2017年11月17日

さす


「さす」と当てる字は,

止す,
刺す,
挿す,
指す,
注す,
点す,
鎖す,
差す,
捺す,

等々とある(『広辞苑』。「令(為)す」という使役は別にして,『大言海』は,そのほか,「發す」「映す」「擎す(ささげる意)」を載せる)。文脈依存で,会話では「さす」で了解し合えても,文字になった時,意味が多重すぎる。で,漢字を借りて,使い分けた,とみえる。しかし,「さす」は,連用形「さし」で,

差し招く,
差し出す,
差し迫る,

と,動詞に冠して,語勢を強めたり語調を整えたりするのに使われるが,その「さし」は,使い分けている「さす」の意味の翳をまとっているように見える。

まず「さす」について,『岩波古語辞典』は,

「最も古くは,自然現象において活動力・生命力が直線的に発現し作用する意。ついで空間的・時間的な目標の一点の方向へ,直線的に運動・力・意向がはたらき,目標の内部に直入する意」

とある。で,「射す・差す」について,

「自然現象において活動力が一方に向かってはたらく」

として,光が射す,枝が伸びる,雲が立ち上る,色を帯びる等々といった意味を挙げる。次いで,「指す・差す」について,

「一定の方向に向かって,直線的に運動をする」

として,腕などを伸ばす,まっすぐに向かう,一点を示す,杯を出す,指定する,指摘する等々といった意味を挙げる。次いで,「刺す・挿す」について,

「先の鋭く尖ったもの,あるいは細く長いものを,真っ直ぐに一点に突き込む」

として,針などをつきさす,針で縫い付ける,棹や棒を水や土の中に突き込む,長いものをまっすぐに入れる,はさんでつける等々といった意味を挙げる。さらに,「鎖す・閉す」について,

「棒状のものをさしこむ意から,ものの隙間に何かをはさみこんで動かないようにする」

として,錠をおろす,ものをつっこみ閉じ込めるといった意味を載せる。さらに「注す・点す」について,

「異質なものをじかにそそぎ加えて変化を起こさせる」

として,注ぎ入れる,火を点ずる,塗りつけるといった意味を載せる。最後に,「止し」について,

「鎖す意から,動詞連用形を承けて」

として,途中まで~仕掛けてやめる,~しかける,という意味を載せる。

こう見ると,「さす」の意味が多様過ぎるように見えるが,

何かが働きかける,

という意味から,それが,対象にどんな形に関わるかで,

刺す,

挿す,

注す,

に代わり,ついには,その瞬間の経過そのものを,

~しかけている,

という意味にまで広げた,と見れば,意味の外延の広がりが見えなくもない。語源を見ると,『日本語源広辞典』は,

「刺す」

「指す・差す・射す・挿す・注す」

と,項を分けているが,結局,

刺す,

を原意としている。「刺す」に,

「表面を貫き,内部に異物が入る意です。または,その比喩的な意の刺す,螫す,挿す,注す,射す,差すが同語源です。」

とある。『日本語源大辞典』も,

「刺す・鎖す」

「差す・指す・射す」,

と項を別にしつつ,

「刺すと同源」

としている。では「刺す」の語源は何か。『日本語源大辞典』には,

サス(指)の義(言元梯・国語本義),
指して突く意(大言海),
間入の義。サは間の義を有する諸語の語根となる(国語の語幹とその分類=大島正健),
物をさしこみ,さしたてる際の音から(国語溯原=大矢徹),
進み出す義(日本語源=賀茂百樹),
サカス(裂)の義(名言通),
サはサキ(先)の義,スはスグ(直)の義(和句解),

