2017年10月21日
しり
「しり」は,
尻,
後,
臀,
と当てる。「うしろ」の項,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/422266986.html
で触れたように,「うしろ」は,
「う(内部)+しろ(区域)」
で,内部から転じて,後部となった語,とされる(『日本語源広辞典』)。あととか背後の意味も持つ。しかし,『古語辞典』をみると,「うしろ」は,
「み(身)」の古形「む」と「しり」(後・尻)の古形「しろ」の結合した「ムシロ」の訛ったもの
とある。で,かつては,
まへ⇔しりへ
のちには,
まへ⇔うしろ
と対で使われる,とある。『大言海』には,
身後(むしり)の通音
とあり,むまの,うま(馬),むめの,うめ(梅)と同種の音韻変化,とある。ちなみに,「しり」は,
口(くち)と対,うしろの「しろ」と同根。
しり(後)
で,前(さき)後(しり)の「しり」が語源とある。いずれにしろ,「後」は,
背後から,後部,背中,後姿,裏側,物陰,
までの意味がある。この意味の「しり」に,
後,
を当てる。「後」の字は,
「『幺(わずか)+夂(あしをひきずる)+彳(いく)』で,あしをひいてわずかしか進めず,あとに遅れるさまを表す。のち,后(コウ・ゴ〔うしろ,尻の穴〕)と通じて用いられる。」
とある。もともとは,
人体後部の尻の穴のこと,
意味するらしいので,「しり(うしろ)」とほぼ重なる。「尻」の字は,
「九は,手のひどく曲がった姿で,曲りくねった末端の意を含む。尻は『尸(しり)+音符九』で,人体の末端で奥まった穴(肛門)のあるしりのこと」
で,まさに,尻ないし,尻の穴,の意である。「臀」の字は,
「殿の左側は,『尸(しり)+兀(腰掛け)二つ』の会意文字で,腰掛に載せたしりを示す。殿はそれに殳(動詞の記号)を加え,罪人のしりをうつこと,しんがりになることをしめす。臀は『肉+音符殿』。」
とあり,しり,しりの肉を意味する。
「しり」は,まさに,お尻の意味をメタファに,底面,後部,裾,終点,物の結末,等々と意味の外延を拡げている。『岩波古語辞典』の「しり」には,
「「口(くち)の対。ウシロのシロと同根。口から入ったものが体内を通って出る所。転じて,家の面の出入り口に対して裏の出入り口など。また,川や道などずっと通っているものの終る所,細長いものの末端。一方,シリのあるあたりの意で臀部,転じて,物の底部。また,後ろの意,下の意にも用いる。」
とし,対語は,した・しも,と書いている。
https://note.chiebukuro.yahoo.co.jp/detail/n345630
には,
「『siri(しり)』と言う単語は、非常に昔から『肛門の周辺の部分』を意味する単語として存在していたようです。」
とし,『古事記』の,
「爾(ここ)に大気都比売(オホツゲヒメ)、鼻口及(また)尻(しり)より、種種(くさぐさ)の味物(ためつもの)を取り出して」
の用例を載せている。『大言海』は,
「身の後(しり)の義ならむ」
とする。『日本語源広辞典』も,
「『シリ(後)』です。前(サキ)後(シリ)のシリ(後)が肉体の尻の語源」
とする。位置関係の,
まへ⇔しりへとするのが妥当のようだ。
「しり」の同義語には,
けつ,
おいど,
がある。『笑える国語辞典』には,
https://www.fleapedia.com/%E4%BA%94%E5%8D%81%E9%9F%B3%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9/%E3%81%91/%E3%82%B1%E3%83%84%E3%81%A8%E3%81%AF%E4%BD%95%E3%81%8B/
「けつ」について,
「ケツとは、尻(しり)のやや卑俗な表現。『尻』と同じように、臀部の他、列の最後部やランキング最下位などを意味する言葉として用いられる。
ケツは、『穴』の音読み『ケツ』が語源で、まさに尻の穴を意味しているが、実際的な用法では、穴とその周辺を含む『尻』のことを『ケツ』と言っている。だから『ケツの穴』というとほんとうは、『穴の穴』で意味をなさない言葉になる。」
とある。『大言海』も,
「尻の穴の音読みより移りたる語か,卑俗に,肛門をケツメと云ふ」
とあり,
「卑語に,ヰサラヒを云ふ。ヰシキ,しり。」
とある。「ゐさらひ」は,ほぼ使わない語だが,『岩波古語辞典』には,『和名抄』を引き,
「臋,井佐良比(ゐさらひ),坐処也」
とある。『大言海』には,
「膝行(ゐさり)の延と云ふ」
として,
「身の坐る時,坐に着く處。即ち尻。」
とある。「ゐしき(居敷)」も,ほぼ同じで,
「居敷くの名詞形」
で,「居敷く」とは,
しゃがむ,
ひざまづき,すわる,
意である。これも,その座席の意から,尻の意に転じた,と見ることができる。
「しり」の同義語で,いまひとつ「おゐど」は,『大言海』は,
御居處,
と当てている。つまり,「居敷」「ゐさらひ」と同じく,すわる場所から,意が転じたものと見なせる。ただ,女性が使う丁寧語,ということになる。『語源由来辞典』
http://gogen-allguide.com/o/oido.html
は,
「『お』は接頭語の『御』,『い』は『坐る』を意味する古語『ゐる(居る)』の名詞形。『ど』は『場所・処』を意味する『と・ど(処)』で,『おいど』は『坐るところ』という意味である。おしりは坐る際の中心となる部位であるため,中世頃から,上品な女性語として用いられるようになった。現在は,愛知と近畿以西の方言に見られる。」
とある。結局漢字「穴」を訓読みした語以外は,位置や場所を示す語が,「しり」に転用されたということになる。
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