2018年03月12日
ツバキ
「ツバキ」は,
椿,
海石榴,
山茶,
と当てる。「サザンカ」の項,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/457793476.html?1520625823
で触れたように,中国では,「つばき」を「山茶」と書く。でそれが,「サザンカ」の「山茶花」に当てられたことは,書いた。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%84%E3%83%90%E3%82%AD
によると,
「ツバキ(椿、海柘榴)またはヤブツバキ(藪椿、学名: Camellia japonica)は、ツバキ科ツバキ属の常緑樹。照葉樹林の代表的な樹木。日本内外で近縁のユキツバキから作り出された数々の園芸品種、ワビスケ、中国・ベトナム産の原種や園芸品種などを総称的に『椿』と呼ぶが、同じツバキ属であってもサザンカを椿と呼ぶことはあまりない。」
とある。「サザンカ」で触れたことと重なるが,「ツバキ」は,「サザンカ」と違い,
花弁が個々に散るのではなく萼と雌しべだけを木に残して丸ごと落ちる,
雄しべの花糸が下半分くらいくっついているが,サザンカは花糸がくっつかない。
花は完全には平開しない(カップ状のことも多い)が,サザンカはほとんど完全に平開する,
子房には毛がないが,サザンカ(カンツバキ・ハルサザンカを含む)の子房には毛がある,
葉柄に毛が生えないが,サザンカは葉柄に毛が生える,
という。さて,「ツバキ」の語源であるが,『語源由来辞典』
http://gogen-allguide.com/tu/tsubaki.html
は,
「語源には、光沢のあるさまを表す古語『つば』に由来し、『つばの木』で『つばき』になったとする説。『艶葉木(つやはき)』や『光沢木(つやき)』の意味とする説。朝鮮語 の『ツンバク(Ton baik)』からきたとする説など諸説ある。漢字『椿』は、日本原産のユキツバキが早春に花を咲かせ春の訪れを知らせることから、日本で作られた国字と考えられている。一方中国では、『チン(チュン)』と読み、別種であるセンダン科の植物に使われたり、巨大な木や長寿の木に使われる漢字で、『荘子』の『大椿』の影響を受けたもので国字ではないとの見方もある。なお、ツバキの中国名は『山茶(サンチャ)』である。」
とある。『大言海』には,
「艶葉木(ツヤバキ)の義にて,葉に光沢あるを以て云ふか。椿は春木の合字なり,春,華あれば作る。或は云ふ,香椿(タマツバキ)より誤用すと。然れども,香椿は,ヒャンチンと,唐音にても云へば,後の渡来のものならむ。海石榴の如く,花木の海の字を冠するば,皆海外より来れるものなり」
とある。『日本語の語源』は,
「アツバキ(厚葉木)-ツバキ(椿)」
とし,『由来・語源辞典』
は,
http://yain.jp/i/%E6%A4%BF
「葉が厚いことから『厚葉木(あつはき)』、葉に光沢があることから『艶葉木(つやはき)』の意など、語源については諸説ある。『椿』と書くのは、春に花が咲く木の意で作られた国字。」
としている。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%84%E3%83%90%E3%82%AD
は,
「和名の『つばき』は、厚葉樹(あつばき)、または艶葉樹(つやばき)が訛った物とされている。」
としており,葉の厚さか,艶かのいずれかというところになるが,『日本語源広辞典』は,三説載せる。
説1は,「ツバ(唇)+木」。赤い唇のような花の木の意,
説2は,「ツハル(芽ぐむ)+木」。春の始め内部からツハル木,
説3は,「ツ(艶)+葉+木」。年中艶のある葉をもつ木,
『日本語源大辞典』は,上記以外に,
ツキヨキ葉の木の義か(和句解),
テルハギ(光葉木)の義(言元梯),
冬柏の意の朝鮮語ツンバクからか(語理語源=寺尾五郎),
葉の変らないところから,ツバキ(寿葉木)の義(和語私臆鈔),
ツ(処)ニハ(庭)キ(木),もしくはツニハ(津庭)キ(杵=棒)で,聖なる木,神木の意(語源辞典=植物篇=吉田金彦),
朝鮮語(ton-baik)(冬柏)の転(植物和語語源新考=深津正),
等々がある。ま,しかし,葉の特徴とみて,艶か厚さの何れかというのが妥当なのだろうと思う。
問題は,当てた「椿」の字である。
『広辞苑』は,
「『椿』は国字。中国の椿(ちゆん)は別の高木」
とするし,多く,中国では,別の木とする。「椿」(チン,漢音・呉音チュン)の字は,
「『木+音符春(シュン・チン)(ずっしりとこもる)』で,幹の下方がずっしりと太い木」
を意味し,センダン科の落葉高木。という別の木を指す。我が国では,「ツバキ」に当てたし,「闖入(ちんにゅう)」の「闖」に当てた誤用から,「不意の出来事,変ったこと」の意に用い,「珍事」に「椿事」,「珍説」に「椿説」と当てたりする(『漢字源』『字源』)。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%84%E3%83%90%E3%82%AD
によると,
