「スズメ」は,
雀,
と当てる。「雀」(慣音ジャク,漢音シャク,呉音サク)の字は,
「会意兼形声文字。もとは,上部が少ではなくて小。『隹(とり)+音符小』で,小さい小鳥のこと。」
とある。
https://okjiten.jp/kanji1699.html
にも,
「会意文字です(小+隹)。『小さな点』の象形と『尾の短いずんぐりした小鳥』の象形から、小さい鳥『すずめ』、『すずめ色(赤黒色、茶褐色)』を意味する『雀』という漢字が成り立ちました。」
とある。
『岩波古語辞典』は,
「スズは,鳴声から付けた名か。メはき鳥を表す語。ツバメ,カマメなどのメに同じ。Suzumë」
とし,『大言海』も,
「スズは鳴く聲,メは群れの約,或は云ふ,篶群(すずむれ)の義なりと」
としている。「倭名抄」には,
「雀。須須米」
とあるそうだから,かつては濁っていなかった感じである。『日本語源大辞典』は,
「『本草和名』には『和名 須須美』とあり,そのほか『観智院本名義抄』『色葉字類抄』『日本書紀古訓』にも『ススメ』『ススミ』の両訓があるから,古くはスズミの形も存在したと思われる。」
としている。
さて,その語源であるが,『語源由来辞典』
http://gogen-allguide.com/su/suzume.html
も,
「スズメの『スズ』は、その鳴き声か、小さいものを表す『ササ(細小)』の意味。『メ』は『群れ』の意味か、ツバメ・カモメなど『鳥』を表す接尾語である。現代では、鳴き声が『チュンチュン』と表現されるが、平安時代から室町時代までは『シウシウ』、江戸時代から『チーチー』『チューチュー』と表現され、『チュンチュン』へと移り変わっている。古代のサ行は『si』ではなく『ts』の音であったといわれ、『シウシウ』は現在の『チウチウ』に近い音であったと考えられる。『スズ』は第二音節が清音で『ススメ』『ススミ』と呼ばれていたため、『シウシウ(チウチウ)』という鳴き声を写したものが『スス』と考えても不自然ではない。また、小さな意味の『ササ』は『ススキ』の語源にも通じ、身近にいる小鳥であることから、『ササ(細小)』の説も考えられる。」
と,「スス」は鳴き声,「メ」は,群れないし小鳥の意,とする。『日本語源広辞典』も,
「雀の鳴き声(チュンチュン・チュウチュウ)+メ(接尾語,小鳥)」
説を採る。『日本語源大辞典』も,大勢,
スズは鳴き声から。メはムレ(群)の約(箋注和名抄・言元梯・名言通・本朝辞源=宇田甘冥・日本古語大辞典=松岡静雄・大言海),
スズは鳴き声から,メは小鳥の義(音幻論=幸田露伴),
もとはチュンチュンと小さく鳴く小鳥の総称であったもの(国語史論=柳田國男)
ススはシュシュという鳴き声から出たか(名言通・国語溯原=大矢徹),
スズロムレ(漫群)の義(日本語原学=林甕臣),
スズムレ(篶群(すずむれ))の義か(大言海),
スズはササに通じ,小の意か。メは鳥をいう古語(東雅),
おどりながらススム(進)ところから(日本釈名),
雀は心たけくススムものであるところから(和句解),
鳴き声派で,「メ」を接尾語として,勝手に解釈している気がする。「メ」がはっきり分からないからといって,都合よくこじつけるのはいかがかと思う。「ツバメ」の項,
(群れで採餌中のスズメ https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%BA%E3%83%A1より)
http://ppnetwork.seesaa.net/article/458420611.html?1522264236
で触れたように,『日本語の語源』は,音韻変化説をとり,「つばめ」について,こう述べている。
「『黒む』という動詞は『黒くなる。黒みを帯びる』という意味である。…春来て秋帰る燕は人家に巣くってかくべつ馴染みの深い小鳥であるが,大昔の人はこれをツバサクロム(翼黒む)鳥と呼んだ。『サ』を落としたツバクロムは『ロ』の母音交替[oa],『ム』の母音交替[ue]の結果,ツバクラメに転音した。(中略)さらに語尾を落としてツバクラ・ツバクロになった。(中略)ツバクラメの省略形がツバメである。(中略)筑後久留米(浜荻)・広島・愛媛・佐賀・長崎・香川県では,最古のツバサクロム鳥の省略語として,燕のことをツバサと呼んでいる。」
そして,スズメについては,
「『がやがや騒ぐ』ことをサザメクという。(中略)サザメキ鳥は語幹のサザメがスズメ(雀)になった。丹波国何鹿(いかるが)郡アササキ(吾雀)郷の地に式内社のアススキ(阿須須岐)神社があるのは,ササ・ススの転音を示唆している。」
とし,さらに,「カモメ」についても,
「鷗は夏,カムチャッカ・シベリヤ・カナダなどの海岸に繁殖し,冬は日本に現れて全国の海上に群棲している。翼が長くて飛翔力があるので,大昔の人はナガバネ(長羽)と呼んでいた。語頭の『ナ』を落としたガバネは,ガバネ・カマネに転化するとともに,『マ』の子音の順行同化の作用で語尾の『ネ』が子音交替[nm]をとげた結果,カマメ(鴎。上代語)になった。〈うなばらにカマメたちたつ〉(万葉)。
カマメ(鷗)はさらにカモメ(鷗)になった。津軽地方では,カモ[k(am)o]が縮約されてコメ・ゴメになった。」
と,一貫して音韻変化から説いている。この方が筋が通る。なお,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%BA%E3%83%A1
によると,
「中文(中国語)では『麻雀』と表記する。麻雀(スズメ)は中国の古典では小さな鳥の総称のように用いられた。」
とある。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95