「ニワトリ」は,
鶏(鷄),
と当てる。「鶏(鷄)」の字は,
「奚(ケイ)は『爪(手)+糸(ひも)』の会意文字で,系(ひもでつなぐ)の異字体。鶏は『鳥+音符奚』で,ひもでつないで飼った鳥のこと。また,たんなる形声文字と解して,けいけいと鳴く声を真似た擬声語と考えることもできる。」
とある(『漢字源』)。
https://okjiten.jp/kanji326.html
には,
「会意兼形声文字です(奚+鳥)。『手を下に向けてつかむ象形とより糸の象形と人の象形』(『つながれた人、召し使い』の意味)と『鳥』の象形から、家畜としてつなぎとめておく鳥『にわとり』を意味する「鶏」という漢字が成り立ちました。」
とある。『広辞苑』には,
「庭鳥の意」
とあるが,『大言海』は,「にはとり」の項で,
「庭つ鳥,鷄(かけ),と云ふ枕詞を,直に鳥の名とす」
とし,
「本名,かけ,又くたかけ。異名,ながなきどり,ときつげどり,あけつげどり,ゆうつげどり,うすべどり,ねざめどり,はたたとり。」
と書く(『日本語源大辞典』は,その他,四境祭の故事に基づき『木綿(ゆふ)付け鳥』とも言ったとする)。そして,
『本草和名』「鷄,爾波止利」
『名義抄』「鷄,ニハトリ」
を引く。「にはつとり」の項では,
「人家の庭に居る意。野つ鳥(雉)の如し」
とし,「鷄(かけ)の枕詞」として,
「家鳥,鷄(かけ)とも云ふ。後には,ニハトリと云ひて,直に鷄(かけ)のこととするも,これに起こる」
とある。そして「かけ」(鷄)の項で,
「鶏鳴を名とす,カケロの條を見よ。家鷄の音と暗号」
として,「ニハトリの古名」とする。「かけろ」の項では,
「鶏(にはとり)のことを,カケと云ふは,此の語に起こる。」
要は,鶏の鳴声,「コッケッコウ」から来た擬声語ということになる。ただ,『擬音語・擬態語辞典』によると,今日,コケコッコーと聞こえるが,
「室町時代までは,『かけろ』。…室町時代から江戸時代にかけて,鶏の鳴き声は『とーてんこー』。『東天光』『東天紅』の漢字が当てられ,当時の辞書にまで掲載された。」
とあるので,
カケロ→カケ→(カケの枕詞)庭つ鳥→ニハツトリ→ニハトリ→ニワトリ,
と転訛していったということになる。
(Japanese native chickens https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%AF%E3%83%88%E3%83%AAより)
『岩波古語辞典』は,「にはつとり」の項で,
「nifatutöri」
として,
「(枕詞)庭にいる鳥の意から『鷄(かけ)』に掛かる」
とある。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%AF%E3%83%88%E3%83%AA
には,
「ニワトリという名前については日本の古名では鳴き声から来た『カケ』であり古事記の中に見られる。雉を『野つ鳥雉』と呼んだように家庭の庭で飼う鶏を『庭つ鳥(ニハツトリ)』(または『家つ鳥(イヘツトリ)』)と言い、次第に『庭つ鳥』が残り、『ツ』が落ちて『ニワトリ』になったと考えられる。また『庭つ鳥』は『カケ』の枕詞であり『庭つ鳥鶏(ニハツトリカケ)』という表記も残っている。別の説では『丹羽鳥』を語源とするのもある。」
と整理されている。『語源由来辞典』
http://gogen-allguide.com/ni/niwatori.html
は,「にはちつとり」ならんであった「いえつとり」が,
「ニワトリを表す言葉には、『家にいる鳥』を意味する『イヘツトリ』もあったが,『万葉集』には『ニワトリ』の古名『カケ(鶏)』を意味する言葉として,また『古事記』にも『カケ』の枕詞として『ニハツトリ』は用いられているように,『ニハツトリ』の方が多く用いられたため,『イエツトリ』は消えていったと考えられる。古名『カケ』は,その鳴き声から名づけられたとされ,『神楽酒殿歌』に,『鷄はかけろと(泣)なり』の例が見られる。」
と,消えた背景を推測している。『日本語源大辞典』は,
「古くから人間の生活と密接に結びついてきたために,単に『とり』というだけで鷄を指すことが多い。」
としているが,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%AF%E3%83%88%E3%83%AA
によると,
「日本列島に伝来した時代は良く分かっていない。…日本列島におけるニワトリは弥生時代(紀元前2世紀)に中国大陸から伝来したとする説がある。弥生時代には本格的な稲作が開始されるが、日本列島における農耕は中国大陸と異なり家畜の利用を欠いた『欠畜農耕』と考えられていた。…ニワトリに関しては1992年(平成4年)に愛知県清須市・名古屋市西区の朝日遺跡から中足骨が出土している。以後、弥生時代のニワトリやブタは九州・本州で相次いで出土している。弥生時代のニワトリは現代の食肉用・採卵用の品種と異なり小型で、チャボ程度であったとされる。出土が少量であることから、鳴き声で朝の到来を告げる『時告げ鳥』としての利用が主体であり、食用とされた個体は廃鶏の利用など副次的なものであったと考えられている。」
とある。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95