等々と挙げている。擬音語・擬態語が多い和語のことから考えると,

物をさしこみ,さしたてる際の音から,

というのは捨てがたいが,まあ未詳ということになる。

http://xn--n8j9do164a.net/archives/4878.html

は,

「指す」のほうは基本的に、方向や方角などを指し示す場合に使われます。将棋は駒を指で動かすので、「指す」の字があてられるのですね。
「差す」は一般的に、細長い光などがすき間から入り込む様子を表します。もちろん、光だけではありません。「魔が差す」は、心のふとしたすき間からよこしまな考えが忍び込む、という意味ですね。
「挿す」は使い方が限定的で、おもに草花やかんざしなどに使われます。また、「挿し絵」のように何かの間にはさみこむ、さしいれるという意味があるようです。
「刺す」はわりと日常的に使われていますよね。言葉のニュアンスは「差す」よりも強く、細長くとがったもので何かを突き通す、という意味をもっています。「刺」のつくりはりっとうと言い、刃をもつ武器や道具を表す部首です。
このことからも、「刺す」は刃物を使って何かを突く、傷つけるという意味をもつこととがわかります。
「射す」は太陽の光や照明の明かりが入ってくること。
「注す」は水などの液体を容器に注ぐこと。
「点す」は目薬をつけることを表します。

と,意味の使い分けを整理しているが, 漢字は,

「刺」は,「朿(シ)の原字は,四方に鋭い刺の出た姿を描いた象形文字。『刺』は『刀+音符朿(とげ)』。刀で刺のようにさすこと。またちくりとさす針。朿は,束ではない。もともと名詞にはシ,動詞にはセキの音を用いたが,後に混用して多く,シの音を用いる」
「挿(插)」は,「臿(ソウ)は『臼(うす)+干(きね)』からなり,うすのなかにきねの棒をさしこむさまを示す。のち,手を添えてその原義をあらわす」
「指」は,「『手+音符旨』で,まっすぐに伸びて直線に物をさすゆびで,まっすぐに進む意を含む。旨(シ うまいごちそう)は,ここでは単なる音符にすぎない」
「差」は,「左はそばから左手で支える意を含み,交叉(コウサ)の叉(ささえる)と同系。差は『穂の形+音符左』。穂を交差して支えると,上端はⅩ型となり,そろわない,そのじくざぐした姿を示す」
「注」の字は,「水+音符主」。「主の字は,『ヽは,じっと燃え立つヽ灯火を描いた象形文字。主は,灯火が燭台の上でじっと燃えるさまを描いたもので,じっとひとところにとどまる意を含む』で,水が柱のように立って注ぐ意」
「点(點)」は,「占は『卜(うらなう)+口』の会意文字で,占って特定の箇所を撰び決めること。點は『黒(くろい)+音符占』で,特定の箇所を占有した黒いしるしのこと。のち略して点と書く」
「鎖」は,「右側の字(音サ)は,小さい意。鎖は素家を音符とし,金を加えた字で,小さい金輪を連ねたくさり。」

といった由来があり,多く漢字の意味に依存して,「さす」を使い分けたように見える。結局,どの字を使っても,

刺す,

に至るのだが,冒頭で述べたように,「さし」を接頭語にした語が多い。多くは,「差し」の字を当てる。『大言海』は,「差す」について,

「其職務を指して遣はす意ならむ。此語,ササレと,未然形に用ゐられてあれば,差の字音にはあらず,和漢,暗合なり。和訓栞,サス『使いをサシつかはす,人足をサスなど云ふは,差の字なり。匡謬正俗に,科發士馬,謂之為差と見ゆ,官府語也,日本紀に,差良家子為使者,軍防令に,凡差兵士と見えたる,是也』。陔餘叢考『官府遣役曰差』。品字箋『差遣,役使也』」

として,

充てて,遣る。つかわす,
押し遣る,また,行(や)る,行う,
前へ伸ばす,
突き張る,

といった意味を載せる。この「差」には,意図して,何かをする,何かをさせる,という含意が強い。だから,

「差し向かう」

という場合,単なる向き合っているのとは異なる含意になる。『日本語源広辞典』は,「さし」を,

接頭語,

としているが,

差し押さえる,
差し障る,
差し出す,
差し止める,
差し控える,
差し押さえる,
差し交わす,

等々,「差し」は単に強調以上の含意を引きずっているように見える。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm

【関連する記事】
posted by Toshi at 05:19| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください