「すし」は,
鮨,
鮓,
と当て,
寿司,
とかくのは当て字とある(『広辞苑』)。『日本語源広辞典』は,「すし」は,
「酢+シ・酸+シ」
で,
鮨,
も当て字とする。「鮨」の字は
魚の鰭,
うおびしお,魚のしおから,
を意味し,我が国だけで,
酢につけた魚,
酢・塩をまぜ飯に,魚肉や野菜などをまぜたもの,寿司,
の意で使う。「酢」は,
塩・糟などにつけ,発酵させて酸味をつけた魚。たま,飯を発行させて酸っぱくなった中に魚をつけた込んだ保存食,
の意で,「華南・東南アジアに広く行われた」(『漢字源』)物を指す。これは,
なれずし(熟れ鮨・馴れ鮨),
と重なる。「酢」を「鮨」と同様の意味で使うのは,我が国だけである。『たべもの語源辞典』も,
「スシのスは酸であり,シは助辞である。すなわち『すし』とは『酸(ス)シ』の意である。古く延喜式の諸国の貢物のなかに多く『すし』が出てくる。これは『馴れずし』で魚介類を塩蔵して自然発酵させたものである。発酵を早めるために,飯を加えて漬けるようになったのは,慶長(1596‐1615)ころからと伝えられる。飯に酢を加えて漬けるようになったのは江戸時代になってからで,江戸末期に酢飯のほうが主材となって飯鮨とよばれるようになり,散らしや握り鮨が生まれる。スシはスシミ(酢染)の義とか,口に入れるとその味がスッとはするところからスウキ味からスシになったとかいい,また,石を錘においたから,スはオス(押す),シは石の義だというような説まである。」
としている。なお,『日本語源大辞典』には,
「表記については,『十巻本和名抄-四』に『鮨(略)和名須之 酢属也』とあり,『鮨』と『鮓』は同義に用いられていた可能性がある。ただし,飯の中に魚介類を入れて漬けるのが酢で,魚介類の中に飯を詰めて漬けるのが鮨であるとも言われている。『寿司』という表記は,演技をかついだあて字と考えられ,近代以降のものである。」
とある。「鮨」と「鮓」は使い分けがなされていた可能性が高い。
https://chigai-allguide.com/%E5%AF%BF%E5%8F%B8%E3%81%A8%E9%AE%A8%E3%81%A8%E9%AE%93/
にも,
「最も古い表記は『鮓』で、元々は塩や糟 などに漬けた魚や、発酵させた飯に魚を漬け込んだ保存食を意味した漢字であるため、発酵させて作るすしを指し、馴れずしが当てはまる。『鮓』の漢字は、鯖鮓や鮎鮓、鮒鮓 などで使われるため、関西系のすしに用いられる傾向にある。」
とある。
なお,「なれずし」については,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%AA%E3%82%8C%E3%81%9A%E3%81%97
に,
「主に魚を塩と米飯で乳酸発酵させた食品である。現在の寿司は酢飯を用いるが、なれずしは乳酸発酵により酸味を生じさせるもので、これが本来の鮨(鮓)の形態である。現在でも各地でつくられている。現在の主流であるにぎり寿司を中心とした早ずし(江戸前寿司)とは、まったく違う鮨(鮓)である。」
とあるが,ただ,
「日本のなれずしは、弥生時代に稲作が渡来したのと同時期にもたらされたものとする見解があるが、これは飯に漬けて発酵させるという製法から米に結び付けて説明されており、明証があるわけではない。」
とし,こう付け加えている。
「平安時代中期に制定された延喜式には、西日本各地の調としてさまざまななれずしが記載されている。アユやフナ、アワビなどが多いが、イノシシ、シカといった獣肉のものも記述されている。従来の見解では、室町時代に発酵期間を数日に短縮し、『漬け床』の飯も食する『生成(ナマナレ)』が始まり、江戸時代になると酢が出回るようになり、発酵によらずに酢飯を使用した寿司が作られ、それが主流となるとされていた。
しかし、『生成(ナマナリ、ナマナレ)の鮨(鮓)』というのは、十分に完成していない鮨(鮓)という意味ではあるが、その種類はフナに限られており、ふなずしの食べ方を指す言葉であると考えられる。飯を共に食することはなく、発酵が不十分であることから、酢に浸けて食べるものである。さらに、室町時代以降に『なれずし』の発酵期間が短縮され、『漬け床』の飯も食用とされたということを史料で確認することもできない。」
(鮒寿司)
さて,「すし」の語源であるが,『大言海』も,
酸シ,
とするなど,これが主流だが,『語源由来辞典』
http://gogen-allguide.com/su/sushi.html
も,
「すしの語源は『すっぱい」を意味する形容詞『酸し(すし)』の終止形で、古くは魚介類を塩 に漬け込み自然発酵させた食品をいい、発祥は東南アジア山間部といわれる。『酢飯(すめし)』の『め』が抜け落ちて『すし』になったとする説もあるが、飯と一緒に食べる『生成 (なまなれ)』や、押し鮨の一種である『飯鮨(いいずし)』は、上記の食品が変化し生まれ たもので、時代的にもかなり後になるため、明らかな間違いである。
すしの漢字には、『鮓』『鮨』『寿司(寿し)』があり、『鮓』は塩や糟などに漬けた魚や、発酵させた飯に魚を漬け込んだ保存食を意味したことから,すしを表す漢字として最も適切な字である。『鮨』の字は、中国で『魚の塩辛』を意味する文字であったが,『酢』の持つ意味と混同され用いられるようになったもので、『酢』と同じく古くからもちいられている。現代で多く使われる『寿司』は、江戸末期に作られた当て字で,『壽を司る』という縁起担ぎの意味のほか,賀寿の祝いの言葉を意味する『壽詞(じゅし・よごと)』に由来するとのみかたもある。」
と丁寧に説く。また,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AF%BF%E5%8F%B8
も,
「『すし』の語源は江戸時代中期に編まれた『日本釈名』や『東雅』の、その味が酸っぱいから『酸し(すし)』であるとした説が有力である。」
としている。因みに,『日本語源大辞典』には,「酸し」以外の,語呂合わせ説の出典を上げている。
スシミ(酢染)の義(名言通),
スウキ味で,口に入れるとスッとするところから(本朝辞源=宇田甘冥),
石を重りにおくところから,スはヲス,シは石の義(和句解),
等々。
http://iroha-japan.net/iroha/B02_food/18_sushi.html
に,
「にぎり寿司として食べるようになったのは、江戸時代末期(19世紀初め頃)の事です。この当時江戸中で屋台が大流行し、その屋台から『にぎり寿司』が登場しました。このにぎり寿司は、東京湾すなわち江戸の前(江戸前)でとれる魚介・海苔を使うことから『江戸前寿司』と呼ばれるようになりました。この当時のにぎり寿司はテニスボール位の大きさであったと言われています。また「なれずし」とは違い、すぐに食べられる事から「はやずし」とも呼ばれ,江戸中で流行しました。」
とある。これが今日の寿司である。なお,「江戸前」については,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/435666701.html
で触れたように,三田村鳶魚は,『江戸ッ子』で,江戸前を,具体的に,
「両国から永代までの間,お城の前面」
と言い切り,文化・文政頃に,本所・深川まではいる,という言い方をしている。
参考文献;
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AF%BF%E5%8F%B8
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%AA%E3%82%8C%E3%81%9A%E3%81%97
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
三田村鳶魚『江戸ッ子』(Kindle版)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm