たけなわ
「たけなわ」は,
酣,
闌,
と当てる。
物事の一番の盛り,真っ最中,
少し盛りを過ぎたさま,
といった意味になる。「真っ最中」の意から,転じて「少し盛りを過ぎた」となったとみられる。下から上を見るのと,上から下を見るのと,視点の違いということか。
『時代別国語大辞典上代編』には,
「たけなは[酣]形状言。たけなわ。物事の(主に酒宴の)最中、あるいは盛りを過ぎた状態。『酒酣(たけなは)之後、吾則起歌』(神武前紀)『夜深酒酣(たけなはニシテ)、次第儛訖』(顕宗前紀)『酣タケナハニ・闌タケナハタリ』(名義抄)【考】『酣』は、酒を楽しむ・酒宴最中・盛んなの意。第三例名義抄にみえる『闌』は『言希也、謂、飲酒者、半罷半在、謂之闌』(漢書高帝紀顔師古注)とあるように、盛りを過ぎたさまを表わす。真最中から盛り過ぎという意味の幅は、このような語に自然なものかと思われる。タケナハのタケは日(ヒ)長(タ)クなどのタク(下二段)であろうが、その日長クにも、真昼(朝おそく)をさす場合から、日の傾く夕方を指す場合までがあるようで、タケナハもその例外ではあるまい。」
とあり,「たけなわ」の持つ,盛りと,盛りの陰りとの含意の説明はおもしろい。
「酣」の字は,
「『酉+音符甘(含み味わう,うまい)』。甘は,中に封じ込める意を含む。酒に封じ込められてうまさに酔った状態をいう」
とあり,まさに,
たけなわ,
と同義である。「闌」の字は,
「門+音符柬(カン・ラン ひきしめる,おさえとめる)」。出入りを抑える門の意から,てすり,遮るなどの意に転じ,欄干の欄と同じ」
とある。遮るという意味と同時に,「たけなわ」の意味もあり,古代人は,まさに熟知して,「たけなわ」にこの字に当てた。『大言海』は,
「タケは,長(た)る意,ナハは,オソナハルの類」
とある。「おそなはる」を見ると,
「ナハルは,延びゆく意と思はる,畳(たた)なはる,糾(ただ)なはるなどもあり」
とある。『岩波古語辞典』は,
「タケはタケ(丈・長・闌)・タケシのたけ。高まる意」
とある。『大言海』とほぼ同じである。「たけ」については,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/443380153.html
で触れたことがあるが,『日本語源広辞典』は,
「身の丈などのタケも,タカ(高・竹)と同じ語源」
とあり,
「長く(タク)は,高さがいっぱいになることの意で使います。時間的にいっぱいになる意のタケナワも,根元は同じではないかと思います。春がタケルも,同じです。わざ,技量などいっぱいになる意で,剣道にタケルなどともいいます。」
とある。『広辞苑』も,「たけ(長・丈)」は,
「動詞「たく(長く)」と同源」と載る。『大言海』には,
「高背(タカセ)の約。長(タケ)の義」
とあり,意味は,
上に長きこと,立てる高さ,
転じて,長さ,
十分の程,あるかぎり(あるたけ),
と意味の変化が載る。『大言海』は,「たく(長)」について,
「高(タカ)の活用,深(ふか)ノフクルの類」
とし,『岩波古語辞典』は,「たけ(長け・闌け)」
「たか(高)の動詞化,髙くなる意。フカ(深)・フケ(更)・アサ(浅)・アセ(褪)の類」
とする。『日本語源大辞典』も,「たけ」については,
タケ(長)の義,
と
タカキ(高)の義,
の二系統に分かれる。『日本語源広辞典』の言う,
「長く(タク)は,高さがいっぱいになることの意で使います。時間的にいっぱいになる意のタケナワも,根元は同じではないかと思います。」
というように,長さや高さという空間的な表現を時間に転用することは,十分考えられる。『日本語源大辞典』は,
「ある行為・催事・季節などがもっともさかんに行われている時。また、それらしくなっている状態。やや盛りを過ぎて、衰えかけているさまにもいう。最中(さいちゅう)。もなか。まっさかり。」
と長さと高まりとが重なり合うイメージになっていく。そう見て,「たけなわ」の諸説を見ると,
タケは、丈の長くなることをいうタケルから。ナハは遅ナハルなどのナハと同じ〈本朝辞源=宇田甘冥〉,
タケシ(長)の意から〈国語の語根とその分類=大島正健〉,
タケはタク(長・闌)・タケブ・タケルと同根〈小学館古語大辞典〉,
ウタゲナカバの約〈古事記伝〉,
長さとピークになっていく盛り上がりの頂点,という意味では,「たけなわ」には,
長さ,
と
髙み,
の二重の意味がダブっている。
なお堀井令以知編『語源大辞典』は,
「古事記伝の説、ウタゲナカバの略からとするのはいかがであろう。」
と疑問を呈しているとか。
参考文献;
http://tatage21.hatenadiary.jp/entry/2016/02/16/012653
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
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