いじける
「いじける」は,
恐ろしさのために縮こまりすくむ,
寒さのためにかじかむ,
ひねくれて臆病になる,のびやかでなくなる,
と意味の幅がある(『広辞苑』)。『デジタル大辞泉』は,もう少し丁寧に,
1 恐怖や寒さなどで、ちぢこまって元気がなくなる。「空腹でからだが―・ける」
2 ひねくれて、すなおでなくなる。すねたようすをする。「―・けた性格」「―・けた態度」
3 伸び伸びとした感じがしなくなる。「―・けた絵」
と,紹介する。これから推測するに,
おびえる→寒さで縮む→ひねくれる→のびのびしなくなる,
と意味が転化していったと見て取れる。『大言海』は,「いぢける」の項で,
「怖(おじ)けるの音轉なるべし(動く,おごく,いごく)。チヂムは,怖ぢたる状なり,イヂカリ股,エヂカリ股はイヂケ股の変転ならむ(かじかむ,かじける。蚊燻(かいぶし),カエブシ)。リは,添えたるもの(がたひし,がたりひしり。ちらと,ちらりと),イヂカリは関東にて,エヂカリは関西なるか。出典のエヂカリは京都人なり」
と,
おじける(odikeru)→いぢける(idikeru)→いじける(izikeru),
の転訛とする。『日本語源広辞典』も,
「オジケルの音韻変化」
とする。『日本語源大辞典』も,
オジケル(怖)の音轉,
とともに,
ヒシゲル(挫)の転,
を載せ,他の言葉の音韻変化とする。しかし,『岩波古語辞典』には,「いぢける」は載らないが,
いぢくさり(意地腐),
いぢくね(意地拗),
の語が載る。「いぢくさり」は,
心がねじけていて他人を苦しめる者,意地悪,
の意だが,「いぢくね」は,
こころがねじけていること,ひねくれた性格,
とあり,「くねり」(四段活用)をみると,
「クネは曲がったり戻ったりする意」
として,
まっすぐな対応をしない,
皮肉にとらえる,
ひねくれ恨む,すねる,
の意味が載り,ねじけている性格について,
くねくねし,
という言い方がある。
おじける→いじける,
変化に,納得できないわけではないが,
いぢくね(idikne)→いぢくねる(idikuneru)→いぢける(idikeru),
という変化も,捨てがたい気がする。「意地」そのものの「くねくね」を,最初から示している,と見た方が自然だからだ。
ところで,「いじける」の類語には,
ひがむ,
ひねくれる,
すねる,
ねじくれる,
等々がある。「ひがむ」については,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/427853899.html
で触れた通り,「僻目」つまり,
物事を素直に受け取らず,自分に不利であると歪めて考える,
という,ものの見方を指しており,「ひねくれる」は,
ひねる(捻る)+くる(繰る),
で,手でひねくり回す,という意味になるが,
ねじれまがる,形状がゆがむ,
という状態を指している。「ひねくれ」は,その結果,
ふるびる,すっかりひねている,
という状態表現になる。「すねる」は,
拗ねる,
と当てるが,「拗」は,
「幼(ヨウ)は『細い糸+力』からなり,糸のようにしなやかで細いこと。拗は『手+音符幼』で,しなやかに曲げること」
で,ねじる,しなやかに捻じ曲げる,という意味があり,語源は,
古語,拗ねる(まがる),
とある(『日本語源広辞典』)。やはり,ねじまがった状態表現である。その意味では,「おじる→いじける」なら,「いじける」は,珍しく,心の状態表現ではなく,身体の状態表現から,心の状態表現,更に価値表現へと転じたと見ることができる。「いぢくね→いぢくねる→いぢける」の転訛なら,他の類語とかさなるのではあるまいか。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
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