2017年11月02日
ひげ
「ひげ」は,
髭,
鬚,
髯,
と当て別ける。「髭」の字は,「口ひげ」を指し,
きざぎさしたくちひげ,
鼻の下のふぞろいひげ,
の意味になる。
「髟(かみの毛)+音符此(シ ぎざぎしたふぞろいな)」
で,「鬚」の字は,
やわらかいあごひげ,
の意で,
「須は『頁(あたま)+彡(たくさんのけ,模様)』からなる会意文字で,柔らかいひげを表す。鬚は『髟(かみのけ)+音符須』」
とある。「須」自体が,
ひげ,
柔らかいひげ,とくにあごひげ,
を意味し,「須」の字を見ると,
「もと,あごひげの垂れた老人を描いた象形文字。のち,『彡(ひげ)+頁(あたま)』で,しっとりとしたひげのこと。柔らかくしめって,きびきびと動かぬ意から,しぶる,じっとたってまつの意となり,他者を頼りにして期待する,必要としてまちうけるなどの意となった。需も同じ経過をたどって必需意となり,須と通用する。」
とある。「髯」は,
ほおひげ,
の意で,
「冉(ゼン)は,柔らかいひげが垂れた姿を描いた象形文字。髯は,『髟(かみの毛)+音符冉』。冉の元の意味を表す。」
とある。
髭(くちひげ)・鬚(あごひげ)・髯(ほおひげ)の区別は,漢字由来のもので,もともとは「ひげ」と一括りにしてきたことになる。
『岩波古語辞典』は,
「ヒは朝鮮語ip(口)と関係あるか。ケは毛で,口毛の意か」
としているが,『大言海』は,
「秀毛(ひげ)の意,或は鰭毛(ひれげ)の意と云ふ」
とある。『日本語源広辞典』も,
「ヒ(秀)+毛」
で,
「『よく伸びる毛』が語源のようです。本来少ない頬や顎に,目だって伸びる毛を表したものです。」
とする。『日本語源大辞典』によると,意味は,大別,
口の周りや頬にはえる毛,
と
動物の口のあたりにはえる長い毛や毛状突起の総称,
とあり,「ひげ」は,「猫のひげ」というように,動物にも,昆虫の触角にも使う。で,語源も,
ヒレゲ(鰭毛)の義(菊池俗語考・和訓栞・大言海),
と
ヒゲ(秀毛)の義(日本釈名・柴門和語類集・大言海),
と,場所に関わる説,
ホホゲ(頬毛)の義(言元梯),
ホホクチゲ(頬口毛)の義(日本語原学=林甕臣),
ヘリゲの義。ヘリの反はヒ(名語記),
ヘゲ(辺毛)の義(名言通),
口の周りにあるところから,ヒラク-ケ(毛)の義か(和句解),
等々,ひげのはえる場所に関わる。そのために,『語源由来辞典』
http://gogen-allguide.com/hi/hige.html
は,
「ひげの 語源には、『ホホゲ(頬毛)』が転じて『ヒゲ』になったとする説。 魚のヒレのように生えることから『ヒレゲ(鰭毛)』が転じて『ヒゲ』になったとする説。へりにある毛なので『ヘゲ(辺毛)』『ヘリゲ(辺毛)』の意味とする説。口の周りにあることから,『ヒラマケ(開毛)』の意味とする説。『ひ』は朝鮮語で口を表す『ヒ(ip)』に由来して『ヒ(口)』の毛で『ヒゲ』になったとするなど諸説あるが未詳。『頬毛』や『鰭毛』の説は,頬のヒゲのみを表しているため考え難いが,元々,ヒゲが頬に生える毛のみを表していたと特定できれば,このいずれかの説でよいであろう。あごや頬も含めたヒゲという点からすれば,口の周りに生える毛『ヒラクケ(開毛)』の説がよいが,『口』をあえて『開く』と表現するとは考えられない。口の周りに生える毛という意味では,『くちびる』の語源と通じることから,『ヘゲ(辺毛)』『ヘリゲ(辺毛)』の説が良い。」
としている。さらに,
「ヒは朝鮮語ip(口)と関係あるか。ケは毛で,口毛の意か」
も,場所説のひとつになる。「くちびる」の項,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/454507440.html?1509567181
で触れたように,『岩波古語辞典』の「朝鮮南部方言kul(口)と同源」説から,
漢字の『口の入声kut+母音』→朝鮮南部方言kul(口)→和語,
の流れで,
kut→kutu→kuti,
と転じて来たと見ることができるし,さらに,
http://roz.my.coocan.jp/wissenshaft/AN_2/AN_JP_37_43.htm
のいう,
「『クチ』は、日本語と高句麗語にのみ存在が確認される言葉なのです。」
から,
漢字の入声→朝鮮半島北部→朝鮮半島南部→和語,
とつながる気がすると書いたことと関連させるなら,。
「ヒは朝鮮語ip(口)と関係あるか。ケは毛で,口毛の意か」
という説ともつながるきがするが,しかしこの場合も,「口」周辺の場所に特定するのは,無理筋の気がする。僕は,動物も人も魚も同列にする,「鰭」説に惹かれるが,「ひれ」の語源を観ると,『大言海』は,
「打ち振りヒラヒラする物の意」
であり,「領布」とあてる「ひら」と同源で,
「ヒラメク意」
とある。「ひれ」は,擬態語「ヒラヒラ」から来ていると見ていい。『日本語源広辞典』もその説を採るし,『日本語源大辞典』も,
ヒラヒラする物の意(筆の御霊・国語の語幹とその分類=大島正健・大言海),
ヒレ(領布)から(雅言考),
フリテ(振手)の義(日本語原学=林甕臣),
フリ(振)の義(名言通),
と,擬態語関連説が大勢を占める。とすると,「ひれ」は擬態語だとすると,「ひげ」は,どう見ても「ヒラヒラ」とする感じではない。『擬音語・擬態語辞典』の「ひらひら」には,
薄い物や小さい物が翻るように面を変えながら空中を漂う様子,
手のひらを何度も返すようにして手を振る様子,
炎や光が小刻みに揺れ動く様子,
布や紙などの薄い物が,面を返しながら,または面を波打たせるように,小刻みに揺れる様子,
等々の擬態で,毛の揺らぐ様子とは異なる。こうなると,
秀毛,
説が残ることになるが。どうもいまひとつしっくりしない。
参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
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