2017年11月27日
はしたがね
「はしたがね」は,
端金,
と当て,
はしたぜに,
はしたせん,
とも訓ませ,
僅かの金銭,
という意味の他に,
中途半端の小銭,
という意味も持つ。これは,「はした(端)」という言葉のもつ,
中途半端(はんぱ)であるさま,どちらともつかないさま,
引っ込みがつかないさま,どちらにすることもできないさま,
数の揃わないこと,不足のこと,また余っていること,
等々といった意味の翳がつきまとうせいだろう。『大言海』は,「はしたがね(端金)」の項で,
成る数に足らぬ金銭,まとまり居らぬ金,はんぱなる金,又,少しばかりの金,
の意とし,「はしたぜに(端錢・仂錢)」の項で,
百文に足らず,又,三文,五文にもあらず,何れにもつかざる錢,半端なる錢,
と,「はしたがね」と「はしたぜに」を別項にしている。『語源由来辞典』
http://gogen-allguide.com/ha/hashitagane.html
は,「はしたがね」について,
「はした金の『はした』は『端』に接尾語の『た』が付いた語で、『はしたない』の『はした』と同源。『端』は『へり』や『ふち』など真ん中から遠い辺りを表す言葉だが、その他、『どっちつかず』『中途半端』といった意味もあり、『はした(端た)』はこの意味で用いられる。このことから、はした金は『半端な金銭』を意味する。また、『はした』は『中途半端』の意味から『数が不足しているさま』も表すため、『わずかな金銭』のことも『はした金』という。」
としている。「はしたない」については,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/408883112.html
で触れた。そこで,
本来は,数が揃わないこと,中途半端な状態や気持ちを指した。そこから,現在,慎みがなく,礼儀に外れたり品格に欠けたりして見苦しいこと,間が悪いことを意味するようになった。他に,「ハシタ」は「ハシタ(間所)」の転で,「ナイ」は接尾語とする説もある,
と書いた。しかし,「はした(端)」と「はし(端)」では微妙にニュアンスが違う気がする。「はし(端)」は,
物の末の部分,先端,
中心から遠い,外に近い所,ふち,
切れ端,
多くの一部分,
後に続く最初の部分,
等々,「はし」は,ある見方では先端(端緒),ある見方では末(末端),ある見方では縁(辺端〔へた〕)になる。『大言海』では,「はし(端)」の意味に,
物事の發(おこ)る所,
が最初に載り,次いで,
物事の盡きむとする所,
と載せる。両方の意味になりうる。『岩波古語辞典』には,「端(はし)」は,
「端(は)と同根。『奥』『中』の対。周辺部・辺縁部の意。転じて,価値の低い,重要でないいち部分」
とあり,
物の先端,すみ,はずれ,片はし,
と,単なる「端っこ」という状態表現が,「はずれ」という価値表現へと転じたことがわかる。「は(端)」は,「はた」「へり」の意味であり,「はた(端)」は,
「内側に物・水などを入れたたえているものの外縁・側面」
と,やはり「へり」である。『日本語源広辞典』は,
「ハ(端)+シ(接尾語)」
で,ハシ,ヘリ,の意とする。『日本語源大辞典』は,
ハジメ(始)の義(和句解・日本声母伝・和訓栞・言葉の根しらべの=鈴木潔子),
ヘサキ(辺先)の義(名言通),
と,ヘリや始め,を語源とする。
しかし,「はした」は,『岩波古語辞典』では,
半端,
と当て,
「ハシはハス(斜)の古形。∧の形であること。このような斜めの形は,円形,正方形,二つ揃っていることなどを愛好した古代日本人に喜ばれなかった。それでハシタは不足であること,一定の規格に達しないこと,不快で気まずいことなどを意味した。アクセントの型から見ても,ハシ(端)とは起源的に別と認められる。」
と説く。その意味で,
足りない,
状態が普通でない,
中途半端,
ひとまとまり以下の少額の金銭,
等々という価値表現を,「はした」自身がもっている,ということになる。関連語に,「はしは(圭)」という言葉があり,
「ハシは斜めで尖っているさま。ハは端」
とある。この「はした」説を,『大言海』は,
半下,
と当てて,
「間所(はしど)の轉」
と,別の角度から光を当てている。つまり,ここでは,
物事の何れともつかず半らなこと,
数の揃わぬこと,
等々,そもそも語源から中途半端の意としている。つまり,
はしたがね,
の「はした」は「はし」ではなく「はした」から来ており,もともともっていた「はした」の意味そのものということになる。と考えると,『語源由来辞典』の言う,
「『はした』は『端』に接尾語の『た』が付いた語で、『はしたない』の『はした』と同源。『端』は『へり』や『ふち』など真ん中から遠い辺りを表す言葉だが、その他、『どっちつかず』『中途半端』といった意味」
という説は,基本的に間違っている,ということになる。おなじ「端」の字を当てたために,どこかで混同してしまっただけである(ちなみに,「はした」を転換しても,「はし」を転換しても,ワードは「端」と転換する)。
ついでながら,「端」の字は,
「耑(タン)は,布のはしがそろって―印の両側に垂れたさまを描いた象形文字。端はそれを音符として,立を加えた字で,左と右がそろってきちんとたつこと」
とある。だから,「末端」「端緒」の「端」でもあるが,「端正」の「端」でもある。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください