2018年04月07日
くるぶし
「くるぶし」は,
踝,
と当てる。『広辞苑』によると,
くろぶし,
つぶぶし,
つぶなぎ,
とある。室町末期の「日葡辞典」には,
くるぶし,または,アシノクルブシ」
とあるので,この時期には,「くるぶし」と言っていたようだ。というのも,『岩波古語辞典』には,「くるぶし」は載らず,
つぶふし,
で載り,
「ツブ(粒)フシ(節)の意」
とある。「和名抄」を引き,
「踝,豆不奈岐(つぶなぎ),俗云豆布布之(つぶふし)」
とあるので,
つぶふし,
つぶなぎ,
が古称かと思われる。『大辞林』には,「踝」で,「くるぶし」の他に,
くろぶし 「くるぶし(踝)」の転
つぶなぎ (「つぶなき」とも)くるぶしの古名。つぶぶし。
つぶぶし (「つぶふし」とも)「 つぶなぎ 」に同じ。
と整理しており,新潟県の一部の方言に,「くるぶし」「くろぶし」と言っているようなので,古称が地方に残る例かと思われる。
http://www.yuraimemo.com/38/
も,
「古くは『つぶふし』と言ったそうです。『つぶ』はそのまんま粒、『ふし』は節の意味。『くるぶし』に変化したのは室町時代ころからのようです。江戸時代には『くろぶし』とか『くろぼし』とも言った」
としている。『江戸語大辞典』に,「くろぶし」が載り,
くるぶしの訛,さらに訛って「くろぼし」とも,
とある。『日本語源大辞典』は,
「古くツブナキ(ツブナギ),ツブブシ(ツブフシ)などと呼ばれていたが,中世後期にはクルブシが見られるようになる。このクルブシとツブフシの混淆などをもとにツクブシという形も一時的に生じた。近世後期の江戸では,クロブシ,クロボシという転訛形も現れ,軌範的なクルブシに対して庶民の口語語として使用された。」
とある。しかし,「つぶぶし」「つぶなぎ」と「くるぶし」とでは,その部分のとらえ方が違うと見るべきである。
『大言海』は,「くるぶし」について,
「樞節(クルルブシ)の約(萬葉集廿,三十一『久留(樞)に打ち刺し』足首を俯仰もせしむる間接なり)」
とある。「樞」とは「とぼそ」のことであり,
「蝶番を用いない開き戸の、回転軸となる軸材」(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%8F%E3%82%8B%E3%82%8B)
の意味で,
「扉を開閉する装置。扉の端の上下に短い棒状の突起(とまら)をつけ,それを上下の枠の穴(とぼそ)にさしこんで回転するようにしたもの」(『大辞林』)
ある。「樞(枢)」は,
くるる,
くろろ,
くるり,
とも言う。つまり,その箇所を,「粒」という外見ではなく,回転する「くるる」(樞)の機能に着目した名づけに転じたのである。それが室町後期ということになる。
『日本語源広辞典』は,だから,語源は,
「クル(くるくる)」+節」
つまり,くるくる回る関節,とするのである。「くるくる」という擬態語は,平安時代から見られる語で,奈良時代には,「くるる」と言ったとある(『擬音語・擬態語辞典』)。それが「くるぶし」に当てはめるのに,ずいぶん時間がかかったことになる。
『語源由来辞典』
http://gogen-allguide.com/ku/kurubushi.html
は,「つぶ」から「くるる」への転換を,
「古くは『つぶふし』と言い、『つぶ』は『粒』の意味、『ぶシ』は『節』の意味で、『つぶなぎ(『なぎ』は不明)』という語も見られる。『くるぶし』の語は室町時代から見られ、近世後期の 江戸では庶民の口頭語として『くろぶし』『くろぼし』とも言われた。その丸みが『粒』とは 言い難いため、『つぶぶし』の『つぶ』が『くる』に変わったと考えられ、『くる』は物が軽やか に回るさまの『くるくる』や『くるま』などの『くる』とおなじであろう。近年,くるぶしが露出するスニーカーなどの靴との組み合わせに用いられる靴下を,若者言葉で『くるぶしソックス』と言うようになり,単に『くるぶし』とも言うようになった。」
としている。なお,『語源由来辞典』の言及する,最近の「くるぶし」については,『日本語俗語辞典』
http://zokugo-dict.com/08ku/kurubusi.htm
が,
「くるぶしとは、スニーカーソックスのこと」
とし,
「くるぶしとは本来、足首の関節にある内外両側の突起部分のことだが、近年、この踝(くるぶし)が露出するほど短い靴下が流行っている。本来スニーカー・ソックスと呼ばれるものだが、これが若者の間でくるぶしソックスと呼ばれるようにり、後にそれを略してくるぶしと呼ぶようになった。」
と説いている。
なお,漢字の「踝」(漢音カ,呉音エ)は,
「果(カ)は,まるいくだものの実が,木になっているさまを描いた象形文字。踝は『足+音符果』で,丸い形をした足のくねぶしのこと」
と,外形に因っているのである。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
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