2017年10月14日
あたま
「あたま」は,
頭,
とあてるが,和語では,
かしら,
こうべ,
つむり,
つぶり,
かぶ,
つむ,
等々,異称がある。「頭」の字は,
「『頁(あたま)+音符豆(じっとたつたかつき)』で,まっすぐたっているあたま」
で,「頁」の字が,
「人間の頭を大きく描き,その下に小さく両足をそえた形に描いたもの。頭・額・頷(あご)などの字に,あたまを示す意符として含まれる」
を意味し,「豆」の字は,
「たかつきを描いたもので,じっとひと所にたつ意を含む。のち,たかつきの形をしたまめの意に転用された」
とある。
さて,和語「あたま」について,『語源由来辞典』
http://gogen-allguide.com/a/atama.html
は,
「『当間(あてま)』の転で灸点に当たる所の意味や、『天玉(あたま)』『貴間(あてま)』の意味など諸説あるが未詳。 古くは『かぶ』『かしら』『かうべ(こうべ)』と言い、『かぶ』は 奈良時代には古語化していたとされる。『かしら』は奈良時代から見られ、頭を表す代表 語となっていた。『こうべ』は平安時代以降みられるが、『かしら』に比べ用法や使用例が狭く、室町時代には古語化し、『あたま』が徐々に使われるようになった。『あたま』は、もとは前頭部中央の骨と骨の隙間を表した語で、頭頂や頭全体を表すようになったが、まだ『かしら』が代表的な言葉として用いられ、『つむり』『かぶり』『くび』などと併用されていた。しだいに『あたま』が勢力を広げて代表的な言葉となり、脳の働きや人数を表すようにもなった。」
と,
かぶ→かしら→こうべ→(つむり・かぶり・くび)→あたま,
と変遷したということらしい。『岩波古語辞典』によると,「あたま」は,
「古くは頭の前頂,乳児のひよめき。頭部全体は古くはカシラといったが,中世以後,アタマともいうようになり,カシラはだんだん文語的につかわれるようになった。」
とある。「ひよひよ」とは,
「(ひよひよと動く意)幼児の頭蓋骨がまだ完全に縫合し終らない時,脈搏につれて動いて見える前頭および後頭の一部。」
とある。『日本語源大辞典』にも,
「類義語カシラは奈良時代にすでに例があり,平安時代に入ると漢文特有語であるカウベとともに,和文特有語として多用された。室町時代口語資料でも中心的に用いられているが,しだいに動物の頭を指して使われることが多くなり,江戸時代には,アタマに代表語としての地位を譲ることになる。アタマは,平安時代にその例が見られるが,はじめはひよめき(頭の前頂部)の位置を表した。その後,頭頂部まで範囲を拡大し,室町後期から江戸初期にかけて頭全体を表すようになり,カシラの意味の縮小にともない,頭部を表す代表語になった。」
とあり,特定部分を指した「あたま」が,全体を意味するに転じたことになる。『大言海』は,
「灸穴(きゅうけつ)の名。當間(あてま)の轉にて(楯並(たてな)めて,たたなめて),灸點に當つる所の意か。…頭骨,交會の處なり」
とする。『日本語源広辞典』は,「あたま」の語源を,二説挙げる。
説1は,「『当て+間』で,針灸点のヒヨメキから,頭頂のことを意味し,後に,頭全体を表すようになります。」
説2は,「『ア(天・最上部)+タマ(丸い部分)』が語源だとする説。」
後で触れる「カシラ」「こうべ」との類推をするなら,箇所の位置を示す,というのが自然に思える。針灸点は,後に普及するのに力があったとしても,「あたま」の語源としては,前後が逆の気がする。その他の,
アタマ(天玉)の義(和訓栞・言葉の根しらべの=鈴木潔子),
アタルマド(当窓)の略。アタルとは,そのいただきに当たる意(名言通),
アテマ(貴間)の義(言元梯),
アノツマ(天間)の義(日本語源=賀茂百樹),
等々,位置と関わる語が多い。
では,長く頭の意を表した「カシラ」は,『岩波古語辞典』に,
「頭髪や顔を含めて,頭全体を身体の一部分としてとらえた語。カシはカシヅキのカシと同じ。ラは接尾語。頭髪だけをとりたてる場合はカミという。類義語カウベは頭部を身体から離してとらえた語。カシラには『結ふ』『剃る』などというが,普通カウベにはいわない。アタマは古くはひよめきのこと」
とあり,これだけだと,「カシ」の意味が分からないが,『大言海』は,
「上代(カミシロ)の略転か(かみさし,かざし)」
とする。この他,
髪代の義か(俗語考),
カミ(上)にあってシルキ(著)の義から(和訓栞),
カミシラレ(上識)の義。シラレは誰々と弁別して知られる意(名言通),
等々,この位置からの表現の仕方から,「かしら」が,「こうべ」と同じ表現の仕方なのがわかる。「こうべ」も,
カミヘ(上辺)の転か(『広辞苑』),
頭上(かぶうへ)の音便約,あるいは,頭方(かぶべ)の音便(『大言海』),
カブベ(頭方)の音便(於路加於比),
カウベ(上辺)の義(和字正濫鈔・日本釈名=燕石雑誌),
カミヘ(上方・上辺)の音便(言元梯・俗語考・和訓栞・語麓),
髪辺の義か(和訓栞)
等々と,身体の上方という位置を示している。それだけに,「あたま」も,おそらく,位置表現から来ていると思わせる。
いちばん古い呼称の「かぶ」は,『大言海』に,
「カウベと云ふも,頭上(かぶうへ)の転なり,膝頭に,ヒザカブの名存せり」
とあるので,「かうべ」は,「かぶ」から来た,ということがわかるが,『岩波古語辞典』の「かぶ」を見ると,
頭,
株,
と当てて,
「カブラ(蕪)・カブツチのカブと同根。塊りになっていて,バラバラに離れることがないもの」
とあるので,植物についていった言葉を,人の頭に転用した,ということが類推される。
「つむり(つぶり)」は,『大言海』は,
「圓(つぶら)の転にて,元,禿頭の称ならむと云ふ」
というのが笑える。『岩波古語辞典』は,
「ツブ(粒)と同根」
とあるが,「つぶ」は,
「ツブシ(腿)・ツブリ・ツブラ(円)・ツブサニと同根」
とあるので,「円」という形から来たものとみてよい。この「つむり」が「おつむ」とつながる。『語源由来辞典』
http://gogen-allguide.com/o/otsumu.html
は,
「おつむは『おつむり』の略で、宮中の女官が用いた女房詞であった。『おつむり』の『お』は接頭語、『つむり』は頭のことである。『つむり』は『つぶり』が転じた語で、丸くて小さいものを表す『粒』と同源で、『かたつむり』の『つむり』など、渦巻状の貝にも用いられる。それが頭の意味で用いられ、女房詞で『おつむり』となり、『り』が略されて『おつむ』となった。」
とある。
最後に,こんにち「くび」は,
首,
だが,「あたま」の意でも使うが,『岩波古語辞典』にはこうある。
「古くは頭と胴とをつなぐくびれた部分。後に頸部を切り取った頭部すなわち頸部から上全体をも言うようになった」
と。「首を取る」とは,その意味である。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
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今日のアイデア;
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