2018年02月01日

たすき


「たすき」は,

襷,
手繦,

と当てる。ただ,「襷」は国字のようである。『広辞苑』『岩波古語辞典』には,

「タはテ(手)の古形」

とある。「て」については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/453160543.html

で触れた。「繦(呉音キョウ〔キャウ〕,漢音コウ〔カウ〕)」は,

「糸+音符強(丈夫な)」

で,「ひも」を意味し,繦褓(きょうほう),といった言い方がある。これも当て字と思われる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%9F%E3%81%99%E3%81%8D

に,

「たすき(襷、手繦)は、主に和服において、袖や袂が邪魔にならないようにたくし上げる為の紐や布地を指す。通常、肩から脇にかけて通し、斜め十字に交差させて使用するが、輪状にして片方の肩から腰にかけて斜めに垂らして用いる方法もある。交差させて使用した場合を綾襷(あやだすき)と言う。『襷』という漢字は国字である。」

とあり,さらに,

「古代は神事の装飾品であった。群馬県で出土した巫女の人物埴輪では、『意須比』と呼ばれる前合せの衣服に帯を締め、襷をかけている姿となっている。加えて、日本神話では天照大神(あまてらすおおみかみ)が天岩屋に隠れた際
『アメノウズメの命、天の香山(かぐやま)の天の日影を手次(たすき)にかけて 』(『古事記』)踊ったと記されており、これらの巫女が着用した例は襷を掛ける者の穢れを除く、物忌みの意味があったとされている。」

襷を掛けている巫女の人物埴輪。.JPG

〔襷を掛けている巫女の人物埴輪。表面から見ると脇横の紐しか見えないが、背面から見ると斜め十字に掛けてあり、襷であることが分かる。(埴輪「腰掛ける巫女」重要文化財 東京国立博物館蔵)〕


とある。さらに,平安時代でも,

「神社では神を祀る時には木綿襷(ゆうだすき・楮の樹皮を用いたもの)をかけ神事に臨み、聖なる行事の装飾品として用いた。」

とあるし,安土桃山時代の風俗潅風絵に,

「田植えをする女性が襷をかけている姿が描かれており、これらも古代と同様、田植えは本来聖なる行事であったことから、襷を身につけ穢れを除くためと考えられている。」

とある。そうしした名残であろうか,何か力んでしようとする時は,いまでも,襷掛けをするし,襷掛けすると,どこが心が引き締まる感じがする。

『由来・語源辞典』

http://yain.jp/i/%E8%A5%B7

「語源は『た(手)』+『すき』で、『すき』は小児を背負うための帯のこと。働くときに用いるようになったのは近世以降のこと。」

とあるのは,それこそ近世以降ではあるまいか。むしろ逆に,「繦」が紐の字を持っているので,当てたというべきではなかろうか。上記,ウィキペディアには,

「江戸時代になると町人、職人、階級や老若男女を問わず、襷は大いに定着する。日々の暮らしに密着した日用品へと主目的が移るに従い、行事ごとなどを除いて、襷をかけたまま神社・仏閣に参拝したり、客の応対に出ることは相手に失礼であるという意識を伴った。」

と逆転しているところを見ると,襷を掛けることが,生活レベルに堕したということなのだろう。しかし,『大言海』は,「たすき」を,

襷,
手繦,

と当てるものと,

襷,

を当てるものと二項別々に載せている。前者の「たすき」(襷・手繦)には,

「天治字鏡,四-三『繦,負兒帯也,須支』とあり,されば手に懸くる繦(すき)の義ならむと云ふ。襷は擧衣の和合字なり」

として,

「上代,神事の時,肩に懸くる紐の如きもの。背に打交へたるが如し。謹みて物奉るに,手の力を助(す)くるなりと云ふ(上代の衣は筒袖なり)。また膳部の供物などまかなふ時,袖に觸れむを恐れて束ぬるもの」

と意味が載る。やはり実用よりは神事の色合いが強い。『大言海』は,後者の「たすき」(襷)は,

「前條の語意の転」

とある。つまり,「たすき」が実用へと転換したということになる。その意味では,『日本語源広辞典』の,

「タ(手)+スキ(助)」

とする語源説も,後世の実用性から考えすぎている。「繦」の字を当てたのは,それがあくまで「ひも」の意だかだと思う。『大言海』の引く,

「天治字鏡,四-三『繦,負兒帯也,須支』」

が正しいと思う。『日本語源大辞典』は,

「記紀では『手繦』『手次』などと表記され,上代から神事などの際,袖が供物に触れるのを防ぐ手段として用いられた。」

としている。これも,『大言海』の,

「上代の衣は筒袖なり」

から考えると,後世からの解釈に思える。「たすき」を掛けること自体が,神事だったということなのではないか。その「紐」の材料は,

「様々で、日蔭蔓(ひかげかずら)・木綿(ゆう)・ガマ (蒲) など植物性の類から、勾玉や管玉などを通した『玉襷(たまだすき)』があった。玉襷は襷の美称の言葉でもあるが、玉類を利用した襷にも用いる言葉である。平安時代でも、神社では神を祀る時には木綿襷(ゆうだすき・楮の樹皮を用いたもの)をかけ神事に臨み、聖なる行事の装飾品として用いた。」

とある。あるいは,紐自体にも,神聖な意味があったのかもしれない。因みに,「玉襷」は,

「神霊の宿る襷。襷は一般に着物の袖をあげるために肩から脇にかけて結ぶひも。ただし、手に巻く場合もある。『玉』がつくと、神霊が宿る襷の意となる。」(『万葉神事語辞典』)

とあり,『日本語源大辞典』には,

「実際に勾玉・菅玉などの玉の付いた襷であるとする説と,玉に実質的な意味はなく単に襷の美称であるという説がある。しかし『たまくしげ』『たますだれ』などと同様,本来,実際に玉の付いたものをいう一方で,単に美称としての意識も強かったと考えられる。」

とあり,どちらの説にしろ,「襷」の重要性が,逆に際立ってくる。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1

スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8

ラベル:たすき 手繦
posted by Toshi at 05:09| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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