2018年02月22日
ならう
「ならう(ならふ)」
習う(ふ)
慣らう(ふ)
倣う(ふ)
と当てるが,『広辞苑』は,「習う」と「倣う・慣らう」を項を改めている。しかし,「習う」は,
慣らうと同源,
とあり,「倣う・慣らう」は,
習うと同源,
としている。別項なのは,漢字を当てて,意味を違えたということである。「習う」は,
繰り返し収めおこなう,稽古する,
教えられて自分の身につける,
という意であり,「倣う」「慣らう」は,
たびたび経験して馴れる,
習慣となる,
あることのままに従って行う,準ずる,
なれ親しむ,
の意となる。あえて,差を言い立てれば,「習う」はプロセスの方に重点があり,「倣う・慣らう」は,その毛った,それに従うところにウエイトがある,といえそうである。
先に,「ならう」に当てた各漢字に当たっておくと,「習」の字は,
「『派+白』で,羽を重ねること,また鳥が何度も羽を動かす動作を繰り返すことを示す。この白は,自の変形で,『しろ』ではなく,替のカブと同じく動詞のきごうである。」
とあり,「幾重にも重ねる」「何度も重ねて身につける」「何度も繰り返してなれしたしむ」という意味になる。「倣」の字は,
「方は,同じように左右に張り出たすきの柄のこと。『比方(左右に並べてくらべる)』の方の意と同じ。倣は『人+音符放(=方)』で,似たものを左右に並べて比べ合わせること」
で,「並べてみて,同じようにまねる」意である。因みに「放」の字は,
「方は,両側に柄の伸びたすきを描いた象形文字。放は『攴(動詞の記号)+音符方』で,両側に伸ばすこと。緊張や束縛を解いて,上下左右に伸ばすこと」
とあり,ついでに,「方」の字は,象形文字で,
「左右にはり出たすきを描いたもので,⇄のように左右に直線状に伸びる意を含み,東←→西,南←→北のような方向の意となる。また,方向や筋道のことから,方法の意を生じた」
とある。「慣」の字は,
「貫は,ひとつの線でつらぬいて変化しない意を含む。慣は『心+音符貫』で,一貫したやり方に沿ってた気持ちのこと」
とあり,「いつも同じことをして習熟するろ」「いつもおなじことをするならわし」の意となる。
この三字の使い分けは,
倣は,傚(コウ)と同義なり。俲也,依也,…想像也,遂行也と註す。放につくる,同じ,
傚は,效に同じ,先例にまなびならふなり,
習は,重也と註す。その事を幾度となく重ねてならひ熟するなり。論語「學而時習之」,
慣は,ならひ,なるるなり,大載禮「習慣如自然」
とある。なお,「傚」の字は,
「交は,足を交差させたさまを描いた象形文字。效は『攴(動詞の記号)+音符交』の会意兼形声文字。二人の間に知恵を与えたり受けたりする交流の生じることを學・教という。效(=効)・學・教は同系のことばで,知恵を与える側からは教といい,受ける側からは効・倣(ならう)・學といい,ひとつの交流の両面にすぎない。傚の字は,『人+效』で,人偏をそえて人の間の交流であることを強調した字」
とあり,「ならう」「まねる」という意となる。
『大言海』は,「ならふ」を,「習ふ」「倣(傚)ふ」「慣らふ」を別々に項を立て,「習ふ」は,「屡,學び為す」,「倣(傚)ふ」は,「(竝ぶ意かと云ふ)従ひてする」,「慣らふ」は,「なれる」としている。
『岩波古語辞典』は,「まなぶ」の項で,
「類義語ナラヒは,繰り返し練習することによって身に着ける意」
とあった。「ならふ(習ふ・倣ふ・慣らふ)」の項で,
「ナラは,ナラシ(平・馴)と同根。物事に繰り返しよく接する意」
とある。ここでは,接するプロセスも,接した結果も,区別せず「ならふ」である。
しかし,三者の区別は漢字が当たらなければ,ほぼ意味をなさない。『日本語源広辞典』は,「習う」は,
「『ナラ(慣ら)+フ(継続・反復)』です。繰り返して同じことを何度もすることによって習慣化して,最後に自分の能力にしてしまうというプロセス(過程)を重視した動詞です。」
とあり,「倣う」は,
「『ナラ(慣ら)+フ(継続・反復)』です。繰り返して何度もする意から,模倣をする意です」
とあり,「慣れる」が語源となる,としている。上述の『岩波古語辞典』は,
「ナラシ(平・馴)と同根」
としていた。「ならし(平し・均し・馴らし)」は,結局,
「ナレ(慣れ)・ならひ(習)と同根」
と,「ナレ(慣れ)」に戻ってくる。『日本語源大辞典』には,
ナレアフ(馴合)の義(日本語原学=林甕臣),
ナライはナレアヒ(馴合)の約(菊池俗語考),
ナラシフ(馴歴)の義(名言通),
ナラフ(並)の義(和訓栞),
ナラヒウル(並得)の義(柴門和語類集),
ナラフ(並羽)の転(和語私臆鈔),
ナラはナラス(平・馴)と同根で,物事に繰り返しよく接する意(岩波古語辞典)
と諸説並べているが,結局,習慣にしろ,しきたりにしろ,知識にしろ,ものの考え方にしろ,先例にしろ,先達の教えにしろ,そのことに慣れ親しんでしまうことで,
習慣如自然,
となっていくところがある。習うも,倣うことも,つまるところ,慣らう,につきるというのは,古人はよく分かっていたのかもしれない。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
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