2018年01月12日

あだな


「あだな」は,

渾名,
綽名,

と当てるものと,

徒名,
仇名,

と当てるものとがあり,意味が異なる。通常,

ニックネーム,

で言うのは,「渾名・綽名」で,

「(アダは他・異の意)その人の特徴などによって実名の他に付ける名。あざけりの意味や愛称としてつける。」

と『広辞苑』にある。「異名(イミョウ・イメイ)」とも言う。「徒名・仇名」は,

男女関係についてのうわさ。色事の評判。艶聞(えんぶん)。浮名,
根拠のない,悪いうわさ。ぬれぎぬ,

と,二様の意味があるが,あまりいい「評判」ではないことに変りはない。で,一般には,

https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1115748771

等々が言うように,ニックネーム (nickname)の意の,「あだな(渾名・綽名)」と,「悪評、事実無根の評判、男女関係についての噂」の意の「あだな(徒名・仇名)」とは,別だとされる。しかし,『大言海』は「渾名・綽名」の「あだな」に,

渾名,
綽號,

と当て,

「アダは,他人(あだしびと)のアダにて,外より附けたる呼名の意ならむ。或は,毀(そし)る意にて,仇名なるかとも思はる。されば,本人の自称する字(あざな)とは,全く異なり,且,アダナは,後世出来たる語にて,古くは見えず」

とし,「綽名・渾名」と「仇名・徒名」とを区別せず,他称の呼名,としている。「あだな(徒名)」の別項で立てているが,「あだな(綽號・渾名)」の意味を,

「人の醜貌,悪癖,非行,失礼などにつきて,他より嘲りてつけたる呼名。即ち,醜名(しこな)なり。」

と,「あだな(徒名)」の項は,

空しく立ちたる世評〔うわさ〕,浮名,

としているので,「あだな(徒名)」の意味と「あだな(綽號・渾名)」の意味とが重なる。

『岩波古語辞典』は,「あだな」については,「徒名」しか載せず,

浮いた噂,
無実の噂,

の意を載せる。「あだな」の語源は,『日本語源広辞典』は,二説載せ,

説1は,「アダ(徒・意味のない,実を結ばない)+名」で,真実でない名の意,
説2は,「アダ(他・別)+名」で,別の名,

とする。「アダ(徒)名」か「アダ(別)名」の二説ということになる。『日本語源大辞典』は,

アダはアダシビト(他人)のアダで,外から付けた呼名の意(和訓栞・大言海),
毀(そし)る意で,アダナ(仇名)といったか(俗語考・大言海),
徒の意。後に別名の意となる(国語の語幹とその分類=大島正健),
アザナの転で,人の別名(俚言集覧・和訓栞),
色好みの評判のアダナ(徒名)とアザナ(字)が混同され,別名の意になった(暮らしのことば語源辞典),

とある。『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/a/adana.html

も,

「あだ名の『あだ』は、『他のものである』『異なっている』という意味の形容詞『あだシ』の『あだ』で、外から(他人 が)付けた別の呼び名とする説が通説となっている。しかし、『あだし』が『他の』といった意味で用いられていた時代は『あたし』と清音で、濁音化されてからは『不誠実』や『浮気っぽい』などの意味で用いられているため、あだ名と繋がりが見えない。その他の説では,中国で男子が元服の際につけて通用させた別名で、日本でも『別名』の意味で用いられた『あざな(字)』と、『男女関係のうわさ』や『浮名』を意味する『あだな(徒名・仇名)』の音が似ていることから混同され、あだ名が『別名』の意味を持つようになったとするものがある。」

と載せ,「アザナ(字)」と「あだな(綽名)」の混同は,『大言海』も,「あだな(綽號・渾名)」の項で,

「即ち,醜名(しこな)なり」

としていたので,「あだな」と「あざな」の重なりは確かに気になるが,「醜名」については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/456125429.html?1515616973

で触れたように,「しこな」は,「諱(いみな)」から,いわゆる「四股名」という芸名へと堕していったものだ。「あざな(字)」は,通称である。大事なのは,「諱」も「字」も自ら名乗る名であって,他称ではない。その意味で,他称である「あだな」(「渾名・綽名」の「あだな」も「徒名・仇名」の「あだな」も)とは,使われ方が異なる。

確かに,

https://kotobank.jp/word/%E3%81%82%E3%81%A0%E5%90%8D-25794

の『とっさの日本語便利帳』の言うような,

「もともとは『婀娜(あだ)な名』、つまり好色という評判や浮き名の意。また別に、男性の成人後の通称『あざな(字)』が鎌倉時代頃には愛称・ニックネームの意味に変化し、音が近いことでこれと混同され、現代では『あだな』の方が用いられる。」

考え方もあり得るが,これだと,

諱(いみな)→しこな,
字(あざな)→あだな,

と変化したということで,一貫するように見えるが,「いみな→しこな」は,自称で一貫しているが,「あざな→あだな」は,自称から他称へと転換している。この差は大きすぎるのではないか。

とすると,「あだな」の「あだ」の考え方には,

「アダ(徒)名」

「アダ(別)名」

二説あったのが注目される。「他のもの」の意の,

あだし,

は,『岩波古語辞典』にも,

古くは,アタシと清音,

とある。「あた(仇)」は,

「びたりと向き合って敵対するものの意。江戸時代以降アダと濁音化した」

とあり,『日本語源大辞典』は,

「語源についてはいまだ確定的なものはない。『万葉集』の表記に始まって平安朝の古辞書における訓,中世のキリシタン資料の表記はすべてアタと清音になっており,江戸中期の文献あたりでは,いまだ清音表記が主流である。二葉亭四迷の『浮雲』を始め近代の作品ではアダと濁音化しているので,江戸後期から明治にかけて濁音化が進んだとみられる。」

としている。しかし『岩波古語辞典』は,「あだな(徒名)」の用例として,

「またもあだなは立ちぬべき御心のすさびなめり」(源氏物語),
「しのばば目でしめよ,言葉なかけそ,あだなの立つに」(閑吟集),
「あだな立つるは怖い鰐口」(俳諧三部抄),

を載せ,すでにそれ以前から,「あだな(徒名)」が使われている。『岩波古語辞典』が,

あだな(徒名),

しか載せないのには意味があるのではないか。「あだし(他し)」とは異なり,

あだし(徒し),

は,当初から濁っている。『岩波古語辞典』にはこうある。

「意味上はアダ(不実)の形容詞形と考えられるが,常に名詞と複合した形で使われる。アタシ(他)とアダ(不実)との意味と形の近似による混交の結果生じた語であろう。中世以降の例が多い」

と。そうすると,最初は,

あだな(徒名),

が始まりで,「あた(他)」「あた(仇)」が濁音化するとともに,交じりあい,

あだな(仇名),

と当てられ,さらに,いわゆる「浮名」以外の他称の意味の,

あだな(綽名・渾名),

の意味へと転じていった,ということではないか。『江戸語大辞典』の「あだな」は,

綽名,

で,

他人のつけた呼称,

と他称一般へと広がっている。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)

ホームページ;
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今日のアイデア;
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posted by Toshi at 05:15| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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