2017年11月19日

やさぐれる


「やさぐれる」は,手元の辞書(『広辞苑』)には載らない。『デジタル大辞泉』には,「やさぐれ」の動詞化として,

1 家出する。宿無しの状態でふらふらする。
2 《「ぐれる」と混同したものか》すねる。ふくれる。また、無気力で投げやりになる。

の意味が載る。

http://www.weblio.jp/content/%E3%82%84%E3%81%95%E3%81%90%E3%82%8C%E3%82%8B

によると(出典:『Wiktionary』 (2010/10/28 08:41 UTC 版)),

「1.(俗語)投げやりになる。ぐれる。
 2. (俗語)家出する。
 名詞 やさぐれ の動詞化。初出は江戸時代。やさぐれが単純に動詞化したものとしては語義2が正しい。しかし、動詞ぐれると混同され、それによる誤用が広まったために語義1の用法が広く使われているとみられる。」

とある。「ぐれる」と混同とは,そう言うことらしい。初出,江戸時代説の根拠となったのは,『日本語俗語辞典』

http://zokugo-dict.com/36ya/yasagureru.htm

で,ここに,

「やさぐれるとは家出や家出人を意味する『やさぐれ』に俗語によくある名詞を動詞化する接尾語『る』をつけたもので、当初は家出することを意味した。しかし、やさぐれるは『やさぐれ』と同じく『はまぐれ』から派生した『ぐれる』と取り違えられるようになり、『すねる』『自暴自棄になる』といった意味になった。」

と,「江戸時代」とある。

http://www.yuraimemo.com/2496/

にあるように,

「不良の間で使われていた隠語である『やさぐれ』が転じた言葉なのだそう。『やさぐれ』の『やさ』とは「鞘(さや)」の反転であり(逆さにしたと考える)その刀の刀身部分を入れる筒の意味から家を表し、そこにはずれることを意味する『ぐれ』が付くことで家出することや、家出人そのものを表すようになったそうです。」

ということらしい。「やさ」を調べると,「ヤサ」と表記して,

https://matome.naver.jp/odai/2141302420107090101/2141302674508705203

に,

「家、隠れ家  (刀の鞘(さや)が由来している)」

とある。実は,警察用語でも,

https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q13116340078

で,「やさ」というらしいが,この場合,

「『家』を指す。『家探し』という言葉が語源らしい。」

とあり,「家探し」を簡略化したもので,「やさぐれ」の「やさ」とは,違う可能性がある。それにしても,なぜ,刀の「鞘」が,家の意味の,

やさ,

になったのかは,分からない。「さや」を逆さにした,というのはいかにもありそうだが,それなら「えい」か「や」でなくては辻褄があわない。しかし,

http://aslan-bun.com/?p=2097

でも,

「『やさ』は、刀の『鞘(さや)』を逆転して呼んだもの。そこから転じて、『やさ』は家を指しています。」

と載るし,極道用語を集めた,

http://www.usamimi.info/~kintuba/zingi/zingidic-ya.html

でも,

「家などの住居のこと。『鞘』の逆読みで、刀が鞘に収まるように人間もねぐらに戻ることから。」

とある。『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/ya/yasagureru.html

は,「やさぐれる」で,それを整理して,

「やさぐれるは,不良の間で使われていた隠語『やさぐれ』が転じた語である。『やさぐれ』の『やさ』は『鞘(さや)』の反転で,刀の投身部分を入れる筒の意味から『家』,『やさぐれ』の『ぐれ』は外れること。つまり家出人することや家出人を『やさぐれ』といった。この『やさぐれ』が動詞化され『やさぐれる』となったが,『ぐれる』との混同や誤用により,現在の意味になった。」

