2017年12月06日

とにかく


「とにかく」は,

兎に角,

と当てるが,

とにかくにの転,

とされる。「とにかくに」は,

あれやこれや,なんやかや,
それはさておき,何にせよ,ともかく,

の意味があり,はじめは,

あれもこれも,

と指示する状態表現であったものが,変じて,

(「あれやこれや」あるだろうが,まあ)それはさておき,

と,価値表現に転じた,とみることができる。「とにかく」は,その後者の意味で使われる。

「とにかくに」は,また,

とにもかくにも(兎にも角にも),

の略であり,やはり,

あれもこれも,
なににせよ,ともかく,

の意味があるので,

とにもかくにも→とにかくに,

までは意味を重ねていたが,

とにかくに→とにかく,

で,意味も端折られたということになる。「とにもかくにも」「とにかくに」は,古くから使われている。

http://www.yuraimemo.com/549/

には,

「とにかくは、平安から江戸までは『とにかくに』として用いられてきました。とにかくの『と』は『そのように』、『かく』は『このように』で、『あれこれと』とか『何やかや』といった意味でありました。」

あるいは,『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/to/tonikaku.html

は,

「兎に角は『とかく』の当て字『兎角』を真似た当て字で、仏教語の『兎角亀毛』からと考えられる。ただし、兎角亀毛の意味は、兎に角や亀に毛は存在しないもので、現実には あり得ないものの喩えとして用いられたり、実際に無いものをあるとすることをいったもので、意味の面では関連性がなく、この当て字は、夏目漱石が多用したことで広く用いられるようになったと考えられる。とにかくは,平安時代から江戸時代までは『とにかくに』の形で用いられていた。とにかくの『と』は『そのように』、『かく』は『このように』で、いずれも副詞。『あれこれと』『何やかや』といった意味で用いられ、転じて『いずれにせよ』などの意味になった。」

とある。「とにかく」のニュアンスは,

https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q116882091

は,

「『とにかく』は『とにもかくにも』が短縮してできた副詞です。『とにもかくにも』は『と(あなたが言ったようである)にしても、(あるいは違って)このようであるにしても』の意味で、つまり『何がどうであれ』『なんとしても』に近い意味合いです。」

と,『日本語語感の辞典』のいう,

「ほかのことはどうであっても,いずれにせよ」

と,それまでの流れを断ち切るという意味合いだが,その意味なら,「何しろ」という言葉もある。『広辞苑』は,

「(シロはス(為)ルの命令形。他のことは一応別にして,これだけは強調したいという気持ちを表す)なんにしても,なににせよ,とにかく」

と載るので,「とにかく」と重なる。『デジタル大辞泉』は,「とにかく」について,

1 他の事柄は別問題としてという気持ちを表す。何はともあれ。いずれにしても。ともかく。「とにかく話すだけ話してみよう」「間に合うかどうか、とにかく行ってみよう」
2 (「…はとにかく」の形で)上の事柄にはかかわらないという気持ちを表す。さておき。ともかく。「結果はとにかく、努力が大切だ」

と意味を並べた上で,

「『彼はとにかく(なにしろ)まじめな人だから』『このごろ、とにかく(なにしろ)忙しくってね』のように、取り上げた事柄をまず強調しようとする意では相通じて用いられる。『時間だから、とにかく出発しよう』『とにかく現場を見てください』のように、細かいことはさて置いて、まず行動をという場合は、『とにかく』しか使えない。『私はとにかく、あなたまで行くことはない』のような『…は別として』の意の用法も、『とにかく』に限られる。『なにしろ』は『なにしろあの人の言うことだから』『なにしろ暑いので』のように『から』『ので』と結び付いて、その事柄を理由・原因として強調する用法が多い。」

と,「何しろ」と比べている。しかし,「何しろ」が,

いろいろあるにしても,なにをおいても,

というニュアンスなら,「とにかく」も,

あれこれあったにしろ,いずれにせよ,

と,次へと断ち切る意味では変わらない。「何しろ」は,「何にしろ」でもあるし,「何にせよ」でもある。更に約めて「なにせ」となるが,それだと,上記の「とにかく」の用例とほぼ重なっていく。差異は,さほどになさそうである。

『大言海』は,「とにかく」「とにかくに」に,

左右,
兎角,

を当て,「とかく」を見よ,とある。「とかく」は,

左右,
取捨,
兎角,

と当て,

「第一類の天爾遠波のトと,副詞の斯(かく)とを連ねたる語。兎角亀毛の説は,付会も甚し」

として,

かにかくに,かにもかくにも,どうもこうも,どうかこうか,かれこれ,あちこち,
ややもすれば,ともすれば,
とにかく,何にせよ,

と意味を記すが,最初の意味のところで,

「竹取物語,上『「トカク申すべきにあらず」トカクして出立ち給ふ』此の二語の間に,他の語を挿みて用ゐること多し。『とニかくニ』『とテモかくテモ』『とニモかくニモ』『とヤかく』『とサマかうサマ』など,その意推して知るべし」

と解説する。「その意推して知るべし」と,突き放されたが,結局,『大言海』は,

とにかく,
とにかくに,
とにもかくにも,
とさまこうさま,

は,いずれも,「とかく」を原型として,他の語を挿んで使っているだけという主張なのであある。「とかく」は,

「と(副詞・ああ)+かく(副詞・こう)」

で(『日本語源広辞典』),『岩波古語辞典』によれば,

「指示副詞トとカクとの複合。トは,あれ,あのようの意。カクは,こう,このようの意。状態とか立場・条件などが,あれこれと二つまたはそれ以上あって不確定なさま」

であり,結局,

あれやこれや,
ややもすると,

の意になる。つまり,『広辞苑』の意味をならべるなら,はじめは,

あれやこれや,かれこれ,いろいろ,

という状態表現が,時間経過を経て,

とすれば,ややもすれば,

と少しどれかにシフトし,

結局,つまるところ,

いずれにせよ,
とにかく,

と,切断を迫られるところへと煮詰まる,ということになる。この意味の幅は,

とにかく,
とにかくに,
とにもかくにも,

と同じである。つまり,「とにかく」は,「とにもかくにも」の約ではなく,元は,

とかく,

に,言葉の語調や言葉を強調する意味で,「に」や「も」を足したというのが正確なのではないか。ただ,「とかく」には,

とかくの噂,

という,価値表現を含んだ言い方がある。これは,「あれやこれや」の反語的な「どうのこうの」のニュアンスとみることができる。『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/to/tokaku.html

は,

「『と』は『あのように』『そのように』を意味する副詞。『かく』も『斯くして』などと使う副詞で,『このように』『こう』を意味する。この二つの副詞が一語となって,『あれやこれや』の意味で中古から使われ始めた。中世以後,『(あれこれがあるが)いずれにせよ』の意味が生じ,さらに『ややもすれば』『何はさておき』などの用法が生まれた。」

とまとめている。

参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
中村明『日本語語感の辞典』(岩波書店)

ホームページ;
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今日のアイデア;
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posted by Toshi at 05:27| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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