「かく」は,
書く,
描く,
画く,
等々と当てる。何れも漢字の意味を当てにした当て字である。「描く」「画く」で,
(筆などで)線を引く,絵や図をえがく,
と使い分け,「書く」で,
文字をしるす,
文につくる,
と使い分けているにすぎない(『広辞苑』)。
『広辞苑』『デジタル大辞泉』には,
「『掻く』と同源。先の尖った物で面を引っかく意が原義」
とある。とっさに,粘土板に掻いた楔形文字を連想した。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A5%94%E5%BD%A2%E6%96%87%E5%AD%97
に,
「楔形文字(くさびがたもじ、せっけいもじ)とは、世界四大文明の一つであるメソポタミア文明で使用されていた古代文字である。筆記には水で練った粘土板に、葦を削ったペンが使われた。最古の出土品は紀元前3400年にまで遡ることができる。文字としては人類史上最も古いものの一つであり、古さでは紀元前3200年前後から使われていた古代エジプトの象形文字に匹敵する。」
とある。
楔形文字(くさびがたもじ、せっけいもじ)
『大言海』は,
「筆尖にて紙上を掻く意ならむ」
としているが,ここは『語源由来辞典』
http://gogen-allguide.com/ka/kaku.html
の,
「書く・描く・画くは、全て『掻く(かく)』に由来する。かつては、土・木・石などを引っ掻き、痕をつけて記号を記したことから、『かく』が文字や絵などを記す意味となった。」
でいい。『日本語源大辞典』には,それ以外に,
カカグ(掲)の義(名言通),
カオク(皃置)の約(柴門和語類集),
カは日で色の源の意,クは付き止る意(国語本義),
「画」の入声音Kakから(日本語原学=与謝野寛),
と載せるが,ちょっと実態とはかかわりが見えない無理筋に見える。
「人類の起源はほぼ200万年前にさかのぼるといわれ、また言語の起源も少なくとも数十万年前にさかのぼると推定されるのに対し、人類が文字によって言語を記録し始めたのは、資料によって確かめられる限り、紀元前3000年前後のころ、すなわち、いまからせいぜい5000年前のことにすぎない。したがって、火の使用、道具の発明がごく早期の文化だとすれば、これは動物の家畜化、植物の栽培などと並ぶ、後期の文化ということができる。
しかし一般に『書く』という行為は、体系的な文字の成立以前、あるいはそれが完全に成立することのなかった自然民族のもとでも、ある種の記号(サイン)を使用する際に、多かれ少なかれ生じたと考えられる。なぜならば『書く』という語は、各国語において『引っ掻(か)く、掻き削る、彫りつける、刻む』などを意味し、あるいはそれらを意味する語に発しており、『書く』ことの起源を暗示しているからである。」(『日本大百科全書(ニッポニカ)』)
「かく」は,人類共通の出自らしい。「書」の字は,しかし,
「『聿(ふで)+音符者』で,ひと所に定着させる意を含む。筆で字をかきつけて,紙や木簡に定着させる」
である。ついでに,「描」の字は,
「手+音符苗」
で,「苗」の字は,「艸+田」で,苗代に生えた細くて弱々しいなえのこと」。「描」の意は,
「こまかく手や筆を動かす」「ある物の形の駒かいところまで写しえがく」意である。「画(畫)」の字は,
「『聿(ふでを手に持ったさま)+田のまわりを線で区切ってかこんださま』で,ある面積を区切って筆で区画を記すことをあらわす。新字体は聿(ふで)の部分を略した形」
とある。「聿」の字は,
「筆の原字で,筆を手にもつさまをあらわす。のち,ふでの意の場合,竹印をそえて筆と書き,聿は,これ,ここに,などリズムを整える助詞に転用された。」
とある。「筆」は,
「毛の束をぐっと引き締めて,竹の柄をつけたふで」
だが,思うに,筆以前は,竹を削った先で「かいて」いたのではないか。
ところで,「かく」の語源「掻く」について,『岩波古語辞典』は,
「爪を立て物の表面に食い込ませてひっかいたり,絃に爪の先をひっかけて弾いたりする意。『懸き』と起源的に同一。動作の類似から,後に『書き』の意に用いる」
とあり,「懸き」について,
「物の端を対象の一点にくっつけ,そこに食い込ませて,その物の重みを委ねる意。『掻き』と起源的に同一。『掻き』との意味上の分岐に伴って,四段活用から下二段活用『懸け』に移った。既に奈良時代に,四段・下二段の併用がある。」
としている。漢字がなければ,
書く,
も,
掻く,
も,
懸く,
も
掛く,
も,
舁く,
も,
区別なく,「かく」であった。
参考文献;
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A5%94%E5%BD%A2%E6%96%87%E5%AD%97
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1