2018年01月10日

ことのほか


「ことのほか」は,

殊の外,

と当てる。

思いのほかのこと,意外,
格別のこと,とりわけ,

と,ちょっと幅のある意味である。「意外」と「格別」とは,イコールではない。『デジタル大辞泉』だと,

1 予想と、かなり違っているさま。思いのほか。案外。意外。「殊の外よい記録が出た」
2 程度が際立っているさま。格別。とりわけ。「今年は殊の外寒い」

とある。

予想と、かなり違っているさま→意外,
予想と、かなり違っているさま→格別,

という流れを考えれば,意味の外延がつながる。『大辞林』だと,

①予想に反して程度がはなはだしいさま。思いのほか。 「 -(に)手間取る」 「 -簡単だった」
②普通以上に程度がはなはだしいさま。格別。はなはだ。 「今夜は-(に)寒い」 「 -の御立腹」

と,「程度が甚だしい」という言葉を,「予想に反して」と「普通以上に」で区別している。この方が,意味の連続がよく見える。

『大言海』は,

「異(こと)の外の義」

とする。「異」を見ると,

「異所(けと)の転ならむか(心(こころ),けけれ。杮(こけら),けけら)」

とし,

常に変わること,別なること,
此語,多く接頭語の如く用ゐられて,あだし,異なる,別なる,常ならぬの意を成す,

とある。「ことに(殊に)」の「こと」ともつながり,『大言海』は,「ことに」に,

殊,
特,

と当て,「異に」の義,とする。『日本語源広辞典』は,「ことに」について,

「形容動詞『異なり』の連用形」

とし,「ことのほか」は,

「コト(思っていること)+ホカ(外)」

とする。この説は,『岩波古語辞典』が,「ことのほか」に,

事の外,

と当て,

並外れていること,考えられないほどのこと,平安時代には不快な事にしか使わない,
格別,特別,

という意味とするのとつながる。この意味からすれば,

「事の外」

と当てるのが,妥当に思える。なぜなら,「異(こと)の外」では,

異(常と変ること)の外,

となるから,ただの状態でしかなく,「格別」の意味にも,「並外れていること」の意味にもならない。

『学研全訳古語辞典』は,「ことのほかなり」で,

事の外なり,
殊の外なり,

と当て,形容動詞ナリ活用,

①予想外だ。意外だ。▽多く不快感を表す。「ことのほかなる御もてなしなりけるに、しひてえ詣(まう)で訪(とぶら)ひ給(たま)はずなりにけり」(源氏)
②格別だ。特別だ。「鳥の声などもことのほかに春めきて」(徒然)

と載せる。もともとは,

事の外,

と当てたのではないか。「こと(事)」は,『岩波古語辞典』に,

「古代社会では口に出したコト(言)は,そのままコト(事実・事柄)を意味したし,またコト(出来事・行為)は,そのままコト(言)として表現されると信じられていた。それで,言と事とは未分化で,両方とも,コトという一つの単語で把握された。従って奈良・平安時代のコトの中にも,言の意か事の意か,よく区別できないものがある。しかし,言と事とが観念の中で次第に分離される奈良時代以後に至ると,コト(言)はコトバ・コトノハと言われることが多くなり,コト(事)と別になった。コト(事)は,人と人,人と物とのかかわり合いによって,時間的に展開・進行する出来事・事件などをいう。時間的に不変の存在をモノという。後世モノとコトとは,形式的に使われるようになって混同する場合も生じてきた。」

とあり,『日本語源大辞典』は,

「『事』は『言』に表れたとき初めて知覚されるという古代人的発想に基づくもの」

とするが,それは何も古代人に限ったことではない。ヴィトゲンシュタインは,

人は持っている言葉によって見える世界が違う,

のであり,

「事は皆言に起こる」(和訓栞)

と,「言」によって,「事」が起こることには変わりがない。その意味では,「ことのほか」は,

言の外,

であり,

事の外,

なのである。しかし,それが,

異なること,

であることから,

異の外,

となり,

殊の外,

になったのではあるまいか。「殊」の字は,

「朱は,木を-印で切断するさまを示す指示文字で,切株のこと。殊は『歹(死ぬ)+音符朱』で,株を切るように切断して殺すこと。特別の極刑であることから,特殊の意となった」

で,「ことなる」意で,

特殊,
殊異,

という言い方で使う。「異」の字は,

「『おおきなざる,または頭+両手をだしたからだ』で,一本の手の他,もう一本の別の手をそえて物を持つさま。同一ではなく,別にもう一つとの意。」

で,やはり,「ことなる」意だが,

異様,
怪異,

と,「あやしい」ニュアンスがつきまとう。

『日本語源大辞典』は,「こと(異・殊)」で,

他と同じでないさま,

とし,

ケト(異所)の転か(大言海),
コト(異)はケト(奇所)の義。コト(殊)はコト(異)の義。コト(別)はコトゴトク(悉)の義(言元梯),
トは事物を意味する接尾語(日本古語大辞典=松岡静雄),
コト(事)の転義(国語本義・国語の語幹とその分類=大島正健),
形式名詞コトから転成したものであろう(時代別国語大辞典-上代編),
コト(事),あるいはコト(胡土)からか。胡土は唐土の北にあり,唐とは別であるところから(和句解),

と並べるが,「異」をあれこれ詮索するよりも,「コト(事)の転義」でいいのではないか。「異」と「殊」は同じであり,その「異」は,「言」によって生じた「事」という意味でもある,と。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
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今日のアイデア;
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posted by Toshi at 05:04| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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