2017年12月11日

のるかそるか


「のるかそるか」は,つい,

乗るか反るか,

と書きたくなるが,

伸るか反るか,

と当てる。『広辞苑』には,

「『のる』は長くのびる,『そる』は反対にそりかえる意」

として,

成功するか失敗するか,いちかばちか,

の意が載る。

伸るか反るかの大ばくち,

といった言い回して,

成否は天にまかせ,思い切って物事を行うこと,

という意味(『デジタル大辞泉』)

うんぷてんぷ(運否天賦),
一か八(ばち)か,
乾坤一擲,

等々という,

運を天に任せる,

というのと,意味が重ならないでもないが,「人事を尽くして」天に委ねる,という含意は,「のるかそるか」にはなさそうである。これは丁半博奕の,「いちかばちか」の含意とかさなる。

「の(伸)る」は,

伸びる,

という意だが,実は,

そる,そりかえる,

という意もある。室町末期の『日葡辞典』には,

「カタナガノル」

という用例があるらしい。『大言海』は「の(伸)る」の項で,

「伸ブに通ず,ノスの自動」

として,

背を髙くして,前へ臨く,身,前へ差しかかる,

の意とする。『岩波古語辞典』の「の(伸)り」には,

うしろへ伸びる,反る,のけぞる,

の意が載る。『大言海』は,その意の「のる」には,別に,

仰,

を当てた項をたて,「そる(反)」に同じ,としている。

他方,「そる」は,

のけぞる,
物が弓なりに曲がる,

という意味で,『岩波古語辞典』には,「そ(反)り」の項で,

「ソは背(そ)の意」

とある。『大言海』は,「そる」について,

「背(ソ)の活用,背折(そお)るの義」

とする。「せ」の項,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/455025277.html?1511209075

で触れたように,「そ」は,

「セ(脊)の古形」

であり,

「反(ソレ)の約。背(ソ)と通ず」

と,「そる」と「せ(背)」は,つながっている。

こう「のる」と「そる」を見ていくと,「のるかそるか」は,「そる」という意味を重ねて強調している感じがある。しかし,「のびたりそりかえったり」でも,はっきりしないが,「そる」の意を重ねただけだと,なおさら運否天賦になるのかは,わからない。

『日本語源大辞典』は,

「のる」は前に屈む意か(小学館古語大辞典),
南方語で地獄をいうヌルカ,天国をいうソルガから転じて日本語になったものか(ことばの事典=日置昌一),

の二説を挙げた上で,

「ノルは前にかがむ意の四段動詞『伸る』,ソルは後ろにのけぞる意の四段動詞『反る』と考えられている。ただしなぜそれで成功するか失敗するかの意になるか,説明がつかない。あるいは,ノルは『乗る』,ソルは『逸る』で,軌道にのるか軌道を外れるか,調子にのるかはずれるかの意か。なお,『逸る』は,古くは四段と下二段の両活用があり,しだいに下二段に一本化され,江戸時代には下一段化してソレルとなった。ノルカフゾルカは,ノルカフンゾルカの転で,ソル(逸る)がソレルに定着した後,ソルを『反る』と誤解し,ソル(反)を強調したフンゾルとしたものと考えれば,先述の説と矛盾しないことになる。」

しかし,ノルカフンゾルカが,どうして成否の意味になるかは解決していない。『日本語源広辞典』は,「ノルカソレルカ」説を取る。

「ノル(人生の順当な道に乗る)か,ソル(逸れる)」

で,こう付け加える。

「『広辞苑』の『伸るか反るか』(長くのびるか,反対側に反るか)説は,のけぞる意だから,成功か失敗かという意になりにくいので疑問です。日置昌一氏の『南方語ヌルカ(地獄),ソルガ(地獄)』説は,来歴が不明で疑問です。」

確かにこれなら,成功するか失敗するか,の意には違いない。しかし,「乗るか逸る」かは,(屁)理屈に堕していまいか,こういうふうに言葉が使われ始める,というのは,少し信じがたい。

『日本語源大辞典』は,実は,さらに続けて,

「『くらしのことば語源辞典』は,矢を製作する矢師の用語で,矢竹が『のるか(真直ぐに伸びるか)そるか(曲がるか)』の説を紹介する。」

と述べている。実は,「ためつすがめつ」

http://ppnetwork.seesaa.net/article/455445472.html?1512851616

の項で,「矯めつ眇めつが」が弓の用語であることに触れたが,同じように,

http://kotobahiroi.seesaa.net/article/453860847.html

で,

「矢師が矢を作る時、『のため型』と呼ばれる竹の曲がりを直す物に入れ、竹を乾燥させます。そこから取り出した竹が、真っ直ぐに伸びていたら矢として合格品。少しでも曲がっていたら不良品。矢師は『のるかそるか』と、成否を気にしながら竹を取り出したんですね。」

を紹介している。そして,

『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/no/norukasoruka.html

「伸るか反るかの語源は,矢師の矢作りに由来する。矢師が矢を作る時,竹の曲がりを直す『のため型』と呼ばれる物に入れ,竹を乾燥させる。そこから取り出した竹が,真直ぐに伸びていたら矢として使えるが,少しでも曲がっていたら使い物にならず,捨てなければならなかった。矢師が,『のるかそるか(真直ぐ伸びるか曲がるか)』と,正否を気にしながら竹を取り出したことから,『伸るか反るか』といわれるようになった。また,物を賭けて勝負を決めることを,『賭る(のる)』ということから,勝負的な意味合いが強まったとも言われる。」

とする。和訓栞に,

「今も,かけものするにノルといふ詞あり」

とある。どうやら,矢作りからきたものらしい。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)


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