2017年12月31日
しわす
「しわす(しはす)」は,
師走,
と当てる。明らかに当て字である。この字から,由来を考えようとすると,語呂合わせになる。しわす(しはす)は,陰暦12月の異称。極月 (ごくげつ) ,臘月 (ろうげつ),とも言うらしい。
https://ja.wikipedia.org/wiki/12%E6%9C%88
には,その他の異称として,
おうとう(黄冬)、おとづき(弟月)、おやこづき(親子月)、かぎりのつき(限月)、くれこづき(暮来月)、けんちゅうげつ(建丑月)、ごくげつ(極月)、しわす(師走)、はるまちつき(春待月)、ばんとう(晩冬)、ひょうげつ(氷月)、ぼさい(暮歳)、ろうげつ(臘月)
等々を上げている。『大言海』には,
「歳極(としはつ)の略転かと云ふ。或は,万事為果(しは)つ月の意。又農事終はる意か,ムツキを見よ。」
とあり,「むつき(睦月・正月)」の項では,
「實月(むつき)の義。稲の實を,始めて水に浸す月なりと云ふ。十二箇月の名は,すべて稲禾生熟の次第を遂ひて,名づけしなり。一説に,相睦(あひむつ)び月の意と云ふは,いかが」
として,
「三國志,魏志,東夷,倭人傳,注『魏略曰,其俗不知正歳四時,但記春耕秋収為年紀』
を引く。農事と関わらせる,というのは一つの見識かもしれない。『日本語の語源』は,
「トシハキツル(年果つる)月は,その省略形のシハツがシハス(師走,十二月)・シワスになった。」
と,「トシハツル」説をとる。
『日本語源広辞典』は,三説挙げる。
説1は,「シ(為)+果つ」。一年間の諸事をし終る月の意,
説2は,「年+果てる+月」。一年が終る月の意,
説3は,「師(師僧)+走(はしる)」。師僧がお経をあげるために走る月の意,
を上げるが,『日本語源広辞典』は,説3は,「文字の付会で疑問」としている。「師走」という字を当てはめた後の,強引な解釈である。しかし,この説を採る者が多い。たとえば,
http://kenyu.red/archives/4868.html
は,
「一番、有力な説は、師走の師は、僧侶である和尚様、つまり、お坊さんという説です。平安時代後期に書かれた辞書に、色葉字類抄(いろはじるいしょう)というものがあって、その中に『しはす』という言葉で表されています。
12月はお寺は忙しく、お師匠様である僧侶が、お経を唱えるために、東西南北を馳せ参じる(駆けまわる)様子から、師馳す(しはす)と呼ばれたというものです。 これが、時代とともに、師が馳せるではなく、師が走るとなって、現在の師走(しわす)に変わっていったのだろうというのです。」
しかし,
https://ja.wikipedia.org/wiki/12%E6%9C%88
は,
「僧侶(師は、僧侶の意)が仏事で走り回る忙しさから、という平安時代からの説(色葉字類抄)があるが、これは語源俗解(言語学的な根拠がない、あてずっぽうの語源のこと)であり、平安時代にはすでに、『しはす』の語源は分からなくなっていたのである。」
とするし,『語源由来辞典』
http://gogen-allguide.com/si/shiwasu.html
も,
「師走は当て字で、語源は以下の通り諸説あり、正確な語源は未詳である。 師走の主な 語源説として、師匠の僧がお経をあげるために、東西を馳せる月と解釈する『師馳す(し はす)』がある。 この説は、平安末期の『色葉字類抄(いろはじるいしょう)』に、『しはす』の注として説明されている。現代の『師走』と漢字の意味も近く、古い説であるため有力 に思えるが、「師馳す」説は民間語源で、この説を元に『師走』の字が当てられたと考えられる。
その他、『年が果てる』意味の『年果つ(としはつ)』が変化したとする説。『四季の果てる月』を意味する『四極(しはつ)』からとする説。『一年の最後になし終える』意味の『為果つ(しはつ)』からとする説などがある。」
とし,
https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%81%97%E3%82%8F%E3%81%99
も,
「年末で法師すら走りまわる月とするのは附会。語源は未詳、「しはつ」で「はつ(=果てる)」に関連か。」
と,それぞれ否定的である。
http://tetteilife.com/29/shiwasu/
は,「師(僧)も走りまわるほど忙しい説」,「『〇〇』が終わる説」と並んで,「当て字説」として,
「日本書紀や万葉集では12月のことを『十有二月(シハス)』という言葉であらわしていました。この頃は『師走』という言葉を使わず、12月の後には『シハス』と書かれていました。そのため、『師走』という漢字が後につけられて現在まで残っているといわれています。日本書紀や万葉集にも使われていた文字なので、私はこの説が一番信ぴょう性の高い由来なのではないかなと思います!」
としている。
https://takeyuki77.net/2836.html
にあるように,
「旧暦が使われていました江戸時代までの師走の期間は12月末~2月の上旬ぐらいまでの事を指していましたので、約2ヶ月ほどの間になります。」
とあり,さらに,「しはす」は,何かの行事と関わっていたのではないか,という気がしてならない。そこで,『大言海』が,「むつき」と対比しつつ,農事と関わらせたことが気になる。
『日本語源大辞典』は,農事,特に稲作と関わって,
農事が終り,朝貢の新穀をシネハツル(飲果)月であるところから(兎園小説外集),
稲のない田のさまをいうシヒアスの約,シは発声の助語。ヒアスは干令残の義(嚶々筆語),
を挙げている。農事とつなげることで,「しはつ」「としはつ」
四季の果てる月であることから,シハツ(四極)月の意(志布可起・和爾雅・日本釈名),
トシハツル(歳極・年果・歳終)の義(東雅・語意考・類聚名物考・和語私臆鈔・黄昏随筆・古今要覧稿・和訓栞),
ナシハツルツキ(成終月)の略転(柴門和語類集),
等々の説の奥行が変わってくるような気がする。「とし(年)」が,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%B4
に,
「日本語で『とし』とは、『稲』や穀物を語源とし、一年周期で稲作を行なっていたため『年』の意味で使われるようになったという。ちなみに、漢字の『年』は禾に粘りの意味を含む人の符を加え、穀物が成熟するまでの周期を表現した。」
のであるから,なおさらである。因みに,「年」の字は,『漢字源』には,
「『禾(いね)+音符人』。人(ニン)は,ねっとりと,くっついて親しみある意を含む。年は,作物がねっとりと実って,人に収穫される期間を表す。穀物が熟してねばりを持つ状態になるまでの期間のこと。」
とある。
参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
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