2017年11月05日

こも


「おこも(さん)」というのは,最近使われなくなった気がするが,

御薦,

と当てる。『広辞苑』には,

「こもかぶり」から,

とある。「こもかぶり」は,

薦被り,

と当て,

薦で包んだ四斗入りの酒樽,
(薦を被っていたから)こじきの異称,

と,『広辞苑』にはある。前者は,よく「薦被り」という酒樽のことだが,『大言海』には,後者について,

「俗に,乞食の異名。婦女子の詞ニ,オコモと云ふ。衣なくして酒樽の薦を被り居るより云ふ」

とあり,衣服の代わりに薦を被っていたということになる。

「こも」を引くと,

薦,
菰,

と当て,

マコモ,
あらく織ったむしろ。もとはマコモを材料としたが,今は藁を用いる,
(「虚無」とも書く)薦僧(こもそう)の略,

と意味が載る(『広辞苑』)『岩波古語辞典』には,

「薦,コモ・ムシロ」

と,『名義抄』が引用されている。「まこも(真菰)」については,『大辞林』に,

「イネ科の大形多年草。水辺に群生。稈(かん)の高さ約1.5メートル。葉は長さ約1メートルの線形。秋,円錐花序上半に雌花穂,下半に雄花穂を多数つける。葉で筵(むしろ)を編む。黒穂病菌に侵された幼苗は菰角(こもづの)といい,食用とし,また眉墨(まゆずみ)とした。カツミ。コモクサ。コモ。 [季] 夏。 《 舟に乗る人や-に隠れ去る /虚子 》 〔「真菰の花」は [季]秋〕」

とあり,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%B3%E3%83%A2

に詳しい。

まこも.JPG

(まこも(真菰))

「こも」について,『大言海』は,

菰・蒋,

の字を当てる項と,

菰,

の字を当てる項と,

藺,

の字を当てるのと,

海蓴,

の字を当てるのを分けて載せている。「菰・蒋」の「こも」は,

「クミの轉か(拱(コマヌ)クもクミヌクの転なるべし。黄泉(よみ),よもつ)。組草などと云ふが,成語なるべく,葉を組み作る草の意。即ち,薦(こも)となる。菰(かつみ)の籠(かつま)に移れるが如きか(藺(ゐ)をコモクサと云ふも,組草,即ち,薦草(こもくさ)ならむ)。マコモと云ふやうになりしは,海蓴(コモ)と別ちて,真菰(まこも)と云ふにか。物類称呼(安永)三『菰,海藻にコモと云ふあり,因りて,マコモと云ふ』」

と注記がある。「薦」と当てる「こも」は,

「菰席(こもむしろ)の下略(祝詞(のりとごと),のりと。辛夷(こぶしはじかみ),こぶし)。菰の葉にて作れるが,元なり。神事に用ゐる清薦(すごも),即ち,菰席(こもむしろ)なり」

とある。「藺」の字を当てる「こも」は,

こもくさ,

を指し,

「薦に組み作る草の意。藺の一名,

とあり,「こもくさ」の下を略して,「こも」である。「海蓴」の字を当てる「こも」は,

「小藻か,籠藻か」

とあり,やはり,細く切って,羹(あつもの)にすべし,とあるので,食用だったと見なされる。「蓴」は,「ぬなわ」で,「じゅんさい(蓴菜)」である。

神事で,用いていたところを見ると,「薦」は,大切なものだったに違いない。しかし,稲作とともに,藁が潤沢となり,「菰席(こもむしろ)」は,蓆に堕ちた,という感じだろうか。「薦被り」も「おこもさん」まで,堕ちるということか。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)


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posted by Toshi at 04:57| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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