「夕立」は,
ゆだち,
ともいい,『大辞林』に,
夏の午後から夕方にかけ,にわかに降り出すどしゃぶり雨。雷を伴うことが多く,短時間で晴れ上がり,一陣の涼風をもたらす,
とある。この場合,「夕」に騙されると,
夕方降る雨,
となるが,『日本語源広辞典』には,
「夕方でもないのに,庭か雨で一時的に暗くなって夕方らしくなる,が本義です。」
とある。
「夏の午後から夕方にかけ」
というのに意味がある。しかし,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%95%E7%AB%8B
には,
「古語としては、雨に限らず、風・波・雲などが夕方に起こり立つことを動詞で『夕立つ(ゆふだつ)』と呼んだ。その名詞形が『夕立(ゆふだち)』である。
ただし一説に、天から降りることを『タツ』といい、雷神が斎場に降臨することを夕立と呼ぶとする。」
とある。しかし,別名,
白雨(はくう),
とも言うところから見ると,明るい時刻に違いない。
http://yain.jp/i/%E5%A4%95%E7%AB%8B
は,
「夏の午後に、多くは雷を伴って降る激しいにわか雨。白雨(はくう)。」
とし,やはり,
「動詞『夕立つ(ゆうだつ)』の連用形が名詞化したもの。『夕立つ』は、夕方に風・雲・波などが起こり立つことの意。動詞『立つ』には現象が現れるという意がある。」
としているが,
http://mobility-8074.at.webry.info/201606/article_22.html
は,
「夕方に降るから『夕立』と言うというように何となく思っていましたが,語源を調べてみたら,ちょっと違うようです。まず,『立つ』には,〈隠れていたもの,見えていなかったものが,急に現れる,急に目立ってくる〉という意味があります。『目立つ』『きわ立つ』 の『立つ』です。
「夕立」 の 「立つ」 は, 〈雲 ・ 風 ・ 波などが,急に現れる〉 ことを言っています。ここで注意したいのは, 『夕立』は,本来は〈雨〉 のことではないということです。雲が現れた結果として雨になることが多いのですが,語源的には『ゆうだち』は雨ではありません。『夕立』の『夕』は,雲や風が現れるのが夕方ということではないのです。この『夕』は,〈夕方のようになる〉という意味での『夕』です。(中略)
で,『夕立』というのは,〈まだ昼間の十分に明るい時間帯なのに,突然,雨雲が湧いてきて,あたかも夕方を思わせるほどに薄暗くなる〉状態のことなのです。『ゆうだち』は,もとは『いやふりたつ (彌降りたつ)』だったという説です。この『彌』は〈いよいよ,ますます,きわめて,いちばん〉の意味の副詞です。つまり,〈きわめて激しく降り出した雨〉という意味の「いやふりたつ」が『やふたつ』→『ゆふたつ』→『ゆふだち』へと変化してきたという説です。」
としている。そう見ると,『大言海』が「ゆふだち」の意味に,
「雲にわかに起(た)ちて降る雨」
とあるのが生きてくる。『日本語源大辞典』には,「立つ」について,
「『万葉集』にすでに『暮立』の表記でみえる。ユウダチのダチ(立つ)は,自然界の動きがはっきりと目に見えることをいう」
とある。『広辞苑』の「立つ」には,
「事物が上方に運動を起こしてはっきと姿を表す」
意の中に,
雲・煙・霧などが立ち上る,
という意味が載る。
ただ気になるのは,『広辞苑』は,「夕立」の項で,
「一説に,天から降ることをタツといい,雷神が斎場に降臨することとする」
とあることだ。『岩波古語辞典』には,「立つ」について,
「自然界の現象や静止している事物の,上方・前方に向き合う動きがはっきりと目に見える意。転じて,物が確実に位置を占めて存在する意」
とある。とすると,
雲がにわかにむくむくと立ち上がるのを龍に見立てる,
ということはあるかもしれない。『日本語源広辞典』は,「たつ(竜)」の語源を,
「立つ」
としているので,「たつ(立つ)」と「たつ(竜)」がつながらないわけではない。龍については,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/447506661.html
で触れたが,「龍」は,水と関わる。
(長谷川等伯による善女竜王像)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AB%9C
に,「龍」は,
「中国から伝来し、元々日本にあった蛇神信仰と融合した。中世以降の解釈では日本神話に登場する八岐大蛇も竜の一種とされることがある。古墳などに見られる四神の青竜が有名だが、他にも水の神として各地で民間信仰の対象となった。九頭竜伝承は特に有名である。灌漑技術が未熟だった時代には、旱魃が続くと、竜神に食べ物や生け贄を捧げたり、高僧が祈りを捧げるといった雨乞いが行われている。」
とし,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E7%AB%9C
は,
「竜神は竜王、竜宮の神、竜宮様とも呼ばれ、水を司る水神として日本各地で祀られる。竜神が棲むとされる沼や淵で行われる雨乞いは全国的にみられる。漁村では海神とされ、豊漁を祈願する竜神祭が行われる。場所によっては竜宮から魚がもたらされるという言い伝えもある。一般に、日本の竜神信仰の基層には蛇神信仰があると想定されている。」
「仏教では竜は八大竜王なども含めて仏法を守護する天竜八部衆のひとつとされ、恵みの雨をもたらす水神のような存在でもある。仏教の竜は本来インドのナーガであって、中国の竜とは形態の異なるものであるが、中国では竜と漢訳され、中国古来の竜と混同ないし同一視されるようになり、中国風の竜のイメージに変容した。日本にも飛鳥時代以降、中国文化の影響を受けた仏教の竜が伝わっている。」
とある。
なお,
夕立は馬の背を分ける,
という言葉があるが,
https://www.waraerujd.com/blank-131
に,
「夕立は馬の背を分けるとは、夕立は馬の片身に降っても反対側の片身には降らないという意味で、夕立の局地性を表現したことわざ。」
である。
参考文献;
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%A8%E3%82%92%E9%99%8D%E3%82%89%E3%81%9B%E3%81%A6%E6%AE%BA%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%9F%E7%AB%9C
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E7%AB%9C
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8