2018年03月04日

おと


「おと」は,「おとずれる」

http://ppnetwork.seesaa.net/article/457380579.html?1520021375

で触れたが,

「音」の字は,

「言という字の口の部分の中に,・印を含ませたもの。言は,はっきりとけじめをつけたことばの発音を示す。
音は,その口に何かを含み,ウーと声を出すことを示す」

で,『漢字源』には,「音」は,

「朽ちを塞いで出す,ウーという含み声。生態を振るわせて出るおと」

とあり,

「舌や脣などの調整が加わった声を『言』といい,調整の加わらない声を『音』といった」

とある。「音」の字は,「言」という字から出たとされるが,「言」の字もまた,

「『辛(切れ目をつける刃物)+口』で,口を塞いでもぐもぐという音(オン)・諳(アン)といい,はっきりとかどめをつけて発音することを言という」

と,どうやら擬音語からきたらしい。しかし,擬音語とは言え,「言」には,

「辛は入れ墨に用いる針で,これを「サイ」という器にそえて神に誓約を行い,もし誓が真実でなく信じられない者の場合は,真実を受けるということを,言という文字は表している」

という意味があるとされ,

言の字.gif

(「取っ手のある刃物」の象形と「口」の象形から悪い事をした時は罪に服するという「ちかい・ことば」を意味する「言」という漢字が成り立ちました。https://okjiten.jp/kanji198.htmlより)


この下の器(サイ)の中に・または-が加えられたものが「音」の字とされる。だから,

「音は神への誓の言に感応して神の反応が訪れたことを示すものだとし,この暗示的な神の感応を推測すること」(白川静)

を意味するので,「言」に「・」「-」を加えたのが,「音」という字だということになる。

音Ⅲ.gif

(「取っ手のある刃物の象形と口の象形」(「言う」の意味)の「口」の部分に一点加えた形から「楽器や金・石・草・木から発するおと」を意味する「音」という漢字が成り立ちました。https://okjiten.jp/kanji196.htmlより)

.流伝の音.png

(流伝の古文字https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%9F%B3より )


では,万葉では,於等,於登,音等々,と当てられていた,和語「おと」はどこからきたか。

『岩波古語辞典』には,

「離れていてもはっきり聞こえてくる,物のひびきや人の声,転じて,噂や便り。類義語ネ(音)は,意味あるように聞く心に訴えてくる声や音」

とあり,「ね」と「おと」は,「音」の字を当てても意味が違う,とする。「ね」を見ると,

「なき(鳴・泣)のナの転。人・鳥・虫などの,聞く心に訴える音声。類義語オトは,人の発声器官による音をいうのが原義」

とあり,「おと」は「物音」,「ね」は,「人・鳥・虫などの音声」という区分けになるようだ。「ね」には,人側の思い入れ,感情移入があるので,単なる状態表現ではなく,価値表現になっている,といってもいい。

http://gogen-allguide.com/o/oto.html

「音の語源には、『お』が『発声』、『と』が『とく(疾)物に当たる音』とする説。『あた(当)』に通じるとする説や、『おとろ(驚)』からとする説。上から下へ落ちるに従い響き出ることから、『おとす(落とす)』を語源とする説。『トントン』『ドンドン』などの擬音からなど諸説あるが、決定的な説はなく未詳。『万葉集』や『古今集』などの歌集では、音を『水』『波』『風』などと合わせて用いた例が多くみられる。」

と,「おと」は,いわゆる「物音」に近い。『大言海』は,

「當(あた)と通ずるか。織衣(おりぎぬ),ありぎぬ。いたはし,いとほし」

としているが,『日本語源広辞典』は,擬音語とし,『日本語源大辞典』は,

トントン,ドンドンから出たものか(国語溯原=大矢徹),
オは発声,トはトク(疾)物に当たる音か(俚言集覧),
アタ(当)に通じるか(大言海),
オトロ(驚)から(言元梯),
上から下へ落ちるに従って響き出るものであるところから,オトス(落)からか(和句解),
アアト(阿迹)の転語(柴門和語類集),
オモトホル(重徹)の義(名言通),

と,諸説挙げるが,どうやら物音を指している気がする(「とんとん」は江戸期からみられると,『擬音語・擬態語辞典』にある)。なぜなら,「声」は,別に「ね」という言葉を持っていた。

「ね」は,『日本語源広辞典』も,『岩波古語辞典』と同様,

「ナ(泣・鳴)からネへの変化」

とし,『大言海』は,「ね」について,

音・聲,

と当てて,

「声の色あるもの,細く易しげ鳴る音」

と,

音・哭,

と当てて,

「泣く聲」

として,

声立てて泣くこと,

を区別しているが,等しく「声」とする。『日本語源大辞典』は,

ナ(鳴)の義(言元梯),
ナク(鳴・泣)のナの転(岩波古語辞典),
ナク(泣・鳴)のナと共通(小学館古語大辞典),
ナケ(鳴)の反(名語記),
ネル(練)の義か。音は声の軽重清濁の文あることをいうところから(和訓栞・言葉の根しらべの=鈴木潔子),
夜の静かなときに,ネ(寝)てよく聞こえるところから(和句解),
心根から出るものであるところから(本朝辞源=宇田甘冥),
ナレの約(和訓集説),
デ(出)の義。ネとテは通音(日本釈名),

と挙げるが,「おと」と「ね」を区別していた以上,「ね」には,「おと」とは異なる,特別の意味があったはずである。日本人(敢えて言うとかつての日本人を指す。いまの日本人は,風鈴の音〔おと〕が喧しいと感ずるらしいので)には,虫の音(ね),風鈴の音(ね)が,「おと」ではなく「ね」であった。『日本人の脳』で。角田忠信氏が指摘した「日本人の耳」に通じることだと思う。

参考文献;
北村 音一「音の語源」(日本音響学会誌 50 巻 2 号)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
角田忠信『日本人の脳』(大修館書店)
https://okjiten.jp/kanji198.html
https://okjiten.jp/kanji196.html

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1

スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8

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