2018年02月04日
たつき
「たつき」を引くと,『広辞苑』は,
方便,
と当て,「たずき」表記とあり「たずき」をみると,
「語源は『手付き』か。中世以降,タツキとも」
とあり,『大辞林』には,
「『手(た)付(つ)き』の意。古くは『たづき』。中世以降『たづき』『たつき』。現代では『たつき』が普通」
と解りやすい。『岩波古語辞典』にあるように,
「タはテ(手)の古形」
である。意味は,
(事をし始めたり,また何かを知るための)手がかり,
生活の手段,生計,
である。しかし,『大辞林』は,
たずき(づき)(方便・活計),
たつき(方便・活計),
たどき(方便),
ほうべん(はう)(方便),
と並べられている。
「たどき」は,「たづき」の転訛なので,
たづき→たどき,
の転訛と,
たづき→たずき,
たづき→たつき,
の転訛とが,並行している,のかもしれない。しかし,今日,
たつき,
と
ほうべん,
は,意味はともかく,かけ離れてしまっているように見える。
「たつき」について,『岩波古語辞典』は,
「タ(手)とツキ(付)との複合語。とりつく手がかりの意。古くは,『知らず』『なし』など否定の語を伴う例だけが残っている。中世,タツギ・タツキとも」
とあり,
たづき無し
という言い回しがあり,「生活手段がない」という意味とともに,
頼りない,頼みとするものが無い,
という意味で使われたようだ。『大言海』は,
「手着の義と云ふ」
としている。「つく」
http://ppnetwork.seesaa.net/article/448009954.html
で触れたように,「つく」は,おおまかに,
「付く・附く・着く・就く・即く」系,
と
「突く・衝く・撞く(・搗く・舂く・築く)」系,
に分けてみることができる。しかも,語源を調べると,「突く・衝く・撞く」系の,「突く」も,
付く,
に行き着くようなので,「手付」も「手着」も同じと見ていい。『日本語源大辞典』を見ると,
手着の義(言元梯・和訓栞・大言海・日本語源=賀茂百樹),
手付の義(和訓栞),
にわかれるが,『日本語源広辞典』は,
「タ(手)+付」
を採る。しかし,この「手付き」は,
手を使って事をする時の,手の恰好や動かし方,
の意味で,「手つき・腰つき」のそれである。そこから,
技倆,
という意味が派生するが,「たつき」の意味とは少し離れている。ここからは億説だが,「手付き」つまり,手の動きは,生活の手段である。その意味で,技倆といっていい。そこから,
たつき(活計),
までは,遠くはないように思う。「て(手)」,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/453160543.html
で触れたように,「て」は,動作の,
取る,
執る,
捕る,
等々と関わる,とされる。まさに,生活の手立てである。
因みに,「方便(ほうべん)」は,
一般的には〈方法〉〈巧みなてだて〉ということ,
だが,由来は仏典で,
「仏教で方便を用いる場合は基本的に,すぐれた教化(きようけ)方法,サンスクリットのupāya‐kauśalya(善巧方便)ということであり,衆生を真実の教えに導くためにかりに設けた教えの意味である。経典・論釈のみならず,文学作品などに用いられる場合,微妙な意味の変化がみられるが,基本の意味をふまえることによって理解できよう。とくに《法華経》では方便を開いて真実をあらわすことが大きなテーマになっており,〈方便品〉では〈三乗(さんじよう)が一乗(いちじよう)の方便である〉という。」(『世界大百科事典 第2版』)
「サンスクリット語のウパーヤupya(近づく、到達する意)の訳。仏教の教えや実践がむずかしくて、一般の人々に理解しがたく実行しがたいのを、彼らを教え導いて、仏教に親しみ、仏教の本旨に到達させるために考案された巧みな手段をいう。とくに仏教が民衆化した大乗仏教において、さまざまな方便が語られ、大乗仏教経典は『方便品(ほん)』を設けている例が少なくない。とくに『法華経(ほけきょう)』のそれは名高い。方便が非常に重要視されて、六波羅蜜(ろっぱらみつ)に次いで方便波羅蜜(はらみつ)がたてられることもあり、密教は方便を究竟(くきょう)(最高)とする。また中国仏教では、方便のあり方を種々に分類する。のち俗語に転化し、『嘘(うそ)も方便』などと、目的に対して利用される便宜的な手段、過渡的な方法をいい、日本語ではかならずしもよい意味だけに用いられるとは限らない。」(『日本大百科全書(ニッポニカ)』)
とある。最初期の仏教においては,
「ウパーヤは衆生が仏や悟りに近づく方策のことを主に指していた。」
とあるらしいので,意味はここに出典がある。
参考文献;
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%B9%E4%BE%BF
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください