニサシユビとなっている。また中世には既にクスシユビとクスリユビが共存し,主として前者が上層語・文章語,後者が庶民口頭語として位相を分かち合っていたと考えられる。」

「小指」は,古称は,

コオヨビ,

つまり,文字通り小さい指。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E6%8C%87

には,

「和語では赤ちゃん指、医学用語では第五指、小指(しょうし)、漢語では小指(しょうし)、季指との呼び方もある。」

とある。『日本語源大辞典』には,

「『季指』の訓として『十巻本和名抄』に『古於與比』,『観智院本名義抄』に『コオヨビ』,『色葉字類抄』に『コユヒ』とあるところから,小指の呼称は『コオヨビ』『コオユビ』『コユビ』と変化してきたことがうかがわれる。『色葉字類抄』以後,現代に至るまで,『コユビ』が小指の呼称の中心になっているが,中世には,指の古い呼称『オヨビ』の意味が分からなくなり,『オ』を『小』と解して,小指の意味であるとした例が見られ,近世には,『小指』を音読した『ショウシ』や,俗語的な『コイビ』もあるが,一般的な呼称にはならなかった。」

とある。

参考文献;
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8C%87
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
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posted by Toshi at 04:59| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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