2017年10月22日

やがて


「やがて」は,

軈て,

と当てるが,「軈」の字は,日本製の漢字。

「身+應(応)」

で,ある物事に身をすぐ適応させる意,らしい。「やがて」の意味に合わせて作ったものだろう。「やがて」について,

①本来は,間に介在するもののないさまをいう。
 ・とりもなおさず,すなわち
 ・時を移さず,すぐさま,ただちに
 ・そのまま
②おっつけ,まもなく,ほどなく,そのうちに,早晩,今に。

と意味を整理する。「直に」という空間的なものが,時間に転用され,「直ぐに」と転じ,その時間的な間合いを拡大して,「いまに」という意味に転じた,というように見える。今日では,「やがて」は,

ほどなく,まもなく,

の意で使うことが多い。

『岩波古語辞典』には,

「二つの動作や状態の間に何の変化も時間的な距りもない意が原義。そのままにの意から,さながら,ほかならぬの意。時間的には,間もなくの意」

と,時間的空間的な「直」の意とする。しかし,『大言海』は,

「止難(ヤミガテ)の意。止まむとして能わず,直(タダチ)の義。軈は和字。音便に,ヤンガテ」

とする。だから,意味は,

「そのままに,すなわち,ただちに,すぐに,頓,即」

「転じて,ほどなく,まもなく,おっつけ,いまに,早晩,尋(ついで),須臾」

と載せる。時間的な接着から,そこへ時間的に迫っているという動的意味に転じた。としている。

https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%82%84%E3%81%8C%E3%81%A6

は,

「ある時点からあまり時間が経過しない内にある事態が起こるさま。まもなく。」
「結局。究極においては。」

とし,動的ではなく,到達した時点の「ついに」の意味へと転じさせている。

http://dic.nicovideo.jp/a/%E8%BB%88

は,「軈」の字について,江戸中期の書〔同文通考・国字〕を引用して,

「軈(ヤガテ):猶、少時のごときなり」

とあるとする。これだと,間もなくの意の「おっつけ」とするか,猶予とみて「なお」とするか,微妙な時間間隔ということになる。

『日本語源広辞典』は,『大言海』と同じく,

「ヤミ(止)カテ(難し)」

とし,

ヤミカテ→ヤンカテ→ヤカテ→ヤガテ,

の音韻変化とする。で,

「止むことなく,間に介在しない時。そのまま,すぐに,たちまち,などの意」

と。これだと,

止むことのない状態という意味から,それが,そのままの意となり,それが,時間に転じて,すぐにとなり,その須臾の間隙を指して,まもなく,ついに,との意になった,ということになる。『学研全訳古語辞典』を見ると,

①そのまま。引き続いて。
②すぐに。ただちに。
③ほかでもなく。とりもなおさず。
④そっくり。そのまま全部。
⑤まもなく。そのうち。いずれ。

と意味が多様なことがわかる。『日本語源大辞典』によると,「ヤミガテ(止難)」以外に,

ヤ(矢)カ-テ(手)の義(言元梯),
ヤはヤス(安)のヤ,ガテはともに,また序にの意か(国語の語幹とその分類=大島正健),

があるとするが,ヤミガテ(止難)に軍配が上がりそうだ。さらに,『日本語源大辞典』は,

「①『観智院本名義抄』に『便 スナワチ ヤガテ』とあるように,『すなわち』に近い意で用いられたが,『すなわち』の漢文訓読で用いられるのに対して,『やがて』は,もっぱら和文脈で用いられた。②『今昔物語』ほかに『軈而』の形がみえ,のち『軈』一字をあてるようにもなるが,この字は国字で,『身をすぐに適応させる』意の会意文字と考えられる。③語の成り立ちについては,感動詞『や』に可能肯定判断を表す下二段動詞『かつ』の連用形『かて』がついて古くできたものという説がある。④日葡辞典には,『yacate(やかて)』の見出しもあるが,多く使われるのは『やがて』だと述べている。古くは清音だったか。」

と述べている。室町末期の『日葡辞典』が清音「やかて」を拾っていたとすると,「ヤミガテ(止難)」とするのには,難があるかもしれず,

感嘆詞「や」+「かて」

も捨てがたくなる。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm

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