つまり,

すねる,とか,ふてる,という意味になったというものだ。これでも「さや」→「やさ」の説明にはなっていない。

『大言海』は,唯一「やさ」を載せているが,

「鞘の倒語」

として,

「す(酢)の異名。刀の鞘を巣と云ふ。酢の看板に矢あり」

とある。「素」に矢で,「酢屋」という洒落であろうか。「鞘」の語源は種々あるようだが,『隠語大辞典』

https://www.weblio.jp/content/%E3%83%A4%E3%82%B5?dictCode=INGDJ

によると,「ヤサ」で,

「酢ノコトヲ云フ。但ヤサハサヤノ逆ノ語ニテヤサハ刀剣ノ巣ナレハ云フ。〔第三類 飲食物之部・福岡県〕」

とあり,さらに,「さや」の項には,

「鞘の転語で住家、屋内のことをいう。鞘は刀剣の納まる巣という考えから生じたものである。又、屋内に忍入るのを専門とした窃盗或いは盗人の自宅のことをいう。『やさをかえる』は移転すること。」

として,隠語として,

「ルンペン/大阪、不良青少年仲間、博徒、不良虞犯仲間、東京府、犯罪、犯罪者/露天商人、盗/犯罪、茨城県、露店商、香具師」

等々で,

1.家ノコトヲ云フ。〔第七類 家屋其他建造物之部・東京府〕
2.人ノ住居セル家ヲ云フ。〔第七類 家屋其他建造物之部・茨城県〕
3.普通住家-特ニ犯人潜伏ノ場所ニ限リ用ユル場合アリ。〔第五類 一般建物〕
4.人家、住居。
5.〔不〕人家のこと。住居のことを云ふ。
6.家店、人家、住居、内店。
7.家・世帯。
8.さや(鞘)の転倒にして住居、居宅を云ふ。
9.住居の意。
10.住家。屋内。木賃宿。鞘は刀剣の納まる巣といふ考へから生じたるもの。「さや」の転読。
11.家。若桜、甲府、佐原、大口、岩出山、秩父、名古屋、小松、江差、魚津、弘前、清水 博徒、不良虞犯仲間。
12.他人の家。富山。
13.住所。小笠原 不良青少年仲間。
14.家住所。若桜、甲府、佐原、魚津、弘前、大口、岩出山、秩父、清水、名古屋、小松、江差、小笠原 博徒、不良虞犯仲間。
15.家、住居。〔一般犯罪〕
16.家、住居、居宅。さや(鞘)の反転語で、さやに身を納めるところより生じたとの説あり。〔盗〕
17.住居。

といった意味で使われている,とする。どうやら,多くは,「家」に絡む。これは,「素」を意味した,「鞘」に絡んでいる。では,「鞘」の語源は,というと,『大言海』は,

「鋤屋(サヒヤ)の略転と云ふ(誣言(しひご)つ,讒(しこ)つ。肱木(かひなぎ),棓(かなぎ))。或は,サは,挿すの語根と云ふ。日本釈名(元禄)下,武具『鞘,指室(さすや)也,刀をさす室(や)也』。又,或は鏡奩(かがみのす),蜂房(はちのす)などの,スの転か(丈夫(まさりを),ますらを。進む,すさむ)。鏡奩(かがみのす)をカガミの家(いへ)とも云ふ,刀室(とうしつ)と同意」

とある。「さや」が「室」を指したというのが,「やさ」が「家」を指す遠因にも見えるが,『日本語源大辞典』は,こう言っているのが,結論に近いかもしれない。

「(鞘の)語源は諸説あるが,刀剣の名称は,植物の呼称にちなむものが多く,『さや(鞘)』も,石製刀子(とうす)を入れた革鞘の形状がエンドウマメなどの莢に類似しているところから名づけられたものと思われる。他にも,柄が頭に近づくにつれ太くなり先端に玉葱状のふくらみのある金具をつける『頭鎚(かぶつち)の太刀』は,蕪に見立てたもの,『蕨手刀(わらびでとう)』は,中子(なかご)が柄となり,先端にゆくにしたがって細くなり先が丸形に似ているところから名づけられた,といった類例が挙げられる。」

つまり,鞘自体が,「莢」から来ているのだから,「家」に見立ててもおかしくはない。

参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm

【関連する記事】
posted by Toshi at 05:18| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください