2017年11月26日

おたんちん


「おたんちん」は,

人をののしる語。まぬけ,

という意味だが,

おたんこなす,

と似て,どこか,揶揄する,からかうニュアンスがある。侮蔑や罵りと比べて,どこか憎めないという含意がある。

おたんこなす,

も,

人をののしる語,

だが,

まぬけ,
とんま,

という意味になる。どちらも,からかい気味である。「おたんちん」の,「ちん」は,

「人名や人を表す名詞に付けて親しみや軽い侮蔑を表す語」

とある(『広辞苑』)。

でぶちん,
しぶちん,

とか,名字に付けて,

(岡という苗字なら)岡ちん,

と呼んだりする「ちん」ではないか,と思う。あるいは,

あんぽんたん,
すかたん,

の「たん」と似た使い方ではないか。ついでに想像を逞しくするなら,

tan⇔tin,

は,前に付く言葉によって転訛しやすいのかもしれない。たとえば,

あんぽんちん(anpontin),

とは言いにくい。やはり,

あんぽんたん(anpontan),

だが,

すかたん,

は,

すかちん,

と言っても違和感はない。いずれの場合も,

けちんぼう,
しわんぼう,

の「ぼう」と同じからかい,揶揄のニュアンスである。しかし,中には穿った見方をしたくてたまらぬ人がいるらしい。

http://www.yuraimemo.com/1271/

では,「おたんこなす」の由来を,

「『おたんちん』という語が変化して『おたんこなす』になったと言われています。きました『ちん』。そして男性諸君の期待を裏切りません。時は江戸時代の新吉原(遊廓街ね),遊女達が嫌な客のことをこう呼んでいたと言います。『おたんちん』と。男性のシンボルである『おち○ち○』が短いことを『短珍棒(たんちんぼう)』と呼び、丁寧に『御』を付け、言葉が長いから「棒」を省略することで『御短珍(おたんちん)』。…そこから『おち○ち○』を「小茄子」に喩えて『おたんこなす』というようになり、『おたんこなす』は『御短』と『小茄子』に分ければ分かりやすいことでしょう。『おたんこなす』本来は『出来損ないの茄子』を指していましたが、単純に『おたんこ=出来損ない』或いは『おたんこなす』 と言う様になったそうです。」

としているが,そんなに無粋な,しゃれっ気の欠片もない言い方をするとは思えない。第一,身体のことを指す,明らかな侮蔑的な言い方と,

おたんちん,

のもつ,ちょっと揶揄する(そこには親しみの情が含まれている)含意とは違いすぎる。『日本語俗語辞典』

http://zokugo-dict.com/05o/otanchin.htm

は,

「おたんちんとは『間抜けな人』や「鈍間(のろま)な人」を罵る言葉である。おたんちんは江戸時代、吉原(遊郭)で働く女性が『嫌な客』という意味で使っていた。これが転じて上記のような意味となり、一般にも普及。おたんちんの発祥が遊郭であることから『御短(短い)』+『珍(男性の生殖器官)』が語源という説があるが定かではない(全国から人(女郎)が集まる吉原では言語(方言)も全国から集まるため、漢字表記の資料がないおたんちんの語源を特定することは困難である)。」

とするのがせいぜいではないか。『大言海』は,

「牡丹餅面の略訛にてもあるか」

として,

「女を卑しめて呼ぶ口語。筑前博多にても云ふ」

と,真逆の意味である。『隠語大辞典』

https://www.weblio.jp/content/%E5%BE%A1%E4%B8%B9%E7%8F%8D?dictCode=INGDJ

は,

御丹珍,

とあてて,

おたんち,
おたんちん,

と訓ませ,

「『たうへんぼく』に同じ、物のわからぬ、理解力を欠く者の称。」

とし,東京の方言で,

のろま、間抜,とんま,あんぽんたん,

との意味とある。あんぽんたん,

のニュアンスが,「おたんちん」に近い。『江戸語大辞典』にも,

「寛政頃,吉原の流行語。好かぬ客」

の意で,

「(舛楼(せうろう)の客はねこか)いゝへおたんちんのほふサ(原注『此こごろのはやりことば,ほれたがねこ,すかぬがおたんちんといふ也』)

を引く。このやりとりの含意は,下ネタではない。ゲスの勘繰りというものである。もっと粋である。なお,

https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q133819953

は,

「『おたんこなす』もとは『おたんちん』という語が変化して『おたんこなす』になったらしい。(中略)『おたんこなす』は『出来そこないの茄子』から来ているそうです。『おたんこ』は『出来そこない』になるわけです。」

としている。この場合の,「なす」は,接尾語の,

「(似す・ノスの母音交替形)名詞または動詞の連体形について,…のように,のような,の意を表す」(『岩波古語辞典』),

「『のす』に同じ,『似る』と同源」(『広辞苑』),

の「なす」ではないか。「おたん」「ちん」の代わって,「おたん」「こ」「なす」ということなのだろうか。「おたんこなす」について,『日本語俗語辞典』

http://zokugo-dict.com/05o/otankonasu.htm

は,「昭和時代」以降,としており,新しい言葉のようだ。で,

「おたんこなすとは間抜けな人や鈍間(のろま)な人を罵る言葉である。おたんこなすは同義語『おたんちん』からきた言葉で『ちん(男性の生殖器官のこと)』の部分を『小茄子』に例えたという説があるが『おたんちん』の語源自体が定かでないため断定は出来ない。また、おたんこなすは『炭鉱の茄子』の略で、灰をかぶった炭鉱エリアの茄子は売り物にならないことから先述のような意味になったという説もある。こちらも確たる出所がわかっていないため断定は出来ない。」

としている。しかし,「おたんちん」も「おたんこなす」も,どこかにユーモラスな含意があり,下ネタのニュアンスとは程遠いと思う。

『日本語源広辞典』は,『大言海』と同じく,「おたんちん」を,

「ぼたもちづら(牡丹餅面)の変化」

とし,

「botamoti+面から,otanti+nと,bが落ち,後にnが加わって変化した語です。顔にしまりがない意です。」

とある。これなら,「好かれぬ」わけである。『日本語源大辞典』には,

「チンは一種の愛称で,チャン,または関西で言うヤンと同義か。上方でおたふくをいうオタヤンと同義か(鈴木棠三説),

を挙げるが,結局,相手の顔を指しているらしい。それも,どちらかというと,膨らんでいるか,しまりのないというか。。。。

なお,「とうへんぼく」については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/444729583.html

で,「あんぽんたん」については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/423602096.html

で触れたことがある。

参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm

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posted by Toshi at 05:11| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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