2018年01月25日

くたびれる


「くたびれる」は,

草臥れる,

と当てる。『広辞苑』には,

「『草臥』は疲れて草に臥す意の当て字」

とある。「疲れる」よりは,くたくた,というニュアンスになるのだろうか。

くたくたに疲れる,

で,転じて,

長く使ってみすぼらしくなる,

の意になる。これだと含意が伝わりにくいが,『デジタル大辞泉』には,

1 長時間からだや頭を使ったため、疲れて元気がなくなる。「歩きつづけて草臥れる」
2 年老いたり苦労が続いたりして気力や若さを失う。「人生に草臥れる」「生活に草臥れた顔」
3 衣服などが長く使われたため、古くみすぼらしくなる。「草臥れた背広」
4 (他の動詞の連用形に付いて)その動作を続けるのが、疲れていやになる。「待ち草臥れる」

と載り,「疲れる」と対比して,

「『さんざん動き回ったので疲れた(くたびれた)』のように、体の疲労をいう場合には相通じて用いられる。『細かい字を読んで目が疲れた』『神経が疲れる』のように全身の疲労でない場合や、『旅に疲れる』『人生に疲れる』のようにやや抽象的に用いる場合は、くだけたいい方である『くたびれる』はあまり用いないのが普通。『疲れた油』は、長く使って品質が落ちたこと。『くたびれた服』は、古くなってよれよれになった形状をいう。類似の語に『へばる』『へたばる』がある。『へばる』は疲れ切った状態をいい、『へたばる』は疲れが重なってもう動けないような状態をいう。いずれも俗語的表現。『相当へばっている』『暑さと疲れで、とうとうへたばってしまった』」

と書いている。『大辞林』には,

体力を消耗してそれ以上動くのがいやになる,

とあるので,消耗度が「疲れる」より上だから,「草臥れた服」は,そういう着古した感があることになる。それよりひどいと,

つかれる→くたびれる→へばる,

で,その上が,

くたばる,

で,『岩波古語辞典』には,

体力が芯から衰える,憔悴,

で,さらに転じて,究極,

死ぬ,

に至るが,多くは,相手をののしる言葉として使われる。ということで,

つかれる→くたびれる→へたばる(へばる)→くたばる,

と順次疲労度が増していくようである。

『岩波古語辞典』には, 「くたびれ」の項で,

「クチ(朽)・クタチ(降)・クタバリと同根」

としている。「くたち」は,

「クチ(朽)・クタシ(腐)と同根。人力でとどめえない自然の成り行きによって,盛りの状態が推移して終りに近づき,変質して行く意」

とあり,

朽ちていく,衰える,

という意味になる。

『大言海』は,「草臥れる」を,

「くたびるの口語」

とし,「くたびる」で,やはり,

「クタ(朽)とキタナビルとの條をみよ。」

と,関連を強調している。「くた」では,

「腐るの語根,朽つ,朽ちと通じ」

とし,「きたなびる」では,

「キタナは,キタナシの語根(いとなし,いとなむ。はかなし,はかなむ)。ビルは,其状する意。ブルの転か,うちぶる,うらびれ(あおびるる,くたびるる,さびるる,わびるる)」

とある。「ぶる」が,

その状態を示す,

のだとして(「えらぶる」の「ぶる」),「くた」は,

朽ち,

とつながるようである。それは後で触れるとして,『大言海』には,

「くづほる,くたはると通ず,草臥(そうぐわ)の字を慣用するは,詩経,鄘風の跋渉に,くさぶし(草臥)みずわたる(水渡)と,古訓あるによる」

と。「草臥」の当て字の由来が載る。調べたが見つからない。多く,『大言海』に依って,「詩経,鄘風の跋渉」説を採っているようだ(『日本語源大辞典』も,これを引用している)。

「くた」と関わるのは,

くたくた,
くたばる,

だが,「くたばる」は,『岩波古語辞典』は,名義抄を引いて,

「焦燥,くたはる」

としているが,『大言海』は,「くたはる」「くたばる」と別項を立て,前者については,

「クタは,朽ちなり。…くづほる,くたびると通ず(もとほる,まつはる)」

とし,「悴(かじ)く。しぼむ」という意味を載せ,後者については,

「クタクタと,ヘタバルとの略合にもあらむか(ひしげかがむ,ひがむ。カンザラシトコロテン,カンテン)」

として,「死ぬの卑語」の意として,別々にしている。いずれにしても,「朽ち」と通じている。

「くたくた」は,

「朽(クタ)を重ぬ。ぐたり,ぐったり,ハクタの音便(うかと,うっかりと。とくと,とっくりと)。酔うてグデングデンとなると云ふも,是より轉したるなり(たぶたぶ,でぶでぶ)」

とある。『日本語源広辞典』も「くたくたを,「朽た」を重ねたとし,「くたばる」も,

「クタクタ+ヘタバルの混淆語」

としているが,異説はあるが(たとえば,「クタル(腐る)+接尾語バル」),いずれも,

「朽ち」

を中心にしている。

で,「くたびれる」に話を戻すと,『日本語源広辞典』は,

「『クタビルの下二段化』です。クタは腐と同根,生気を撓う意です。クタスも同じ語源です」

とし,『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/ku/kutabireru.html

も,

「くたびれるの古形は『くたびる』。『くた』は、『くつ(朽つ)』『くたす(腐す)』と同源。『くたばる』の『くた』も同じ語幹である。『びる』は、悪びれるの古形『わるびる(悪びる)』の『びる』などと同じく、ある状態を言い表す語。漢字で『草臥れる』と 表記するのは、『詩経』にある『草臥(疲れて草に臥すの意)』を慣用したものである。」


とする。ただ,『日本語源大辞典』は,その他に,

クタは朽。ビルはヒルムと同語か(俗語考・和訓栞),
クタ(腐)シブルの義(和訓栞),
クツボレ(朽恍惚),またはクタボレ(腐恍惚)の義(松屋筆記),
クタは芥の義。ヒレはヒレフス(臥)の意(語麓),
クサタフレ(草仆)の略(菊池俗語考),
クサヒラ(草平)の義。ヒラは臥す意(名言通),
クンタイヒレタル(裙帯肩巾垂)の義(春湊浪話),

「草臥」の当て字を前提にした解釈は別として,いずれも,

クタ(朽・腐),

から来ている。『大言海』の説で尽きているようだ。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1

スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8

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