「『椿』の字の音読みは『チン』で、椿山荘などの固有名詞に使われたりする。なお『椿』の原義はツバキとは無関係のセンダン科の植物チャンチン(香椿)であり、『つばき』は国訓、もしくは、偶然字形が一致した国字である。歴史的な背景として、日本では733年『出雲風土記』にすでに椿が用いられている。その他、多くの日本の古文献に出てくる。中国では隋の王朝の第2代皇帝煬帝の詩の中で椿が『海榴』もしくは『海石榴』として出てくる。海という言葉からもわかるように、海を越えてきたもの、日本からきたものを意味していると考えられる。榴の字は、ザクロを由来としている。しかしながら、海石榴と呼ばれた植物が本当に椿であったのかは国際的には認められていない。中国において、ツバキは主に『山茶』と書き表されている。『椿』の字は日本が独自にあてたものであり、中国においては椿といえば、『芳椿』という東北地方の春の野菜が該当する。」
とあり,
「『つばき』は国訓、もしくは、偶然字形が一致した国字」
というのが妥当だろう。しかし,これまでいろんな面で見てきた渡来人を含めた古代の人々の知識から見て,既存の「椿」の字があるのに,作字するとは思えない気がする。
http://www.sato-tsubaki.co.jp/name.shtml
には,
「一つの有力な仮説として『朝鮮語が転訛したものである』という説があります。これは、椿が中国の沿海諸島から朝鮮半島南海岸地方を経由して日本に伝播したとするもので、椿に当たる朝鮮語の冬柏(ton baik:トンベイ)が転訛して日本語の『椿(つばき)』になったという説です。また、当時『つばき』を海石榴と書いていたことも、この説を有力なものとしています(なお、海石榴は正しい漢名ではなく日本人の付けた名前だとされます)。
すなわち、この説によれば、つばきは海外すなわち朝鮮から入った石榴(ざくろ)の意味だというのです。三韓時代にはすでに朝鮮南部において、つばきの利用法や椿油の製法が発達していたものと推定され、わが国の椿油の貢献国(産油地でもある)がいずれも朝鮮半島に近接した地方であることから、これらと同時に『つばき』の名前がわが国に渡来したのだ、という訳です。)」
とある。これによれば,日本からの献上品の「ツバキ」が海石榴とよばれ,それが逆輸入されたことになる。サザンカと似た現象だが,「椿」の字が強く残ったのは,「椿」の字をすでに当てていたからかもしれない。
この「椿」が国字ではなく,
「『荘子』の『大椿』の影響を受けたもの」
とあるのは,
http://www.sato-tsubaki.co.jp/name.shtml
のいう,
「日本では朝鮮から来た石榴に似た木では漢名としては不合理なため、中国の架空の植物名で、迎春の花、長寿の花木である『大椿』の漢字を借りて、『日本の椿』にふさわしい『椿』の字を当てたものと考えられます。」
と,僕も思う。「大椿」は,『荘子』の「逍遥遊」篇の,
小知は大知に及ばず、小年は大年に及ばず
奚(なに)を以て其の然(しか)るを知る
朝菌(チョウキン)は晦朔(カイサク)を知らず
蟪蛄(ケイコ)は春秋を知らず
此れ小年なり
楚の南に、冥霊(メイレイ)なる者あり
五百歳を以て春と為し、五百歳を秋となす
上古、大椿(タイチン)なる者あり、八千歳を以て春と為し、八千歳を秋と為す
而して彭祖(ホウソ)は乃(すなわ)ち今、久(ひさ)しきを以て特(ひと)り聞(きこ)ゆ
衆人これに匹(ひつ)せんとする、亦(ま)た悲しからずや
(http://fukushima-net.com/sites/meigen/423より)
の,
上古、大椿(タイチン)なる者あり、八千歳を以て春と為し、八千歳を秋と為す,
から来ている。「大椿」は,だから,
中国古代の伝説上の大木の名。8000年を春とし、8000年を秋として、人間の3万2000年がその1年にあたるという。転じて、人の長寿を祝っていう語(『大辞林』『デジタル大辞泉』)。
という意味になる。ここから,人間の長寿を祝って言う,
大椿の寿,
という諺がある。これを知らなかった,とは思えないのである。
なお,ユキツバキは,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A6%E3%82%AD%E3%83%84%E3%83%90%E3%82%AD
によると,
「別名、オクツバキ、サルイワツバキ、ハイツバキ。主に日本の太平洋側に分布するヤブツバキが東北地方から北陸地方の日本海側の多雪地帯に適応したものと考えられ、変種、亜種とする見解もある。」
とある。ここから,数々の園芸種が生み出された。
参考文献;
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%84%E3%83%90%E3%82%AD%E5%B1%9E
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A6%E3%82%AD%E3%83%84%E3%83%90%E3%82%AD
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%84%E3%83%90%E3%82%AD
http://fukushima-net.com/sites/meigen/423
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
尚学図書編『故事ことわざの辞典』(小学館)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%
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